命中!

403 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:03:09.82 ID:BzJDHDxk0
妄想大友焔シナリオ投下
長めなので連投規制に引っかかったら分割になりますが
404 名前:命中!・1[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:09:10.85 ID:BzJDHDxk0
日差しもまぶしい真夏の川神駅前。
目当ての人を探してキョロキョロしていると
後ろのほうから声をかけられた。

「直江くーん、こっちだー!」

人ごみの中、ピョンピョン飛び跳ねるようにして近づいてくる小柄な女の子。
その両腕には、巨大な荷物が二つ。

「すまん、出る改札を間違えてしまった……久しぶりだな!」

「うん、お久しぶり。すごい荷物だね……一つ持とうか?」

「あ、ありがとう……でも、重いぞ?」

「だったらなおさらだよ……うわホントに重い!これ、中身は例の大筒?」

「うむ!アトラクションで使うということで持参した!」

俺なんて一つ持って歩くだけでも腕がダルイのに
これを担いで走り回って戦ってドカンとブッ放すって
小さな体のどこにそんなパワーがあるんだろう。

「宅急便で送ればよかったのに」

「そ、そんなことはできない。これは西方十勇士としての誇りで
 分身のようなものだからな。人任せにはできないのだ」

「そっか。でも、大荷物抱えたままじゃ人ごみも歩きにくいし迷惑になるから
 まずは荷物置いてこようか。街の案内とかはその後で」

「わかった!よろしく、直江くん!」
405 名前:命中!・2[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:15:13.73 ID:BzJDHDxk0
彼女の名前は大友焔。
福岡・天神館に席を置く、俺と同学年で西方十勇士の一人。
小さな体でデカイ大筒を手持ちでブッ放す、豪快な女の子だ。
この6月に修学旅行で川神へやってきたときに
学校同士の東西交流戦なんていう企画で知り合ったのがキッカケで
今では頻繁にメールをやりとりする仲だったりする。

「川神院までは遠いのだろうか?」

「そうでもない……けど、ちょっと今日は暑いねー」

「大友は、暑い夏が好きだ。何といっても、夏は花火の季節だからな!」

8月になって、川神で開かれる多馬川の花火大会に
ヘルプと研修を兼ねて、家業が花火屋さんの大友さんが来ることになって
せっかくの夏休みだから、大会前に川神に乗り込んで遊んでいくことにして
話をしたら川神院に泊めてくれることになって……というのがこれまでのところ。

「大友さんは、自分で花火を作ったりするの?」

「うん、最近、作らせてもらえるようになった。
 今度の大会でも、一つ打ち上げを作らせてもらうことになっている」

なんて話をしているうちに川神院に到着。

「うわー……スゴイなー」

大友さんが大門を見上げてしきりに感心していると

「あ、来た来た。大和ー!大友ー!」

ワン子こと川神一子が中から駆け寄ってきた。
406 名前:命中!・3[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:21:17.46 ID:BzJDHDxk0
「オッス、大友!久しぶり!」「オッス、川神!しばらく厄介になる!よろしく!」

ゴツン、と突き出した拳を合わせての挨拶。
東西交流戦では直接対決をした二人だが
古くからの友人のように気があっている。
ワン子の案内で、大友さんに用意された部屋へ向かう。

「しかし大きな家だなー」

「家、というかお寺だし、他に修行僧の皆もここで生活してるんだから
 これぐらいは広くないとねー。それ、例の大筒?」

「うむ!弾も目一杯持ってきたぞ!」

そう言って荷物をバンバン!と叩く。ヤル気満々だ。

「それなんだけど……爺ちゃんが、ここで大筒の練習するのは勘弁してくれって」

「それはわかっている。練習は花火大会の会場予定地でするつもりだ。
 こんな立派な建物、うっかり間違って壊してしまったら大変だからな。
 その代わりといってはなんだが、川神院の稽古に参加させてもらうし」

