回れ回れ
551 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:16:50.96 ID:CCH1tg8w0
>>369からの続き お待たせステイシー
552 名前:回れ回れ・1[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:22:59.98 ID:CCH1tg8w0
「ファック!遅ぇーぞ大和!レディを待たせるなよな!」
九鬼財閥極東本部、正面ゲート前。
Tシャツにホットパンツという、ラフな格好のステイシーさんが
腕組みをして俺を待っていた。
「いや、ステイシーさんが早すぎなんですって。
……ほら、まだ待ち合わせの15分前じゃないですか」
つか、レディは「ファック」とか言わないよね。
「細かいこと気にしてんじゃねえよ。
早く出かけたかったから早く来たんだ私は。そういう可愛い女心を察しろっての!」
前回の休み、俺は李さんとちょっとしたデートをしたのだが
それを気に入らないステイシーさんが「私も誘え!」と言い出して
今日のデートとなったのである。
「で、今日はどこに連れてってくれるんだ?」
「特に決めてないですけど、普段休みの日はどういうとこに行ってます?」
「んー……ま、その辺ブラついて買い物してる程度かな。
李が一緒だとまた違うんだけど、なかなか一緒には休めないしさ」
意外に休日は穏健……というか地味なようだ。
となると、刺激的なところのほうがいいかもしれないな。
「じゃあ、今日は遊園地でもいきましょうか」
「えー?ゆうえんちー?オイオイ、こちとら大人の女なんだぜ?
デート先に遊園地はねえだろ遊園地はよー」
553 名前:回れ回れ・2[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:29:01.49 ID:CCH1tg8w0
「いっやぁー、すごかったな今の!な、次は何に乗る!?もう一回今のでもいいぜ!」
……何とかなだめすかして連れてきた遊園地だったが
入園したあたりですでに目がキラキラしてきて
最初にジェットコースター乗った時点でステイシーさん超ノリノリに。
ただでさえスタイル抜群の金髪美人で目立つのに
何かアトラクションに乗り込むたびに
大はしゃぎで「ロックンロール!」とか「ファック!」とか叫ぶので
やたらと周囲の目を引いていた。
しかし、喜んでくれるのはいいんだけど
こう何度も続けて動きの激しい乗り物に乗られると
つきあっている俺はちょっと身がもたない……
「ステイシーさん、ちょっと……休憩しない?」
「えー?なんだよあれぐらいでグロッキーか?
ま、腹も減ってきたし、んじゃメシにすっか?」
まだまだ元気なステイシーさんと園内のバーガーショップへ。
胃袋がひっくり返ったみたいで食欲のない俺とは対照的に
ステイシーさんはモリモリとハンバーガーをほお張っている。
「しっかし、大人でも遊園地ってのは楽しいもんなんだなー。
ちょっと馬鹿にしてたけど、認識改めたわ。
で、この後はどうする?別のとこ行くか?」
「え?遊園地、もう飽きちゃいました?」
「そうじゃねえけど、お前しんどそうだからさ。
デートってのは二人とも楽しくなきゃよ。だろ?」
554 名前:回れ回れ・3[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:35:02.25 ID:CCH1tg8w0
意外にも俺に気を使ってくれていた。
いや……今までのことをよく考えてみたら、意外でもないのか。
乱暴な口調とか、派手な行動とかに目を奪われがちだけど
こちらが本当に困っていたり弱っているときには
ためらわずに手を差し伸べてくれる。
根っこの部分は優しい、頼れるお姉さんなのだ。
「じゃあ、後一つだけアトラクション行きましょうか」
「後一つか……んー、何がいいかな……」
まだ乗っていない絶叫系が4つほどあるので
その中のどれにするか悩んでいる……のかと思いきや
「じゃ、コレでシメにしようぜ!」
バーガーショップを出てステイシーさんが向かったのは
メリーゴーランドだった。
「これでいいんですか?」
「コレがいいんだよ。昔っから好きだったんだ。今でも、な」
「はあ」
「なんだ、意外って顔してるな」
「あ、いえ、そういうわけじゃ……」
「ま、おかしいよな、こんな私が
こんな乙女チックなのが好きだなんてさ」
555 名前:回れ回れ・4[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:41:02.26 ID:CCH1tg8w0
ステイシーさんはメリーゴーラウンドを見つめてから、ポツリと口を開いた。
「コレってさ、止まらないだろ」
「え?ええ、回りっぱなしですね」
「たぶん、そこがいいんだろうな。
終わってほしくなかったものとか、サヨナラしたくなかったヤツとか
そういうのに、うんざりするほど出くわしてきたからさ。
終わらずに、止まらずに、ずっと回っていてくれるコレが、好きなんだ」
ステイシーさんの経歴を考えると、なんだか切なくなる話だった。
俺が切なくなるぐらいだったら
いろいろ思い出して欝になるんじゃないかと思ったが
「お、あの馬車のカッコしたやつ、あそこに乗ろうぜ!
