その後の天衣さん

440 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 20:31:56.81 ID:yXc1+1zB0
設定で悩んだけど天衣さんモノ投下
441 名前:その後の天衣さん・1[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 20:37:57.59 ID:yXc1+1zB0
橘天衣さんが島津寮にやってきて1週間。
最初のうちはいろいろあった。

子供の投げたボールが窓ガラスを割りそうになったけど(天衣ファクター)
麗子さんが掃除のため窓を開けたので何も壊さずに反対側の窓から飛び出したり(キャップファクター)
逃げてきた暴れ牛が寮に突っ込んできそうになって(天衣ファクター)
たまたま通りがかった闘牛士の人に倒されたり(キャップファクター)
九鬼財閥の衛星兵器が誤作動して島津寮を標的にしてしまったけど(天衣ファクター)
発射の瞬間に某国の別の衛星が軌道計算ミスで突っ込んで事なきを得たり(キャップファクター)

日常レベルの小さなことから
災害レベルの大きなことまでいろいろあったが
とりあえず全て事なきを得ている。

「確かに……すごいな、この寮は」

「でしょ?ここにいれば、自然と運も向いてくるよ、橘さん」

今日はまだ何も起きていない。このまま平均化されてくれればいいのだが。

下宿代は九鬼財閥が払ってくれるというので
急遽1階の物置になっていた部屋を整理して、そこを橘さんの部屋としている。
家具などは皆で持ち寄ったりしたものでとりあえず済ませ
衣食住のうちの住はこれで何とかなった。

当座のお金も、最初に貰った分を落としたことを揚羽さんに説明したら
こころよく追加のお金をくれたらしい。これでしばらく生活に困ることはないはずだ。

「……とはいえ、いつまでも九鬼財閥のお世話になっているわけにもいかないから
 何か仕事を探したほうがいいと思うんだ」

「仕事か……何をやっても、うまくいかないからな、私は……」
442 名前:その後の天衣さん・2[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 20:43:58.52 ID:yXc1+1zB0
「まあまあ。プライドとかあるだろうけど、まずはできそうな仕事からやってみたら?」

もともと、能力的には優秀な人なんだろうけど
運の悪さから失敗続きで、すっかり自信をなくしてしまっている。
何か小さなことでもいいから、成功体験ができればいいんだけど。

「……ありがとう、大和。いちおう、求人情報誌を見てはいるんだ。ただ……」

「ただ?」

「これは、と思って電話してみると、だいたい応募が終わっている……」

なかなか、運勢を好転させるのは難しいなぁ。

「焦っても仕方がないよ。そのうち風向きも変わるさ。この後は、何か予定ある?」

「午前中に、麗子さんに頼まれていた営繕作業を済ませたので
 後は特に予定はないが……」

「じゃあ、今から俺と出かけない?このところ、寮にこもりっきりでしょ?
 たまには気晴らしも必要だよ」

「……この寮から出るのは……それに、一緒に出かけたら
 大和を私の不幸に巻き込んでしまうかもしれない」

「そうやって心配しすぎるから、かえって不幸を呼び込んじゃうとも考えられるよ。
 大丈夫だよ、もっと気楽にいこう。それに、仕事に出るようになれば
 イヤでも寮から外に出るようになるんだからさ」

「それはそうだが……はあ……在宅の仕事にしようかな……」

渋る橘さんを何とか説得して、島津寮を出た。
443 名前:その後の天衣さん・3[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 20:50:01.43 ID:yXc1+1zB0
並んで寮を出たのに、橘さんはいつの間にか俺の5メートルほど後ろを歩いている。
速く歩きすぎたかと思い、足を止めて待つと、橘さんも止まってしまう。