「うん!それは爺ちゃんも大歓迎だって!
 でも、砲術使いでも組み手の稽古って必要なの?」

「普通は不要かもしれん。だが、大友は……
 その、弾切れしてしまったときとかを想定して、接近戦も強くなりたいのだ」

一瞬、大友さんの受け答えが歯切れが悪くなったような気がした。
まあ武術のことだから、素人の俺はあまり口は挟まないでおこう。
407 名前:命中!・4[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:27:18.80 ID:BzJDHDxk0
案内された部屋にひとまず荷物を置いた大友さんとワン子を連れて
再び川神の街へと繰り出した。

「そろそろ昼か……大友さん、好きな食べ物とか食べたいものとかある?」

「大友は何でも好き嫌いなく食べるぞ。あ、でも沢山食べられるところがいい」

「アタシも沢山食べられるところがいいわ!」

「ワン子にはきいてない。しかし……そっか、量のあるところか」

体小さいのになぁ。やっぱり武道やってるとそうなのかな。

「あ、なんだったらそこの梅屋でかまわないぞ。大友はけっこう好きなのだ」

「え!?う、梅屋はその……やめておいたほうが……」

「?何故だ?川神は梅屋が嫌いなのか?」

「いや、嫌いというか……あそこの梅屋は入りにくいというか……」

「なんでだよ。あそこで食い逃げでもしたのかワン子」

「そんなわけないでしょ!けど……うーん……」

「変なやつだな?まあ川神がどうしても嫌なら他所にしてもいい」

「そこまでは言わないけど……」

「珍しく面倒くさいこと言うな……大友さん、もういいから入ろう」

「あ、ちょ、待ってよ大和!……もう、しょうがないなぁ……」
408 名前:命中!・5[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:33:34.29 ID:BzJDHDxk0
「らっしゃい!3名様、お好きな……って、何だ一子か」

「えと、ご無沙汰してます」

素人の俺にも感じられるほどの威圧感を放つ店員さんが、ビミョーなスマイルで接客していた。
大友さんも、その威圧感に気づいたのか表情が強張っている。

「……え、ここ……梅屋、ですよね?」

「そうだよ?表の看板見ただろ兄ちゃん。んで俺はバイト店員」

こんな店員のいる梅屋はイヤだ……
思い出した。確か、元川神院師範代で、今は破門になってる釈迦堂ってオッサンだ。

「こ、こんなスゴイ人が梅屋の店員さん!?
 さすがは川神、街中にもこんな強者が普通にいるとは……!」

大友さんが驚いている。たぶんここの梅屋がちょっと特殊なだけなのだが。

「強者ねえ……ま、んなこたぁどうでもいいんで注文よろしく」

「あ、はい、では豚丼に単品とろろでお願いします!」

「お、お嬢ちゃんわかってるねぇ!気に入ったぜ!よーし、盛るぜぇ~、超盛るぜぇ~!」

「じゃあ、アタシもそれで!」

「よっしゃ!一子にも超盛りな!」

「……俺フツー盛りでいいんでカレ牛ください」

「……ノリ悪ぃなお前ェ」
409 名前:命中!・6[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:39:34.27 ID:BzJDHDxk0
「へい豚丼超盛りお待ちぃ!こちらとろろね!」

ドカンとカウンターに置かれた豚丼は
見ているこちらが胸焼けしそうなほどの大盛りだったが

「ごちそうさまでした!」

ワン子は俺がカレ牛食べ終わる前に食べ終わっていた。
一方で、大友さんはまだ豚丼と格闘している。ちょっと苦しそうだが……

「あー、ちょっと盛りすぎたか。嬢ちゃん、無理に食わなくてもいいんだぜ」

「い、いや、大友は……むぐ……沢山、食べて……
 体を、大きくしなければいけないので」

「ふーん……嬢ちゃんも、何か武術やってるね?けっこう鍛えてる体だ」

「は、はい……その武術のために、体を大きくしたいのです」

ああ、それで「沢山食べられるところがいい」ってことなのか。

「なるほどな。ま、気持ちはわかる。
 けどな、ちっこくても強いヤツはいくらでもいるし
 それにその若さなら、体なんてまだまだこれからできてくらぁ。
 俺が言うのもなんだが、あせらねえで、地道にやるのも大事だぜ」

