和解
499 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 21:51:54.36 ID:0tdyqAYG0
>>491からの続きでもう一本
500 名前:和解・1[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 21:57:55.51 ID:0tdyqAYG0
「よっ、大和。いいのかー、彼女ほったらかしでこんなところに一人で」
昼休みの屋上で、姉さんにつかまった。
「いいの。そんなに四六時中ベッタリしてるわけじゃないんよ、俺たち」
「ふーん。なんかアッサリしてるんだな」
昨日、ファミリーの皆に弁慶とつきあいだしたことを報告してから
やたらと姉さんが俺に絡んでくる。
弁慶のほうは、お互いの時間も大事にしようということで
普段はあまり変わりない。もちろん、会えばイチャつくしHもするが
確かにアッサリしているといえばそうかも。
と、屋上にさらなる訪問者が。
「お、モモちゃんに大和くん発見。相変わらず仲いいねー」
「燕先輩チーッス」「仲がいいかー……そーでもないんだけどなー」
「あれ、何かあったの?ひょっとして痴話喧嘩?」
「コイツ、姉である私にナイショで弁慶とつきあいだしたんだよ」
「ありゃま。いつの間に……ってほどでもないのかな。
放課後、よく二人でいたみたいだしね」
「なんだよ、気づいてたのかよー!教えてくれたら邪魔してたのにー!」
姉さんに邪魔されてたら、あのだらけ空間はさらにカオスなものになっただろうな。
「まあまあ、姉として祝福してあげなさいな。
それより、ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」
501 名前:和解・2[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:03:56.52 ID:0tdyqAYG0
「お、とうとう私と戦う気になったか?」
「いやいや、それはまた別の機会にってことで」
「ちぇー。じゃ、何だよ相談って」
「うん……最近、清楚ちゃんってどう?」
「あいかわらずカワユイな」
「いやそういうことじゃなく。ちゃんと話とかしてる?」
「ああ……最初はなんか遠慮がちだったけど
今は自分なりに折り合いつけたんじゃないか。普通になってるぞ」
「そっか……じゃ、私だけなのかなぁ……」
いつも明るい燕先輩がちょっと表情を曇らせる。
川神城攻略のとき、覇王モードだった葉桜先輩を
何とか城の外に連れ出して戦ってくれたのは燕先輩だ。
その後の関係に支障が出ても不思議ではない。
「葉桜先輩と、うまくいってないんですか」
「うん……何だか、避けられてる感じでね」
「燕は直接対決で清楚ちゃん倒しちゃったからなぁ。
清楚ちゃん、武人ではあっても武道家じゃないから
その辺の割りきりとか切り替えはできないんじゃないか?」
「そっか……私も、武道家として倒したわけじゃなかったからなー。
嫌われても仕方がないのかな……」
502 名前:和解・3[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:09:57.73 ID:0tdyqAYG0
「……ってなこと言ってたんだけどさ。
一緒に暮らしてて、その辺、葉桜先輩ってどうなの」
放課後の第2茶道室。
寝っころがっている俺の胸を枕に、文庫本を読んでる弁慶にきいてみる。
ヒゲ先生はいない。最近は忙しいのか、俺たちに気を使ってるのか
あまりここに来ることがなく、結果ここが二人でダラダラといちゃつく場所になった。
「どうなのって言われてもねー……あんまり変わらない気がするけど
私らは敵じゃなかったから、あんまり気にしてないのかもしれないし。
直接訊いてみた方がいいんじゃない?何だったら、今からウチ来る?」
ふむ。俺もあの時は葉桜先輩にとっては敵サイドの人間だったわけだから
俺への対応を見て参考にすることはできるか。
「じゃ、お邪魔するかな」
「オッケー。じゃ、ちょっと義経呼んでくるから、校門で待ってて」
弁慶がゴロンと転がって、軽くキスしてから起き上がって部屋を出て行く。
普段ダラダラしているが、行動すると決めると動くのは早い。
待たせても悪いし、俺も行くとするか。
校門で待っているとすぐに二人はやってきた。
「いいのか、弁慶?その……二人で帰ったほうがよかったのでは?」
「だって、二人で帰ったら途中で大和に襲われちゃうもの」
「そ、そうなのか直江君!?」
途中で大和を襲っちゃう、の間違いじゃないのか……
503 名前:和解・4[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:15:59.99 ID:0tdyqAYG0
