心変わり

293 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:28:58 ID:BW+1gkmO0
Sのラフ画から妄想投下
294 名前:心変わり・1[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:32:59 ID:BW+1gkmO0
「大和さん大和さん」

「んー?なに、まゆっち?」

夕食後、お茶を飲んでいたらまゆっちに声をかけられた。
まゆっちは最近、茶道部に入部して、交友関係もそれなりに広まっているらしい。
特に、不死川心とは仲良くなっているようで
ときどき一緒に昼食をとっているのを見かけたりする。

「今度の日曜日、お時間はありますか?」

「ん……特に予定はないけど」

「えっと……実はですね、私、最近不死川さんと仲良くさせていただいているのですが」

あまり2-Fのメンバーとは仲が良くない不死川とのことなので
ちょっとまゆっちは遠慮気味に声を落とす。

「不死川さん、お休みでもほとんど外出はされないそうなんですよ。
 それで、私が一緒に遊びに行きませんか?とお誘いしたら
 とても喜んでくれまして」

「よかったじゃん」

「……なんですけど、私まだあまり川神や近辺に詳しいわけではないので
 うまく不死川さんをご案内できるか自信がないんです。
 それで、よろしければ……」

「ああ、オススメスポットとか知りたいわけ?」

「いえ、大和さんもご一緒していただけないかと」
295 名前:心変わり・2[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:37:01 ID:BW+1gkmO0
「は?」

「大和さんも、ご一緒していただけないか、と」「大事なことだから2回言うんだナー」

「いや、場所なら教えてあげるから。別に俺が行かなくてもいいじゃん」

「それがですね、色々買い物をするかもしれないので
 不死川さんが仰るには、どうせ案内されるなら、その……」

「……荷物持ち兼任のガイドを連れてこいってか」

「す、すいません!」「ゴメンよー大和っちー、まゆっち人の頼み断るの下手だからさー」

まゆっちなら川神案内もやぶさかではないが、不死川も一緒となると……

「つーか、何故に俺。荷物持ちって、俺よりまゆっちのほうが腕力あるんじゃね?」

「その、同性の私に荷物持ちをさせると、何だかイジメに見えそうだからイヤじゃ、と」

俺だと荷物を持たせてもイジメにはならないのか。

「すいません、他に頼める人が思い当たらなくて……」

……まあそうだろうなあ。ファミリーの男メンバーの中では
俺はそれほど2-Sの連中に悪い感情を持っていないが
他のメンバーとなると、ちょっと頼みづらいか。

「あの、どうしてもお嫌でしたら、私、不死川さんに謝って……」

「あー……まあ、いいよ、ヒマだし」

こうして、奇妙なデート(?)が日曜に予定されたのだった。
297 名前:心変わり・3[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:42:03 ID:BW+1gkmO0
「おはようございます、不死川さん」

「うむ、ちと遅れたか?」

「いえいえ、私たちも今来たところで」

「そうかそうか……で、なんじゃお前は」

日曜日の川神駅前。
待ち合わせに悠々と遅れてやってきた不死川心は
俺の顔を見るなりそんな反応をした。

「今日は、やま……直江先輩に案内をお願いしました」

まあ予想通りの反応ではあったが、あまりいい気はしない。
しかし露骨に嫌な顔をすれば、板ばさみになってまゆっちがかわいそうだ。
ここは大人の対応をしておこう。

「よろしく。せいぜい楽しんでもらえるように頑張ってみるよ(ニコ)」

「ほう、良い心がけ、気に入ったぞ。いつもその調子ならのぅ。
 で、どこに行くのじゃ?」

「それはまあ、どんな所に行きたいか次第で。
 色々考えてはきてるから、そちらの希望に沿うよ」

「そうじゃな、下々の者がどんなことをして楽しんでいるのか
 知っておきたいと思うのじゃが、黛はどうじゃ?」

「あ、私も余り遊びは知りませんから、興味あります」

「では、決まりじゃの。娯楽関係の案内を頼むぞ、直江」
298 名前:心変わり・4[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:46:06 ID:BW+1gkmO0
娯楽関係かぁ。
てっきりショッピングかグルメツアーになると予想していたのに。
そういうプランもちょっとは頭に入れてきたが
この場合ちょっと問題があるなぁ。

「えーと……じゃあまず着替えをお願いできるかな」

「は?」

「その振袖姿じゃ目立ちすぎるんでね。
 もうちょっと『下々の者』に混じっても
 違和感のない服装にしてもらえると助かるんだけど」

「イヤじゃ」

にべもなかった。

「此方を誰だと思っておるのじゃ。高貴なる不死川家の娘、不死川心なるぞ。
 下々の者の服など、着られるはずがなかろう」

体育のときはブルマはいてるじゃねえか、と思ったが黙っておく。

「でも、時代劇の主役のエライ人も、お忍びのときは庶民の姿に変装するだろ?
 でないと、下々の者はキンチョーしちゃって
 普段の姿を見せられないと思うんだよなぁ」

「む……まあ、変装であれば、仕方がないか。
 で、着替えは用意してあるのか?」

「いや、これから駅前デパートで見繕おう。まゆっちに見立ててもらえばいい」

「そうですね、不死川さんなら、何を着ても似合いますよ!」
300 名前:心変わり・5[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:50:11 ID:BW+1gkmO0
婦人服売り場。
あーでもない、こーでもないとかき集めた服を抱えて
試着室に入りこむと、何やらゴソゴソやっている。
ときおり、まゆっちが中の様子をカーテンに首だけ突っ込んでうかがっている。

