私をプールに連れてって

613 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:20:42.80 ID:73V5l0Gs0
弁慶と「誰とも恋仲にならなかった未来」の延長で仲良くなるヤツ投下
614 名前:私をプールに連れてって・1[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:26:43.03 ID:73V5l0Gs0
昼休み。学食で昼食をとっていたら、弁慶と義経がやってきた。

「お、いたいた。大和、今日の放課後ってヒマ?」

藪から棒に弁慶がそんなことを訊いてきた。

「特に予定はないけど?」

「じゃ、ちょっと買い物つきあってよ。意見を聞きたいからさ」

「いいけど、何買うんだ?」

俺の意見を参考にする、となると……はて、何だろう?

「いやー、新しい水着をちょっとね」

「ゴメン無理」

女の子の水着売り場になんかノコノコついていくのは恥ずかしいし
意見を求められても困る。

「ほら見ろ弁慶、直江君だって困っているじゃないか」

「そもそも、俺の意見とか参考にならないだろ」

だいたい、二人ともスタイルいいんだからどんな水着だって似合うと思うのだが

「いやいや、男の目から見てどうかってのは重要だからねー。
 大和もさ、似合う似合わないじゃなくて
 こんな水着着てほしいって感じでアドバイスしてくれればいいから」

むむ。着てほしい水着ですか。そう言われると、けっこう頭の中に妄想が広がるな。
615 名前:私をプールに連れてって・2[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:32:43.06 ID:73V5l0Gs0
「わかった、俺でよければつきあうよ。
 けど、水着新調ってどこか海にでも行くの?」

「んー、今のところ特に予定はないんだけどね。
 もう去年の水着がサイズ合わなくなってきたし
 ルフロンのショップでセールやってるから、ちょうどいい機会だと思って」

……どの辺のサイズが合わなくなってきたというのか。
いや、ききませんよ?俺紳士だから。

しかし、そうか、予定はないのか……

「ルフロンね。あの大きなスポーツ用品売り場?」

「えーと、そうかな?実を言うと、あそこはまだよく知らないんだよね」

「了解、案内も兼ねてってことね」

「無理を言ってすまない直江君、では放課後にまた」「じゃあねー」

二人はご機嫌で学食を去っていく。しかし、水着選びと言われても
女の子の水着なんてビキニとワンピースぐらいしか区別がつかない。
これではついていっても役に立てそうにない。あとで誰かにきいてみるか……

「……というわけで、クラスでイチバン女モノの水着に詳しそうな
 お前に白羽の矢が立ったわけだヨンパチ」

「おう、タイプはもちろん、透けやすい素材までバッチリ把握してるぜ!」

「いや透けなくてもいいから。とりあえず代表的なタイプを教えてくれ」

これで予備知識も大丈夫だろう。放課後が楽しみになってきたぞ。
616 名前:私をプールに連れてって・3[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:38:43.19 ID:73V5l0Gs0
というわけで、やってきました川神ルフロン。
ほとんど駅の目の前にある、大型家電店とデパートを抱えたショッピングセンターで
俺が来るときはだいたい家電店のほうが目的だが、とにかく色々な店があるのだ。

「こういうところに来ると、川神は本当に都会だなと思う」

ルフロンの前で義経がため息混じりにつぶやく。

「大きな店も多いからね。今から行くショップもけっこう大きいよ」

目指す水着売り場のある8階までエスカレーターで上がる。

「おー」「うわー」「へぇー」

ずらりと並んだ、目にも鮮やかな水着、水着、水着。

「これだけあると、選ぶのも大変だよな」

「大和は、どんなのがいいと思う?……やっぱりビキニ?」

確かに、弁慶のグラマラスな肢体はビキニも似合うだろうが……

「俺的には、弁慶にはこんなタイプとかいいんじゃないかと」

紫のモノキニ。オーフロント。

「で、義経は……こんなのどうかな」

ライトグリーンのセパレートフィットネス。ボトムはローライズショーツ。

弁慶にはちょっと大人っぽく、ちょっと大胆なものを。
義経にはアクティブで健康的なものを選んでみた。
617 名前:私をプールに連れてって・4[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:44:46.31 ID:73V5l0Gs0
「へぇ……いいね、大和チョイス」「うん、こういうのが欲しかったんだ!」

お、意外にすんなり受け入れられた。

「じゃあこれで早々に決まりかな?」

「いや、まあコレは第一候補ってことで」

「急いてはことを仕損じる、だ、直江君」

ですよねー。女の子ですもんねー。

それから30分ほど
水着売り場をあれこれと手に取ったり眺めたりしている二人の後を
ただウロウロとついていく俺。そして最終的に

「うーん……やっぱり、最初に直江君の選んでくれた水着が一番いいかなー」

なんて結論が出たりするのである。いや、いいんだけどね。
ま、お役に立てたようで何よりだ、と思うことにしよう。

会計を済ませて店を出ると、ホクホク顔の二人とルフロンの中のカフェで一休み。

「あーあ……水着を買ったのはいいけれど
 まだ今年の夏は着る予定はないんだよねー」

チラ、と弁慶が流し目で俺を見る。

「俺も今のところ予定はないなぁ」

……まあ。
俺も何か誘うきっかけが欲しいところではあるのだが。
618 名前:私をプールに連れてって・5[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:50:43.23 ID:73V5l0Gs0
その「きっかけ」は意外に早くやってきた。