……見た目のおっかなさほどは悪い人じゃないのかな。

「ありがとうございます!でも、せっかく盛っていただいたこの豚丼は
 この大友、必ずや平らげてみせます!」

「よし!やってみなお嬢ちゃん。バケツは用意しといてやっから」
410 名前:命中!・7[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:45:37.15 ID:BzJDHDxk0
何とか豚丼を全て平らげた大友さんだが
店を出てしばらくしたところで段々具合が悪くなってきてしまった。
近くの公園に緊急避難してベンチで休憩。

「すまない、直江くん、川神……でも、食べ過ぎただけだから
 胃が消化してしまえば大丈夫だ」

「結局食べきったもんねぇ……あの量なら俺なんか半分でも足りたわ」

「けど、なんでそんなにしてまで体を大きくしたいのよ?
 交流戦で見た戦闘スタイルからすると
 体が大きくなって敏捷性がダウンするのはマイナスなんじゃないかしら?」

「ワン子に聞いた話じゃ、大筒を抱えたまま戦場を走り回り
 敵に近づいてはブッ放していくんだっけ?」

「うん……恥ずかしい話だが、大友は、敵に近づかないと
 大筒を当てられないんだ……」

「え?」「そうなの?」

「本来は、あの大筒は濠を越えて敵の城を砲撃できるぐらいの射程がある。
 でも、大友が的に当てられるのはせいぜい20メートルなんだ」

「でも、あの砲撃のショックを
 ちゃんと踏ん張ってた耐えてたみたいに見えたわよ?」

「もちろん、大筒を支える腕力も、反動に耐える脚力も鍛えてはいるが
 大友は小さくて軽いから、どうしても発射の衝撃でわずかに体が浮いてしまう。
 そうなると、踏ん張りようもないし精密な砲撃はできないんだ」

なるほど。それで衝撃にも動じないだけの体格がほしいということなのか。
411 名前:命中!・8[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:51:38.61 ID:BzJDHDxk0
「砲撃に精度がないから、当たるところまで敵に近寄る。
 多少外してもダメージを与えられるように、焼夷弾で広範囲を攻撃。
 自分なりに考えていきついたスタイルだけど、本来の大筒のあり方じゃない」

仲間内じゃ「火力バカ」なんて呼ばれてるらしいけど
バカどころか考えていきついた弱点の克服法だったんだな。

「じゃあ、川神院の稽古に参加したいっていうのも……」

「うん。交流戦のときのように、接近戦に持ち込まれることも多いから
 その対処のためだな……ははは、西方十勇士なんて肩書きはもらったけど
 実はこんな……情けないヤツだったのだ、大友は」

肩を落とす大友さんを、ワン子がキッと睨みつける。

「そんなこと、ないわよ!
 今までだって、その戦い方で弱点をカバーしてきたんじゃない!
 それを情けないなんて言われたら、あの砲撃でアンタに全然近づけなかったアタシは
 もっと情けないってことになっちゃうわ!そんなの、絶対認めない!」

頑張り続けてきたワン子には、何か通じるものがあるのだろうか。

「そうだよ、大友さん。今ある弱点は、工夫でカバーして
 そして弱点そのものも克服していこうと頑張ってるわけじゃないか。
 全然情けなくなんかないよ。むしろ立派だと思う」

「う、うん……二人とも、ありがとう!
 見ていてくれ、いつか必ず、長宗我部や宇喜多のような、立派な体格になってみせる!」

「……いや、それはチョット嫌かも」

「何故だ!?」 
412 名前:命中!・9[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 23:57:38.73 ID:BzJDHDxk0
それから数日が過ぎた。
大友さんは、基本的には元気で勇ましい武士娘なのだが
ふとした折に見せる女の子らしいしぐさがとても可愛らしく
川神や七浜を案内しているうちに、段々と彼女に惹かれていった。
大友さんも、俺に好意を寄せてくれている……気がするのだが