義経も、事件後すぐは恐縮しっぱなしだったのだが
2-Sの連中がけっこうフォローしてくれたとかで
今ではわりと普通に戻って、こうして俺たちに気を使ってくれたりする。
「与一は?」
「んー、今日は弓道部に顔出してくって……アイツが、一番変わったかもね」
「うん……それも、直江君のおかげだ」
確かに、まだ皮肉屋な面は消えないが、投げやりなところはなくなってきている。
他人とも積極的に関わりを持つようになったらしい。
弓道部に出ていたりするのがいい証拠だ。
「あんな恥ずかしい説得させられたんだ。
それぐらい変わってもらわなければ割に合わないよ」
「?直江君、なぜあの説得が恥ずかしいんだ?」
「まー義経はそうだよねー。
……大和知ってる?義経ったら、テレビであの映像見て泣いちゃったんだから」
「ちょ、弁慶!?言わないって言ったのに!」
「ホント、大和は女泣かせだねー」
「な、泣いてない!ちょっと涙が出ただけだ!」
嬉しいような、恥ずかしいような。
そんな感じで、弁慶にからかわれながら歩くうち
大扇島の九鬼財閥ビルについていた。
504 名前:和解・5[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:22:01.24 ID:0tdyqAYG0
さて。来るには来たが、これからどうしよう?
そもそも葉桜先輩はもう帰っているのだろうか。
「なあ、葉桜先輩の部屋ってどこ?」
「この先だけど、まだ帰ってないんじゃないかな。
だいたい放課後一杯は図書室にいるらしいから」
弱ったな。葉桜先輩の様子を見て
場合によっては燕先輩を避けてる理由を聞き出すという目的があるのに。
「大丈夫だ直江君、葉桜先輩は自転車だから、じきに帰ってくる。
それまで義経たちと遊んでいればいい」
「そういうこと。じゃ、義経の部屋に行こ」
「ええっ!?こ、こういう場合、弁慶の部屋に行くんじゃないのか?」
「私の部屋だと、くつろいでHなことしたくなっちゃうので」
「そ、それはダメだ。学生らしく、節度を持ったつきあいを……」
「じゃあ義経の部屋ね」
「うう……墓穴を掘ってしまった」
葉桜先輩の部屋のドアに、俺が遊びに来ているとメモを貼ってから義経の部屋に。
着替えの間ちょっと部屋の外で待たされてから
「ど……どうぞ」
私服に着替えた義経に中に通された。
505 名前:和解・6[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:28:04.20 ID:0tdyqAYG0
初めて見る義経の私服とその部屋は……
「なんか、フツーなんだな」
普通の洋間、普通の調度品、普通の洋服。
もっと「和」の雰囲気かと思っていたが。
自分の部屋で着替え終わった弁慶も入ってくる。
「そりゃーね。普通に現代の女の子として生きてきたんだから
部屋も服も今風の普通で当たり前でしょ。あ、でも下着は和風か」
「下着って、胸にサラシを巻いてるだけで、下は普通の……(ゴニョゴニョ)」
「普通はサラシも巻かないよ義経。で、何して遊ぶ?」
「そうだな……トランプぐらいしか思いつかないが」
いつも持ち歩いているカードを取り出し、軽くシャッフルしてみせる。
「おおー……器用なのだな、直江君は」
「ま、特技ってほどでもないけどね。ポーカーでもしようか?」
「大和は駆け引きとか上手そうだけど、義経が全然ダメなんだよねー」
「じゃあブラックジャックのほうがいいかな」
そうしてしばらく3人で遊んでいると
『皆、いるのー?』
葉桜先輩が帰ってきたようだ。
506 名前:和解・7[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:34:51.08 ID:0tdyqAYG0
部屋に入ってきた先輩はいきなり
「弁慶ちゃん、直江君、おめでとう!」
なんてニコニコしながら言うのだった。
なんだか、以前とあまり変わらないような。
「や、どーも。そんなわけで、これからちょくちょく遊びに来ますんでヨロシク先輩」
どうやら俺に対してはわだかまりとかはないようだが
こうも屈託がないと、かえって燕先輩のことは聞き出しにくい。
あまりあの戦いの話を振るのも、義経がいるからやりづらいし……
「あーあ、いいなー弁慶ちゃん素敵なカレシができて」
ん。向こうからきっかけを作ってくれたかもしれん。この方面から攻めてみるか。
「そういう葉桜先輩だって、京極先輩とお似合いってもっぱらの噂ですよ?」
「京極君は、確かにいい人で素敵だけど……なんか、お兄さんって感じで、ちょっと違うかも」
「頼れる友達ってところ?」
「うん、そんな感じかな」