「も、もう少し離れて歩いたほうがいい」

「何で?」

「いや、何かあったとき、できるだけお前を巻き込まないようにだな……
 あと……やっぱりちょっと、恥ずかしい……」

「恥ずかしいのは我慢してください」

「あう……」

「あと、何かあったときには橘さんが守ってくれるよね?」

「まも……る……?私が……?」

「うん。橘さんなら、何があっても俺を守ってくれる。
 俺はそう信じてる。だから……」

戸惑っている橘さんに歩み寄り、腕を取って自分の腕に絡ませる。
強化股肱―義手とは思えない、暖かく柔らかな感触にちょっとドキリとした。

「あ、あの、や、大和?」

驚きながらも、腕は解かれない。

「こんなことだって、平気だ……ハハハ、ちょっと照れるけどね」

「けっこう、強引なんだな……わかった。私が、お前を守る。
 で、どこに行くんだ?」
444 名前:その後の天衣さん・4[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 20:56:03.55 ID:yXc1+1zB0
まずは近場から、ということで
俺はなじみの場所に橘さんを連れてきた。

「川神院……ここが、目的地なのか?」

「うん、とりあえずは、ね」

川神院は「厄除け」「厄払い」で有名だ。
神頼みのようだが、こういうこともしておくと、心理的に少し楽になれるらしい。
二人で門前町を大山門に向かって歩いていくと

「おーい、橘さーん……に、大和?」

「そうだった……川神院なら、お前がいるよな、川神百代」

姉さんに声をかけられた。ランニングの帰りなのか胴衣姿である。

「何だよ腕なんか組んじゃってさー。こ・い・つ・めー!」

「イタタタ……ね、姉さんだって俺と腕組むじゃん!」

ていうか、もっとスゴイ接触してくるよね?

「姉さん、か……二人は、仲がいいのだな……羨ましい……」

「まあ、『私の』舎弟ですから。で、今日はどうしたんですか?」

「私は大和に連れてこられただけで……大和、ここで何をするんだ?」

「お参りだよ。厄払いをして、橘さんに運が向いてくるようにってね」

「ああ、それはいい思いつきだな!じゃあ橘さん、私が案内しますよ!」
445 名前:その後の天衣さん・5[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 21:02:12.58 ID:yXc1+1zB0
大山門を通ってほのかに香の匂いのする境内を進み
お水屋でお清めをしてから大本堂前に。
姉さんに正式なやり方を教わって参拝を済ませると

「こちらにお守りがあるんで、是非どうぞ」

さすがに総代の孫娘。案内もてきぱきとしている。
一口にお守りといってもいろいろあるが
川神院で代表的なものはやはり厄除けと開運だ。

「じゃあ、これは俺からのプレゼントってことで」

厄除けと開運のお守りを買って橘さんに渡すと

「いいのか?……では、ありがたく」

よかった、嬉しそうにしている。
これだけでも、でかけてきたかいがあった。

「1年たったら、そのお守りはお札納めに来てくださいね」

「ほう……そういうものなのか……
 あまりこういうことはしてこなかったから、知らないことばかりだ」

「だったら、きっとこれで運が向いてきますよ!」

姉さんもなんとなく嬉しそうだった。近づいて耳打ちしてみる。

(ありがとう姉さん。橘さんには優しいんだね)

(ん……正直、好敵手が落ち込んでいるのは私もつらい……
 け、けどお前は私の弟だからな!そこは譲らないぞ!)
446 名前:その後の天衣さん・6[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 21:08:13.68 ID:yXc1+1zB0
いろいろ複雑な姉さんはスルーして橘さんを呼ぶ。

「橘さん、こっちのオミクジ、引いていきましょうよ」

「……いや、それはいい。
 オミクジでいいクジを引いた例がないんだ……」

やっぱりそうか。だがここで諦めはしない。
いや、諦めさせちゃいけない。

「仮に悪くても、言っちゃなんですけどコレまでどおりじゃないですか。
 引いてみれば、いい結果が出るかもしれないですよ。
 変わりたいなら、チャレンジしなくちゃ」

「!……わかった。やってみる」

橘さんはオミクジの箱に手を伸ばす。伸ばすが……そこで止まってしまった。
よく見れば小刻みに手が震えている。

「ハハ……情けないな、私は。こんなことが、怖いなどとは……
 いや、今日が今まで楽しかったから、余計に怖いのかもしれない」

その震える手に、近寄って俺の手を添える。

「な、何を……?」

「一緒に引きましょう。
 あなたが不運を引き当てるなら、俺が一緒に背負います。
 あなたの幸せも不幸せも、全部俺にわけてください」

オミクジ一つで言い過ぎたかな、とも思ったが
これぐらい言わないと橘さんには効果がなさそうだからな。
447 名前:その後の天衣さん・7[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 21:30:41.98 ID:yXc1+1zB0
「!……い、いいのか?……本当に、お前はそれでいいのか!?」