アレなら二人並んで座れるからよ!」
要らぬ心配だったようだ。
「ホラ急げ急げ!乗り遅れるぜ!」
大人二人では窮屈な座席に無理やり乗り込む。
「感謝しろよー、こうやって私と並んでメリーゴーランド乗る男は
お前でまだ二人目なんだぜ?」
「二人目……?」
「さーあ回れ回れー!ロックンロール!!」
二人目……か……
556 名前:回れ回れ・5[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:47:03.06 ID:CCH1tg8w0
グルグルと回るメリーゴーランドのように
俺の頭の中もグルグルと回る。
二人目。
自分は、小さなことは気にしないと思っていたのに
たった一言が気になってしょうがない。
そりゃあステイシーさん美人だしスタイルいいし年上だし
陽気なアメリカンだし元は傭兵だし……仕方ない、よな……
「どうした難しい顔して。体がくっついちゃって緊張してるとか?」
ステイシーさんは相変わらず屈託がない。
俺ももう考えるのはやめよう。考えたって、どうしようもないんだし
今を楽しむことに集中しよう、うん。もうやめ。考えるのやめ。
気づくとかなり長い時間メリーゴーランドに乗っていた。何回転したことやら。
「あー、久しぶりに乗ったけどやっぱいいなー!
じゃあ、この後はお前が行きたいところにつきあってやるよ」
メリーゴーランドから降りて、遊園地の出口に向かう。
行きたいところかぁ。んー……特に思いつかないが
街中をブラブラするか、多馬川の川原でも散歩するか……
「あ、言っとくけど、変なところはダメだからな」
「変なところって?」
「だから……その……人気のない公園とか、ホテルとか……」
珍しくステイシーさんがゴニョゴニョと口ごもった。
557 名前:回れ回れ・6[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:53:04.63 ID:CCH1tg8w0
「いやそこまでまだ俺たち行ってないでしょ」
「あれ?デートってそういうもんじゃないのか?」
俺もファミリーの女子とデートっぽいことはたまにしてたけど
そういうもんじゃないと思う。
アメリカだとそういうもんなんだろうか?
いやなんかステイシーさんデートがよくわかってないっぽいけど
それってさっき言ったことと矛盾するような……ええい、わからん!
「前の彼氏とは、そうだったんですか?」
やけになってこんな質問を口走った。
言った後、しまったと思ったが後の祭り。
「は?前の彼氏?誰だそれ?」
……あれ?
いや、さっきのセリフは無意識に言ったことなので覚えていないのかも。
こういうことを詮索するのはよくないとわかってはいるけれど
ここまできたらハッキリさせておきたい。
「だから、メリーゴーランドに一緒に乗った初めての男の人ってのが……」
「ああ、それオヤジ。私がガキの頃はよく遊園地に連れてってくれたんだ」
……一瞬、思考が停止する。オヤジって、ステイシーさんのお父さんってこと……か?
「そっか、お父さんか……なーんだ。ハハッ!」
「な、何がおかしいんだよ!悪かったな男っ気のない人生送ってきて!」
558 名前:回れ回れ・7[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 20:59:04.23 ID:CCH1tg8w0
それから、ラ・チッタ・デッラで買い物したり
多馬川で遊んでいるうちに夕方になり、帰りの大扇島への地下トンネルで
思い出したようにステイシーさんがきいてくる。
「そういえばさ、やっぱり、最初の男ってのは気になるもんなのか?」
「……それは、相手次第かな。好きな人の過去は、気にはなりますよ」
「ふーん。意外に繊細なんだな……
あ、あれ?今何て言った?好きな人がどうとか……」
「気にはなりますよ」
「いやその前!」
「それは相手次第かな。
さあ早く帰らないと李さんが心配しますよ(棒)」
「誤魔化すなー!
くそぅ、こんな年下にいいように振り回されるとは!」
「振り回されたのはこっちですよ!」
ぐるぐる ぐるぐる
振り回したり振り回されたり。どっちにしても回りっぱなしだ。
やがてトンネルを抜けて、財閥本部の正面ゲート。監視の李さんに声をかけられる。
「お帰りなさい、大和、ステイシー。今日はどうでしたか?」
「メリーゴーランドでした」「うん、グルグルしてた」
「……はい?……な、何か新しいギャグでしょうか?」
559 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/03/19(月) 21:05:18.64 ID:CCH1tg8w0
おしまい
ステイシー√っぽいけど実はメインは悩める大和だったり
しかし李もステイシーも年齢わかんない
あずみがアレだから……