確かに、人に安心感を与えるという点では京極先輩はずば抜けてる感じがする。
「ウチの姉さんとかは、あまり頼れるってカンジじゃないですもんねー」
「そ、そんなことないよ?……まあ、頼れるっていうか……面白い友達?」
人にスリルを与えるという点ではずば抜けているんだけどなぁ。
507 名前:和解・8[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:41:57.35 ID:0tdyqAYG0
「面白いっていえば、松永先輩も面白い人だよね」
お、弁慶ナイスフォロー。相談したこと、覚えてくれてたか。
葉桜先輩の表情をさりげなくうかがうと……
ちょっと表情が硬くなったな。
やはり何か思惑があるのだろうか。
「いきなりカレーライスに納豆をかけられたときは、義経は本当に驚いた……」
「葉桜先輩は、燕先輩とも仲がよかったですよね?」
「え!?……え、う、うん……普通、かな?ほら、クラスも違うし!」
「いや武神と同じクラスだったはずだけど。
武神と仲がいいなら、その武神と仲がいい松永先輩とも顔ぐらい会うよね」
「あ……うん、そうだけど……」
「ひょっとして、川神城の戦いで負けたこと、根に持ってたりします?」
「!ね、根に持ってるわけじゃないの!ただ……」
「ただ?」
「あの……恥ずかしい負け方しちゃったから
あんまり燕ちゃんとは顔を合わせたくないなー、って……」
「恥ずかしい負け方?」「どういうことだろう?」「聞かせてもらえます?」
「うう……秘密にしておきたかったのに……
ほ、他の人には言っちゃダメだからね?」
508 名前:和解・9[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:48:41.30 ID:0tdyqAYG0
葉桜先輩が、どんな風に戦いが進み
どうやって決着がついたのか
そして最後、倒れた自分を京極先輩が迎えに来てくれたところまで
ポツポツと途切れがちになりながらも話してくれた。
「……」「……」「……」
「な、なんで皆黙るのよぅ」
「……本当に京極先輩のこと、お兄さんみたいにしか思ってないんですか?」
「最後のほうなんか、のろけ話にしか聞こえなかったよね」
「え、違ったのか?」
「違うってば!そりゃ京極君はいい人だけど
男の子としての好みはむしろ直江君のほうなんだから!…………あ」
一瞬、皆が固まった。
やがておもむろに弁慶がジト目で葉桜先輩を見て
「……へーえ?そーなんだー?」
「ち、違うのよ弁慶ちゃん!?あくまで好みのタイプだというだけだから!」
「いやあ、弱っちゃうねどうも」
「何……鼻の下伸ばしてる、の!」
「ぎゃ!?いて、ちょ、つねるな弁慶!?」
「……直江君も、大変だなぁ。義経は同情する」
509 名前:和解・10[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 22:56:10.90 ID:0tdyqAYG0
「……というわけで、葉桜先輩も怒っているわけじゃないみたいですよ」
翌日、放課後の屋上に燕先輩を呼び出して事の顛末を告げた。
呼び出したときに一緒だった弁慶もなぜかついてきていた。
「そっかー……ま、私もあの戦いのことはあんまり人に知られたくないのよね」
そういえば、葉桜先輩も燕先輩の武器のことを
弁慶や義経にきかれてもお茶を濁す感じでちゃんと話さなかったけど
ヒミツというのはその辺のことなんだろうか。
「何だったら、今から葉桜先輩のところ行ってみます?たぶん図書室にいるでしょ」
「あー……図書室だとホラ、京極君もいると思うんだよね」
む、確かにそれだと気まずいか。
「じゃあ、こっちに呼び出してみよう。それならいいですよね?」
「うん……そうだね、善は急げって言うし!お願い、大和君」
ケータイで葉桜先輩を呼び出すと、すぐに来てくれるとのこと。
何か声が上ずってたが。
「葉桜先輩、すぐ来るって」
「姿を見たら引き返しちゃうかもしれないから
最初は松永先輩は隠れていたほうがいいね」
「そうだね……ああ、なんかドキドキしてきたよ」
燕先輩が物陰に隠れてすぐに、葉桜先輩が屋上にやってきた。
510 名前:和解・11[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 23:00:11.35 ID:0tdyqAYG0
「あ……弁慶ちゃんも、一緒なのね」
俺と弁慶の姿を認めると、なぜかガッカリしている。
「それで、昨日の話の続きなんですけど……」
「!わ、私は別に弁慶ちゃんと争う気は……ま、まさか二股でもOKとか!?」
何か激しく勘違いなされている模様。
ていうか、昨日のアレってマジだったのか……?