(けど、花火大会が終わったら帰っちゃうしなぁ)

なんて悶々としている間にも月日は流れてしまい
とうとう明日が花火大会というところまで来てしまった。

今日は大友さんは朝からこの多馬川の川原で作業中とのこと。
どこにいるのか、ブラブラしながら探していると

「おーい、直江くーん!」

向こうから見つけて声をかけてきてくれたようだ。
声のするほうに目を向ければ
黄色と黒の警戒色のロープで囲われた広い場所で作業中の様子。
近寄っていいのかためらっていると
やがて作業も終わったのか、大友さんのほうからこちらに駆け寄ってきた。

「や。どんな様子なのかな、と思って」

「うん、作業はもう終わりだ」

「いよいよ、明日だね」

「う、うん」

大会が終わってしまえば、翌日には大友さんは帰ってしまう。
それでサヨナラ……にはしたくなかった。
413 名前:命中!・10[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:04:08.24 ID:9DQw3wU70
他の作業していた人たちはもう引きあげていて
この場には俺たち二人しかいない。

「大友が作った花火、大会のシメに最後に打ち上げてもらうことになったんだ」

「へえ……スゴイね」

「……直江くんのために作ったんだ」

「え、俺のため?」

「うん……テレビでも見られるとは思うけど、できれば生で見てほしい」

「俺のため、か……そりゃ絶対見なきゃね。
 でも、テレビ中継もあるんだ?」

「う、うん……だから余計に恥ずかしいのだ……」

「?……ああ、じゃああのクレーンはテレビカメラ用か」

会場のはずれに、先端にゴンドラをつけたやけに高いクレーンがセットされている。

「あれはテレビ局の人が設置していった。いろいろなアングルから撮影するのだな」

「あんな高いところからか……20メートルはあるなぁ。
 あんなに揺れてるんじゃ、カメラマンはおっかないだろうねー」

「?そんなに揺れるはずは……あれ?」

風に吹かれて、ゴンドラはゆらり、と揺れている。

「!た、大変だ!」
414 名前:命中!・11[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:10:10.15 ID:9DQw3wU70
いきなり大友さんが血相を変えてクレーンのほうに走っていく。
何かトラブルだろうか。俺もあわてて後を追う。

「やっぱり……固定用のワイヤーが1本外れてる!」

む……クレーンの先端から固定のために伸びているワイヤーは3本。
2本はピンと張られてしっかりと地面に繋がれているが
1本が地面から外れて、だらしなく垂れ下がってしまっている。

「このままだと倒れそうだな……って、おおおおお!?」

明らかにクレーンが傾き始めてる!?
残った2本のワイヤーに引っ張られてるのか!

「危ない大友さん、逃げなきゃ!」

「で、でもこのまま倒れたら、会場のほうに倒れてしまう!」

「く、確かに……」

あんなデカイものが倒れてきたら、せっかく準備した会場がメチャクチャだ。
何とか逆方向にでも倒れてくれれば……そうだ!

「大友さん、大筒はある!?」

「え?明日のために用意はしてあるけど……なんでだ?」

「クレーンの先端を大筒で砲撃して、会場と反対のほうに倒せないか!?」

「!……当たれば、できる……けど、的が高すぎて、大友には当てられない!」

「大丈夫、そこは俺が何とかするから大筒の準備を!」
415 名前:命中!・12[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:16:13.09 ID:9DQw3wU70
大筒を担いできた大友さんと土手の上に駆け上がる。

「よし、ここからなら反対側に倒せる。大友さん、準備は?」

「発射はいつでもできるが……とても無理だ……
 それに、外してしまったら対岸に弾が飛んでしまうかもしれん!」

「わかってる。体重が軽くて、砲身がブレちゃうんだろ。だったら……!」

ガバッと大友さんの背後から抱きつく!