「ま、黛?こ、これはちと、その……お、おかしくないか!?」

「う、後ろ前です不死川さん!こちらが前!」

……こういうとき、待ってる男って間抜けだなぁ。
何というか、いたたまれない気分だ。

「いちおう、終わったが……やはり此方には似合わぬのではないか?」

「そんなことないですよ、とてもお似合いです。
 さ、直江先輩にもお見せして……」

「イ、イヤじゃ!あやつ、見たらきっと笑うのじゃ!」

ヒソヒソ話のつもりらしいが聞こえてるぞ。しょうがねえなぁ、もう。

「おーい。笑わないからー、とにかく出てきてくれー」

と、不死川はカーテンから首だけ出して俺を見る。

「……まことか?」

「マコトマコト。笑わない。誓う」

不死川はしばらく俺の顔を見ていたが
やがて観念したのか、ゆっくりとカーテンを開いて試着室から……
出て、きた。
301 名前:心変わり・6[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:54:13 ID:BW+1gkmO0
「ど……どうじゃ?」

「…………」

上はノースリーブのストラップキャミ。
下はハーフパンツにサンダルという
涼しげな服装で出てきた不死川は……その……

(大和さん、何か言ってあげてください)

黙り込む俺のわき腹をまゆっちがヒジで突付く。

「え?あ、ああ……その……可愛いな」

「そ……そう、か?」

しまった見とれていてつい思ったことをそのまま口に!?

「ええ、先輩に対して失礼かもしれませんけど
 もうこんなに可愛らしくなるなんて。ホント、ステキですよ!」

くっそ、顔が熱い。
が、不死川はことのほかご満悦のようである。

「ま、まあ此方が着ればどんな服でも似合うのじゃが
 こういうのは初めてだったので、ちと不安だったのじゃ。
 だが……うん……可愛い、か……」

俺の言ったことを噛み締めるように、うつむき加減に頬を染めていたが
やがてニパッと笑いながら顔をあげた。

「さあ、これで準備はよかろう!直江、次なる場所へ案内せい!」
303 名前:心変わり・7[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 22:58:25 ID:BW+1gkmO0
ゲームセンター。

「あああ、クレーン行き過ぎた行き過ぎたコレどうやって止めるのじゃ!?」

ビリヤード。

「なんじゃコレ、棒術の稽古か?」

ダーツ。

「これはわかるぞ。あの的に当てればよいのじゃな?で、弓はどこじゃ?」

ボーリング。

「にょわああぁぁぁぁ!?(←指が抜けなかった)」

どれもこれも、不死川心には初体験だったらしく、一発目は失敗をし
そして持ち前の負けん気とカンのよさで
すぐに上達をして俺より上手くなっていった。
まあ、まゆっちなんかは同じ初体験でも最初から俺より上手かったりしたけど。

「見よ!これで……(ガコーン!)……パーフェクトじゃ!」

「お見事」

「ふふん、もう直江では勝負にならんの。
 では黛、いざ尋常に、勝負と参ろうぞ!」

「はい、及ばずながらお相手させていただきます」

こうして、不死川心は終始ご機嫌に遊んでいて
そして、気がつけば……俺もまた、すっかり楽しんでいた。
304 名前:心変わり・8[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 23:02:27 ID:BW+1gkmO0
「今日は、楽しかったぞ。庶民の遊びというのも、悪くないものじゃ」

あの格好で家に帰ったら、皆が肝を潰してしまうということで
不死川心はまた着物に着替えていた。

着物姿の不死川は、それはそれでいいのだけれど
せっかく身近になったのに、なんだかまた遠い存在になったような気がした。

「お洋服、どうしましょう?荷物になりますし、こちらでお預かりしておきましょうか?」

「いや……それぐらいは、自分で持って帰る」

「そうですか?」

「うむ。ではまたな、黛……と、直江?」

「ん?」

「……この服は、また誘われたときに着てくることにするのじゃっ!」

そう言うが早いか、心はクルリと背を向けて迎えの車へと走り去っていった。
見送りながら、まゆっちが俺にささやく。

「……大和さん、またお誘いしましょうね」

「俺はもう来ないよ。今日はまゆっちに頼まれたから特別」

「そうですか?……フフフ……なんだか、お二人とも可愛いです」

まゆっちにからかわれて、でもそれがそんなに悪い気がしない。
朝とはまったく逆の気分に心変わりをして、寮へ帰っていく俺だった。
305 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/26(水) 23:04:27 ID:BW+1gkmO0
おしまい
1枚のラフから妄想の翼がどんどん広がっていくのは自分でも楽しかったり