二人と水着を買いに行った数日後のこと。
学院からの帰り道、キャップのバイト先でもある川神書店に立ち寄る。

「お、来たな。ほれ、頼まれてた本」

以前、店長さんに頼んでいた
ヤドカリ飼育の専門書が見つかったという連絡があったのだ。

「おお、まさしく!いやー、絶版になっちゃってて
 ネットでも見つからないんですよこの本!ありがとうございました!」

「ヘヘッ、こっちもコレが商売だからな。はい毎度アリ!
 ……あー、そうだ兄ちゃん、こういうの、いるか?」

そう言って店長さんが差し出したのは……チケット?
覚えのあるホテルの名前が書かれているが……

「商店街の景品の残りもんでな。空港ホテルのプール利用券なんだけどよ。
 俺ぁこういう小洒落たところは苦手なんだよ」

「あれ、キャップにはいいんですか?」

「バンダナにも昨日声かけたんだが
 アイツもこういうところはあんまり好みじゃねえとさ」

まあキャップはホテルのプールよりは海だろうなぁ。

「てわけでな、期限切れになっても勿体ねえから、よかったら持ってきな」

「それじゃ、ありがたく!」
619 名前:私をプールに連れてって・6[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 22:56:43.11 ID:73V5l0Gs0
そして翌日。
おあつらえ向きのアイテムを手に入れたおかげで、誘うキッカケはできたのだが
おかげで授業に身が入らない。
どんなタイミングで何と切り出したものか
いやそもそも誘っちゃっていいのか……

そんなことを考えているうちに放課後になってしまう。
まあ……成り行きに任せることにしよう。
期待と不安が半々のまま、いつものように第2茶道室に向かうと
中からかすかに人の気配がするような。先客か……
ドキドキしながら扉を開けると

「……なんだヒゲ先生か」

「おいおい、なんだはねえだろ直江。
 だいたい、ここに来るのは俺とお前と……ああ、お目当ては弁慶だったわけね」

それには答えず、俺も座り込むと
ヒゲ先生が指で駒を指す手振りをする。

「どうだ、弁慶が来るまで一局」

「いや、今日はやめとくよ」

「なるほど……その顔、ようやっと口説く気になったってとこか?」

「まだそこまではいかないよ。
 もうちょっと仲良くなるきっかけができた、ってとこ」

「きっかけね。何かいいアイテムでも手に入れたみたいだな」

けっこう色々お見通しだなこの人も。
620 名前:私をプールに連れてって・7[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 23:02:43.06 ID:73V5l0Gs0
「……ホテルのプールかぁ。いいねぇ、俺も小島先生誘って行ってみてぇ」

「あー、ウメ先生は似合いそうな場所だねー」

「んでもって、レストランで食事してバーで一杯やって
 『部屋を取ってあるんだ』で決めるわけよ。いいよな、大人のデートって感じで」

「まあまずは誘うのに成功しないとね」

与太話をしているうちに緊張もほぐれてくる。
と、不意に茶道室の扉が開いた。

「こんちゃー。ダラダラしにきましたー」

思惑通りに弁慶が入ってきて座り込むと、入れ違いにヒゲ先生が立ち上がる。

「さて、それじゃ俺はそろそろ行くかな」

「あれ。私が来たら行っちゃうわけ?」

「これでも忙しいんだよオジサン。後の戸締り、頼んだぜ」

気を利かせてくれたのか、ヒゲ先生が出て行く。
扉を出るときに、グッと俺に親指を立てた拳を突きつけていった。

「……何、今の」

「男の友情の証」

「ふーん?それより、昨日はありがとね。そのうちお礼するからさ」

「いや、いいよ俺も楽しかったから」
621 名前:私をプールに連れてって・8[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 23:20:50.64 ID:73V5l0Gs0
「部屋に帰ってさ、あの水着、ちょっと着てみたんだ。
 自分で言うのもなんだけど、けっこうスゴイよアレ」

「スゴイってどんな風に?」

「ナイショ。まあ……後は着る機会だけって感じかな」

弁慶が上目遣いに俺をチラッと見る。

「それなんだけど……弁慶、ちょっといいか」

俺が居住まいを正すと、弁慶も座りなおして正座になって向かい合う。

「う、うん……何?」

「実は、こんなものを手に入れた」

胸のポケットから、昨日貰ったプールのチケットを取り出し弁慶に見せる。

「……プール?」

「ああ。空港のそばにある、九鬼財閥経営高級ホテルの、リゾートプール入場チケットだ」

「わぁ……いいね、ホテルのプールかぁ!うん、いいんじゃない?」

弁慶の目がキラキラと輝きだす。よかった、気に入ってくれたようだ。

「じゃ、よかったらこれ、貰ってくれ。弁慶と義経の分、2枚あるから」

チケット2枚を弁慶のほうに差し出すと、弁慶の顔が強張った。

「……え……どういうこと?」
622 名前:私をプールに連れてって・9[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 23:26:42.98 ID:73V5l0Gs0
「どういうこと、って……だから、これあげるって。
 プールとか海とか、行きたかったんだろ?
 あ、貰いもんだから遠慮しなくていいぞ?」