「ひゃあ!?なななななな何を!?」

ジタバタする大友さんをそれでも抱え込んだ。

「ごめん大友さん!でも、これで俺の体重も加わったはず!
 これならいけるんじゃないか!?」

「そ、そうか!……よし……やってみる!」

大人しくなった大友さんが、大筒を構えて俺に叫ぶ。

「いつもの『国崩し』で使っている焼夷弾は
 花火に引火してしまうかもしれないから使えない!
 だから、今回は質量弾でいく!反動も大きくなるから
 しっかり、大友をつかまえていてほしい!」

「任せとけ!いつでもドンと来い!」

俺の返事を聞いてニパッと笑うと、大きく一つ息を吸って

「いくぞ!大友家秘伝!『城砕き』!でぇりゃあああぁぁ!!!」
416 名前:命中!・13[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:22:17.84 ID:9DQw3wU70
ズドーン!!

「ぐあ!?」「ぐ、ぬぬぬぬ!」

閃光。轟音。衝撃。熱風。
いろんなものが一度に襲いかかってくる。
これが大筒発射の衝撃か……!
飛び跳ねそうな大友さんの小さな体に
必死にしがみつきながら前方に目を凝らせば
爆炎と硝煙の雲を突き抜けて
炎の尾を引く弾丸が、今一直線にクレーン目がけて飛んでいく!

「行っけぇー!!」「当たれー!!」

…………バガァン!!

「やった!」「命中!」

ビィン!バチン!

残っていたワイヤー2本が音を立ててはじけ飛び
砲撃で壊れたゴンドラを載せたクレーンが
ゆっくりと倒れていく……狙い通り、会場の反対側に!

「そのまま……そのまま!」「倒れろ倒れろ倒れろ!」

ガゴーン!ガランガラン……ガシャン……

崩れ落ちるクレーン。飛び散る金属。もうもうとあがる土煙。
だが、そのどれも会場には影響しない範囲でとどまっていた。

「やっ……たああぁぁ!!」
417 名前:命中!・14[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:28:19.63 ID:9DQw3wU70
緊張が解け、ヘタヘタと二人ともその場にへたり込む。
う、なんだか耳……というか頭が発射の衝撃のせいかガンガンする。
大友さんは大丈夫なんだろうか?と様子を見れば
俺の腕の中で何だか体をもじもじさせている。
……俺の……腕の中?

「直江くん……その、そろそろ放してもらえないだろうか?」

イカン、まだ抱きしめたままだった!えーと……

「ごめん、ショックのせいか耳がよく聞こえないんだ!今なんて言ったの?」

「!そうか、慣れていないからな……そ、それなら……仕方がないな、うむ」

ごめん、ホントは聞こえてます。でも、もうしばらくこうしていたいんだ。

「……好きな男の子にこういう風にされるのは、恥ずかしいが、嬉しいものだな」

……え?

「直江くんを好きになってよかった……ハハハ、聞こえていないなら告白も気楽だな」

「……俺も、大友さんが好きだよ」

「!……あ、ありがとう……って、聞こえているではないかー!?」

「しまった嬉しくてつい返事を!?」

「もう……しょうがないなぁ」

クスクスと笑いながら、大友さんが背中を俺に預けるように寄りかかって
二人しゃがみこんだまま、しばらくそうしていた。
419 名前:命中!・15[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:36:16.75 ID:9DQw3wU70
花火大会本番。
俺は例年とは違い、風間ファミリーの皆とは別行動をとっていた。
昨日、お互いの気持ちを確かめあったのに
明日には大友さんは帰ってしまう。
少しでも一緒にいたい。そう思って大友さんの手伝いを買って出たのだ。

