花言葉
665 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:21:03.79 ID:nlnDkMxc0
釈迦堂さんの純愛ロード発売(?)記念に投下
666 名前:花言葉・1[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:25:03.83 ID:nlnDkMxc0
朝。浜で地引網の手伝いをして朝食にありつき
午後から夜までは梅屋でアルバイトをして
まかないの食事で昼食と夕食をいただく。
(我ながら、よく続いてるぜ……こんな規則正しい生活ってなぁ
川神院にいたころ以来だなぁ。ま、悪くはねえ)
梅屋のバイトが終わって、橋の下のねぐらで寝転がりながら
釈迦堂形部は一人ぼんやりとそんなことを考えていた。
自分でも意外に思うほどに、今の湘南での暮らしが気に入っている。
ポケットから財布を出し、中身を見る。
地引網の手伝いで受け取った報酬が、いくらか溜まっていた。
少し以前なら、酒代かバクチにとその日のうちに消えていただろう。
(もう、買えるかな?)
欲しいものがあった。
今までは、欲しいものは力ずくで奪うか
汚い仕事で得た金で手に入れてきた。
けれど、これは。これだけは。
まっとうな仕事で得た金で、胸を張って買いたかった。
(ヘッ!まるで小遣いためて、オモチャを買おうとしてるガキみてえだな)
そう、子供の頃に帰った……いや、ひねくれた実際の自分の子供時代よりも
今のほうがよほど子供のようで。そんな自分が何だかおかしくて。
ニヤつきながら寝転がる。
(あの子の……おかげだなぁ)
満ち足りた気持ちで、眠りについた。
667 名前:花言葉・2[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:29:04.91 ID:nlnDkMxc0
「おはようございます、釈迦堂さん!」
「おう!おはよう、さくらちゃん」
「おじさん、生しらす丼一つお願いしまーす!」「はいよ、毎度ありー!」
翌朝。
いつものように、生しらす丼を元気に平らげる鵠沼さくらと、それを見守る釈迦堂がいた。
「ごちそうさまでしたー!」
彼女が食べ終わるのを待って、釈迦堂が声をかける。
「さくらちゃん、今日は午前中から店番だったよな」
「あ、はい……なので、今日はご一緒できませんね」
最近は、朝食の後、釈迦堂が梅屋のアルバイトに入る前に
二人で一緒にあちらこちらと散策するのが日課のようになっていた。
ちょっと残念そうなさくらに
「いや、いいんだ。後で、ちょいと店の方に寄らせてもらうわ」
「!はい、お客さんならいつでも大歓迎ですよ!それでは、私はこれで」
立ち去るさくらを見送る釈迦堂に、網元が声をかける。
「ほい釈迦堂さんよ、今日の日当。ちょいと、色つけといたぜ」
「え?……あれ、こんなに!?いいんですかい?」
「ああ、ここんとこ毎日来てくれて助かってるしな……ま、しっかりやんな!」
668 名前:花言葉・3[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:33:25.59 ID:nlnDkMxc0
昼少し前。花屋のある通りまでやってきて、釈迦堂形部の足が止まる。
(いいのかなぁ……俺なんかで……)
物陰から店先をうかがうと、さくらが鉢植えの手入れをしている。
ときおり、誰かを探しているかのように四方に目を配り
そして見つけることができずに少し肩を落とすのだった。
(いい子だよなぁ……やっぱり俺とじゃ、釣り合わねえよなぁ……)
ため息をつく釈迦堂の背後に一人の青年が立つ。
「何をしてるんですか、釈迦堂さん?さくらさんに、会いにきたのでは?」
大村ヨシツグ。鵠沼さくらの遠縁で、夏休みの間さくらの家に滞在している。
「ああ、まあそうなんだけどよ……なあ、ちょっと聞いていいか?」
「なんでしょうか?」
「その……お前から見て、俺とさくらちゃんって……どうよ?」
「美女と野獣、ですね」
「即答かよ!……でもまあ……そう、だよなぁ」
「ですが、野獣が美女と結ばれて悪いわけではないでしょう。
周りから見て野獣でも、彼女にすれば王子様なのかもしれません」
「よせやい。でもまあ、ありがとよ……よし、行くか!」
「気持ちが決まったのなら、早く行ってあげてください。さくらさん、待ってますよ」
669 名前:花言葉・4[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:37:26.64 ID:nlnDkMxc0
「……よっ」
「あ……いらっしゃいませ、釈迦堂さん!」
意を決して店の前に立ち、どこかぎこちなく挨拶する釈迦堂に
いつものように笑顔を返すさくら。
「あ、お買い上げいただかなくても、お客さんですからね?」
いつも『買わないから客じゃない』と
ひねたことを言う釈迦堂の先を越したセリフを
さくらがちょっとドヤ顔で言うと
「あー……いや、今日は本当に客として来たんだ」
「……はい?」
「そのハイビスカス……ハイ・ブラッディを売ってもらおうと思ってな」
「わぁ!とうとうお買い上げですね!ありがとうございます!
じゃ、すぐお包みしますね!」
「ああ、いや……包みとか、いいんだ。
持ってかえりてえわけじゃねえから」
「え?どういう……?」
キョトンとするさくらに、頭をボリボリとかきながら釈迦堂が答える。
「俺ぁ花の面倒なんか見られねえからよ。持ってかえったって枯らしちまうのがオチだ。
だから、その……さくらちゃんが、面倒みてくれればいい……
俺と一緒に、ずっとそばに置いといてくれれば」
670 名前:花言葉・5[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:41:27.51 ID:nlnDkMxc0
一瞬ぽかんとしたあと、言葉の意味を理解して真っ赤になったさくらは
ほんの少しうつむいて、黙りこむ。
釈迦堂形部が後悔しかけたとき。
『わたしはあなたを信じます』
ポツリとさくらがつぶやいた。
「……へ?今……何て?」
「ハイビスカスの、花言葉です……『わたしはあなたを信じます』。だから……!」
「うぉ!?」
ドン!とさくらが釈迦堂の胸に飛び込んでくる。
「わたしも、釈迦堂さんを信じます……きっと、幸せにしてくれるって……」
胸の中、潤んだ瞳でさくらが釈迦堂の顔を見上げる。
「さくらちゃん……俺なんかで、いいのかい?」
それには答えず、さくらが微笑みながらささやく。
「……ハイビスカスの花言葉、まだあるんですよ」
「へえ……どんなのだい?」
胸に受け止めたさくらを、おそるおそる抱きかかえながら釈迦堂が尋ねると
身をゆだねたさくらが幸せそうに答えた。
「それは……『新しい恋』……です……」
671 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2013/04/02(火) 23:44:07.22 ID:nlnDkMxc0
おしまい
釈迦堂さんの純愛ロードをDLしてない人にはまったくわからないですな
いや困った困った