しばらく弁慶は黙ったままうつむいていたが
チケットを手に取ると

「あーそー!ありがとねー!
 せいぜい女二人で楽しんでくるから!じゃーね!」

なんか怒り出して、いきなり立ち上がると茶道室を出ていこうとする。
うーん、怒ってる顔もなかなか……ってそれどころじゃない。

「おい、待てよ弁慶。話は……」

「……バーカ!」

俺の制止も聞かず、去り際にアカンベーと捨て台詞を残し
バン!と勢いよく扉を閉めて弁慶は出て行った。
参ったな……と、頭を抱えているわけにもいかず
慌てて俺も後を追いかけ廊下に飛び出す。

弁慶は廊下の角で立ち止まってこちらを見ていた。
俺が出てくると、すぐに角を曲がって姿を消す。

俺は追いかける。追いかけてくるのを確かめながら弁慶は逃げる。

そんなことを繰り返しながら、校門まで来てしまった。
校門で弁慶は立ち止まり、俺が近づいてもそれ以上は逃げない。

「……言っておくけど、義経を待ってるだけで
 別に大和を待ってたわけじゃないからね」
623 名前:私をプールに連れてって・10[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 23:32:44.01 ID:73V5l0Gs0
まだ怒ってはいるようだが、とりあえず話は聞いてくれそうだ。

「はいはい。で、プールにはいつ行く?」

「大和には関係ないでしょ。私と義経と、二人で行くんだから」

「いや、俺も行くけど?」

「!じゃあ何でチケット2枚とも渡したの!?」

「あれ……チケットが2枚きりだなんて言ったか俺?」

胸ポケットから、最後のチケットを取り出してみせる。
そう、チケットは最初から3枚あった。
引っ掛ける気はなかったのだが、ついイタズラしてしまった。

一瞬呆気に取られた弁慶が、ため息をついてガックリと肩を落とす。

「もう……人が悪すぎるよ大和。もう少しでキライになるところだった」

「いや、スマン。あんなに怒るとは思ってなかったし」

「あのねー……それだけ、期待してたの。
 それを、あんな風に持ち上げてから落とされたら、そりゃ怒るって」

俺からの誘いを、そんなにも待っていてくれたわけだ。

「悪かったよ。それで、俺のことはもうキライになったかな?
 俺と一緒じゃ、プールには行きたくない?」

「ここで素直な返事しかできない自分が悔しいけど……
 私をプールに連れてって。そしたら、キライにならないでいてあげる」
624 名前:私をプールに連れてって・11[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 23:38:43.05 ID:73V5l0Gs0
一件落着か、と思いきや
つつつ、と弁慶が俺のそばに近寄ってきて

「イデデデデデデ!?ちょ、なんでつねる!?」

「引っ掛けられたお返し」

かと思うと、辺りを見回してから、俺の体にしなだれかかる。

「これは、誘ってくれたお返し」

弁慶は一筋縄ではいきそうもないな。ま、それもまたよし。

「けど、義経の分のチケットもあるってどうなの?」

「俺もそこは悩んだんだけどね。
 だから、そのチケットを義経に渡すかどうかは、弁慶の判断に任せるよ」

弁慶はいつも義経と一緒だが、これからは別行動も必要になってくる。
今回がそうなのか、チケット2枚を渡すことで弁慶に決めてもらうことにしたのだ。
手にしたチケットを見つめて弁慶が悩む。
恋と友情の板ばさみか。だが、悩んでいる時間はそうなかった。

「お待たせー弁慶ー!やあ、直江君も一緒か!
 ……あれ?それは……何かのチケットか、弁慶?」

校門の前に立つ俺たちの元に義経が走ってきて、目ざとくチケットを見つけていた。

「……3人で行くしか、なくなっちゃったみたいね」

弁慶は苦笑いをしているが、それもいいさ。今年の夏は、きっと楽しい夏になる。
まだ高い太陽を見上げながら、これから来る夏休みに心はもう飛んでいた。
625 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/04/13(金) 23:43:46.00 ID:73V5l0Gs0
おしまい
この後デートイベントで水着のお披露目
水着のデザインについてはそれぞれ「モノキニ」「オーフロント」
「セパレートフィットネス」のキーワードで画像検索をしてみてください

川崎ルフロンは実在するけど
羽田空港近辺や川崎にはプールがあるようなホテルはなかったかな
近いというなら品川プリンスあたりを想定してもらえれば