「いやそっちの話じゃないし。そもそも、私は二股とか許す気はない!」
えーと……話がこんがらかる前に燕先輩に出てきてもらおう。
「燕先輩、出番です」
「ほーい!……や、清楚ちゃん」
呼ぶが早いか、待機場所からピョンと燕先輩が出てくる。
「燕ちゃん!?なんでここに……」
「それはね、私が大和君に頼んで呼び出してもらったの……
ちゃんと、謝っておきたかったから」
そう言うと、葉桜先輩の正面に立ち、深々と頭を下げた。
「あの時は、ごめんなさい!……あんな手を使うなんて、憎まれても仕方がないけど
できればまた、友達でいてほしいんだ。だから……」
葉桜先輩は黙って聞いている。
511 名前:和解・12[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 23:06:18.26 ID:0tdyqAYG0
二人は顔を突き合わせて何か話しているが
その雰囲気は険悪なものではない。俺の役目も、終わったかな。
弁慶の袖を引いて、そっとドアに向かった。
「それにしても、大和も意外におせっかい焼きだよね……
人の世話もいいけど、カノジョもかまわないと拗ねちゃうぞ?」
「……だらけ部室でも行くか」
「うん……今日はちょっと、ベタベタしたい気分」
屋上を立ち去りかけた俺たちに、背後から声がかかる。
「あ、待ってよ大和君!」
「いや、もう俺の役目は終わりでしょ。後は二人で……」
「まーまー、お礼ぐらいさせてよ」「こうして仲直りできたのは、直江君のおかげだもの」
「え、そう?じゃお言葉に……」
甘えて、と言いかけた俺を弁慶が手で制し
「悪いけど、大和は今から私とイチャつくことになってるんで」
険しい顔でスタスタと歩き出す。
仕方なく俺もその後を追いかけた。
「何だよ弁慶、せっかくお礼してくれるって言ってたのに」
「ん……ごめん、ちょっと警戒しすぎた、っていうか……
これが焼きもちってヤツなのかな」
512 名前:和解・13[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 23:12:20.96 ID:0tdyqAYG0
弁慶がうなだれている。自己嫌悪ってやつか。
「悪かった、もう他の女の子に鼻の下伸ばしたりしないから……
機嫌直してくれよ」
「いや、私も些細なことで大人気なかった。
よく、人の嫉妬を見て『見苦しい』って思ってたけど
いざ自分がそういう立場になったらコレだからね……」
「けど、そういうのも女の子らしくていいと思うぞ」
「……ありがと。屋上、戻る?」
「ま、今さらだろ。それに礼をされるようなたいしたことしてないし。
それより、ベタベタしたかったんじゃなかったっけ?」
「そうだね……うん、行こうか。私たちの『聖域』に」
今はまだぎごちなくて
ときどきこうしてぶつかったりもするけれど
あの場所に行けばなんとなく元に戻れる気がする。
「……今日はヒゲ先生来ないだろうな」
「大丈夫。実は、ナイショで内側から鍵をかけられるようにしておいた」
「やるなぁ。じゃヒゲ先生には悪いけど……
俺たちもゆっくり、仲直りさせてもらおうか」
もうすでに仲直りはできているけれど
だったらもっと仲良くなればいい。
二人並んで歩く茶道室への廊下は、暮れかけた秋空に赤く染まっていた。
513 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/03/09(金) 23:17:20.38 ID:0tdyqAYG0
おしまい
>>491からの続きであると同時に>>428と同じ世界線でもあるわけで
時系列が前後して投下してしまったけどご容赦
弁慶ルートの日常っぽいものを、というのと
清楚ちゃんが京極とはくっつかないよ、というフォロー
大和がフラグ立てすぎな気もするけど気にしない