噛みしめる
393 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/02/18(土) 23:57:55.60 ID:7kihEiNd0
マルギッテアフターで1本
394 名前:噛みしめる・1[sage] 投稿日:2012/02/19(日) 00:02:00.45 ID:FQ1U85qR0
ガゴン!ガゴン!ギギギギゴゴゴギギギ!
……日曜日の島津寮の平穏が、不意に起こった妙な音に乱される。出所は台所か?
「うわ、うわわわわわ!?」
「火が強すぎですクリスさん、ここは中火で炒めてください」
覗いてみると、クリスとまゆっちが何やらやっていた。
料理……なんだろうか。さっきのはまるで日曜大工でもしているような音だったが。
「何やってんの?」
「お騒がせしてます、大和さん」「大和か、今ちょっとまゆっちにうわぁこぼれたぁ!?」
こっちに余所見をしたとたん、フライパンの中身を盛大にブチまけるクリス。
『クリ吉ー、そういう余裕はもっと扱いに慣れてきてからなんだぜー』
「わ、わかってる!まったく、大和が妙なタイミングでくるから……」
そう言うと、クリスは再び手にしたフライパンに集中し始めた。
「俺のせいかよ……で、何してるわけまゆっち?」
「はい、クリスさんに、料理をお教えしてるところなんです」
「ほほう。まあいい加減、クリスにも家事を分担させるのはいいことだよな」
「あ、いえいえ、これはクリスさんのほうからお申し出のあったことで」
おや、自発的な行動だったのか。
395 名前:噛みしめる・2[sage] 投稿日:2012/02/19(日) 00:06:25.41 ID:FQ1U85qR0
「まあ家事を覚えるのはいいけど、なんで急に習いだしたんだ?」
今までも手伝おうという意志はそれなりにあったようだが
あまりに家事スキルがなくてぶっちゃけ足手まといだったので
皆も特に何もさせなかったのだ。
「それはクリスさんも教えてくれなくて。
とにかく『理由は言えないが家事を教えてくれ』の一点張りなんです」
「いいではないか、悪いことではないのだから。
まあその、あれだ、今までは皆に任せっきりだったからな。
改めねば、と思ったんだ」
ふむ。最近、特にそのことについてクリスを責めた覚えはない。
明かす気はないようだが、何か他の理由があるとすれば
やっぱり俺とマルギッテが付き合いだしたことなんだろうか。
『見直したぜクリ吉ー。でも手は止めちゃダメなんだぜー』
「おおっと、イカンイカン。なかなか料理というのも体力がいるな」
しかし、俺がマルギッテとつきあうことと
クリスが家事を習いだすことにどんな関係があるんだろうか。
「よし、できた!どうだ、見事だろう大和!」
「おお、いい匂いで旨そう。野菜のキムチ炒めか?」
「最後に、これを……こうして……」
「まだ何かあるのか……まあ頑張れよ」
396 名前:噛みしめる・3[sage] 投稿日:2012/02/19(日) 00:10:34.37 ID:FQ1U85qR0
「……てなことを、昼間クリスが言ってたよ」
「そう、ですか……クリスお嬢様がそのような……」
夜遅く、俺の部屋にやってきたマルギッテは、話を聞くと複雑な表情をしていた。
「どういう風の吹き回しなんだかな」
「おそらくは、私がクリスお嬢様のお世話をしなくてすめば
もっとあなたとの時間もとれるだろうとお考えなのでしょう」
「なるほど……気を使われたわけか」
確かに、学校に通って軍の任務もこなしてクリスの身の回りの世話までしていて
マルギッテはかなり多忙だ。
「ええ。これもまた、クリスお嬢様が成長されたということなのでしょう」
「そのわりには、あまり嬉しそうじゃないね」
「そうですね……私の手が必要なくなっていくのは、ちょっと寂しくもあるのです」
「……世話を焼いたり焼かれたりだけが、絆ってわけでもないだろう」
「はい……大和」
「何だい?」
「今日は……少し、甘えたい気分です」
ぽて、と寄りかかってくるマルギッテの髪をそっと撫でる。
夏の夜は静かにふけていった。
397 名前:噛みしめる・4[sage] 投稿日:2012/02/19(日) 00:14:35.25 ID:FQ1U85qR0
「あ、そうそう、忘れてた……はいコレ」
「……?それは?」
「これが昼間クリスの作った料理。マルギッテの夜食用にってとっておいた」
「ありがとう、大和。では、いただきます……もぐ……う!?」
野菜キムチ炒めいなり寿司。甘辛く煮しめた袋状の油揚げの中に
野菜のキムチ炒めが詰まっているクリスの意欲作だ。味のほうもかなり斬新だ。
まるっきり食えないほどではなくなったあたりが進歩といえるだろうか。
「……私の、夜食用?」
「うん」
まあ昼間食べ切れなかっただけなのだが
捨ててしまうのも何だし、俺だけが苦しむのは不公平だよね?
「えっと……後は大和がどうぞ」
「いや俺はもう昼間コレ食べたんで」
「私はクリスお嬢様の成長ぶりに、胸がいっぱいでもう食べられそうにありません」
「せ、せめて半分ずつ」
「仕方がないですね……もぐ……う、う……
も、もう少し、お嬢様のお世話は続けたほうがいいようですね……」
いつかクリスが姉離れをするとしても、それはもうちょっと先のことのようだ。
複雑な味のいなりを噛みしめながら、ちょっと嬉しそうなマルギッテだった。
398 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2012/02/19(日) 00:18:36.92 ID:FQ1U85qR0
おしまい
3でしんみりと終わってもよかったけど
あえてオチをつけてみた
マルギッテ可愛いよマルギッテ