「かまわないよ。だって、俺のお姉さんだしね!」

「だーかーらー、お前のお姉さんならもうここにいーるーだーろー!」

「(聞こえないフリ)さあ、引いてみて、お姉さん」

「かーまーえーよー!」

手がゆっくりと伸びて一つのクジを引き、目をつぶって恐る恐る開いていく。

「こ、怖いから先に大和が見てくれ」

「うん……えーと……(ペラ)」

『末吉   何事も辛抱強く

     ・仕事運 特技にこだわらないほうが吉
     ・健康運 自己管理を怠るべからず
     ・恋愛運 行動あるのみ          』

「末吉だって」

「な!?……お……おおおおおおおおおおおおおおお!?」

俺からひったくる様にしてクジを取り
その文面を見て驚いているが、驚き方が尋常じゃない。

「何だこれ!?う、生まれて初めて『凶』でも『大凶』でもないの引いたぞ!?」

どんだけ不幸なんですか。
448 名前:その後の天衣さん・8[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 21:37:05.10 ID:yXc1+1zB0
「こ、これ、どうすればいいんだ百代!?」

「どうするって……木に結んだりしますけどー」

今まで引いた「凶」や「大凶」のくじはどうしていたんだろう。

「き、記念に持ってちゃいけないのか!?」

「いいんじゃないですかー。そういう人もいますしー」

姉さんはちょっとスネているが、後でフォローしておくことにしよう。

「そ、そうか!……フフフ……やった……やったぞーーー!!!
 ありがとう大和!ありがとう!!」

「うわ!?ちょ、橘さん!?」

盛大にバンザイをしたあげく、ピョンと俺に抱きついてくる橘さん。

「あ~~~!大和は私の弟なんだってば~~~!!」

反対側から俺を引っ張る姉さん。

「ちょ、死ぬから!四天王で大岡裁きごっことか死ぬから!」

「アハハハハハ!やった!私にも……とうとう私にも!」

「かーえーせーよー!」

「聞いて!お願いだから人の話聞いでででででででっ!?」

俺、今クジを引いたら「大凶」なんだろうなぁ……
449 名前:その後の天衣さん・9[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 21:43:07.74 ID:yXc1+1zB0
その夜。

「あー……まだ肩が痛い」

あの後、四天王による死の大岡裁きで死に掛けたのだが
たまたま通りがかったルー先生が止めてくれたおかげで
何とか生還を果たした俺だった。

と、ドアからコンコンとノックの音が。

「?どーぞー、開いてるよー」

こんな夜更けに誰だろう、と思っていたら

「えと……こんばんは、大和」

なんかモジモジしてる橘さんだった。

「その……れ、礼を言いに来たんだ。
 今日はすごく、嬉しかった。いいことも沢山あったし」

「いいことなら、これからだっていくらでもありますよ」

「う、うん……だから、その、いいことを……もっと、増やしたい」

そう言うと、橘さんは……服を、脱ぎ始めた。

「え、ちょ、何!?待って、え、どういうこと!?」

「……クジの恋愛運のところに『行動あるのみ』って書いてあったから」

「行動しすぎー!」
450 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/02/28(火) 21:49:06.37 ID:yXc1+1zB0
おしまい
Sの設定の天衣さんの話なので
大和はアニメのようなハーレム予備状態にはなっていないということで

ちなみに、自分の中ではこの後で
天衣さんは梅屋のバイトになり、釈迦堂さんと最強の梅屋伝説を作ったりする