「軍手の替え持ってきたよ!」「ありがと!」

まあ手伝いと言っても飲み物を持ってきてあげたり
物を運んだりするぐらいしかできないのだが
ときどき顔を見合わせては笑ってくれる。

「次が最後だ!……直江くん」

「ん?何?」

ドーン!ヒュルルルルル……

「これが、大友の気持ちだ!よく見ててくれ!」

ドパーン!パパパパパ……

彼女が、俺のために作ってくれた打ち上げ花火が
真っ赤なハートの形に開いて夜空に燃え上がる。

「じゃあ……俺の気持ちも、受け取ってほしい」

大友さんの細い肩を両手でつかみ、正面から見つめあう。

「うん……受け取らせてもらう……」

夜空の花火に照らされて交わしたファーストキスは、少し火薬の匂いがした……
420 名前:命中!・16[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:42:16.14 ID:9DQw3wU70
夏休みも終わり川神学院も新学期。
それぞれがいろんな思いを胸に、また教室に集まってくる。

「おはよう直江くん。あれ、新学期そうそう何だか元気がないね?
 夏バテだったら、レモン果汁入りのスポンジケーキあるけど、食べる?」

「違うんだよクマちゃん。大和のヤツさ、夏休みに彼女できたのはいいんだけど
 いきなり遠距離恋愛になっちまって、それでへこんでるの。
 というわけで、そのケーキは俺様が食べよう」

「ガクトは夏バテしてねーだろ。けど遠距離恋愛かー。
 俺なんか近距離でも恋愛興味ねーから大和の悩みはわかんねー」

「だらしのないヤツだ。最初からわかっていたことではないか」

「それだけじゃないのよクリ、最初はマメにきていたメールが
 最近途切れがちになって、昨日は電話にも出てくれなかったんだって」

「ま、まあ向こうも新学期だろうから忙しいんじゃないかな。
 変にあせらないほうがいいと思うよ」

「ああ、ありがとモロ」

……やっぱり、遠距離恋愛ってうまくいかないのかなぁ。

やがて、いつもと変わらぬウメ先生が教室に。

「おはよう、諸君!」

HR開始を上の空で聞きながら、今日はメールどうしよう、とか考えていると

「さて、新学期早々だが、転入生を紹介する!……入れ、大友」
421 名前:命中!・17[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:48:17.94 ID:9DQw3wU70
……はい?大友?転入生?
そして教室に入ってくる、小柄な女の子。あれ?あれれ?

「大友焔だ!交流戦では敵同士だったが、今度は仲間だ!よろしく頼む!」

思わず、立ち上がっていた。

「そうか、交流戦で顔は合わせていたんだったな。
 急な転入話で、制服などは以前の天神館のままだが
 皆、ちゃんと面倒みてやってくれ……って何だ直江、立ち上がったりして?」

「いやだって全然聞いてないし!」

「すまない、直江くん。だが、どうしてもこちらに来たかったから
 館長やこちらの鉄心先生に、無理を承知でお願いしたんだ。
 なにぶん時間がなかったから、連絡が疎かになってしまった。
 驚かせるつもりはなかったのだが……」

「……あ、いや、その……気にして、ないから」

周囲を見れば、皆ニヤニヤと笑っている。いいさ、笑っておけ。
これから始まる幸せに比べれば、これくらいの照れくささ屁でもないわ!

「そうか!では、これからもヨロシク!
 やっぱり大友は、的に近づいて撃つほうが性にあっているな!」

「……もうちょっと近寄ったほうがよくない?」

「!……うむ!」

大友さんが俺の席まで駆けてきて、思いっきり胸に飛び込んでくる。
外しようのないゼロ距離砲撃に直撃されて、俺の新学期はスタートした。
422 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/02/21(火) 00:54:17.50 ID:9DQw3wU70
おしまい
15がダブってしまってスイマセヌ

実際にはデートイベントや二人で砲撃練習するイベントとかで
もっと肉付けしないといけないと思う
この後はアフターで、こうなれば直江大和の大筒が火を噴くのも時間の問題

「大和の大筒は……全然……ブレないな……」

「でも、支えてもらえると嬉しいな。はいどうぞ」

「うわ……まだこんな……全然、支える必要などないではないか」

「それは焔がかわいいから」

「……しかしこれは、大筒というより……」

「む。我が大筒の口径にご不満か?」

「スターマイン……」