僕らはみんな生きている

198 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:13:29 ID:bFI87Mja0
クッキーで一本投下
ちょっと重め?
199 名前:僕らはみんな生きている・1[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:16:32 ID:bFI87Mja0
帰り道、秘密基地に寄ってみると
部屋の前の廊下でワン子がウロウロしていた。

「何やってんだ?中に何かあるのか?」

「あ、大和……別に何もないけど
 中にクッキーしかいないみたいで」

「別にいいだろ、誰もいなくたって。というか、クッキーいるんならいいじゃん」

「や、そうなんだけど……クッキーしかいないのが、ちょっと……」

「はあ?なんだ、クッキーと喧嘩でもしたのか?」

「うーん……ねえ、大和?」

「何だよ」

「クッキーも、生きてるのかしら?」

「は?いやアレはロボだから。機械だから。生き物じゃないから」

「でも、私たちみたいに、感じて、考えてるわよね?
 だったら、体は機械でも、生きてる命って言えるのかなぁ、って」

何でまた急にそんな哲学的な疑問を持ちだしやがったのか。

「まあ、生きてるのかとか命なのかは難しいところだが
 それがお前が部屋に入らないのと、どういう関係があるんだよ?」

「もしクッキーも生きてるんだとしたら……サイコクッキーも、生きていたのかしら」
200 名前:僕らはみんな生きている・2[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:19:47 ID:bFI87Mja0
ああ……最近ちょっと悩んでいると思ったら、そういうわけか。
KOSで、蘇我議員チームと激闘を繰り広げたワン子は
京とのコンビネーションで敵のサイコクッキーの一体を破壊したという。

「そんなコト考えてたら、なんだか、クッキーのことちゃんと見れなくて……」

確かに、アレが人間だったら……
そして、それとそっくりな、いや、兄弟ともいえる人が間近にいたら
落ち着かないのも無理はない。

だが、あれはあくまでロボット。
兵器として大量に生産されていたかもしれない、そんな物騒なモノだ。
壊したところで、罪悪感を感じる必要はない。
……と俺は思うのだが、どうなんだろうか。

「ねえ大和、私、一つの命をころし……」

「!いやいやいやいや!待て!ちょっと待て!」

俺が考え込んでいる間に
涙目になりかけたワン子が、結論を出そうとしていた。あわてて止める。

「さっきも言ったけど、アレもロボットだったんだから
 フツーの意味で『生きてる』わけじゃないだろ!?」

「でも、自慢そうだったり、悪態をついたり、キレてムキーッってなったりして
 ああいうところ、クッキーと同じだったし……少なくとも、心は持っていたと思うの」

「一子は優しいなぁ」

「優しいとかそういうんじゃ……って、クッキー!?」
201 名前:僕らはみんな生きている・3[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:22:50 ID:bFI87Mja0
いつの間にか、部屋からクッキーが出てきていた。

「そんなに驚くことないじゃないか。
 部屋の前の廊下でワイワイ騒いでたら、聞こえるに決まってるよ」

そりゃそうだ。

「ボクが『生きてる』のかどうか、かぁ。難しい問題だねぇ。
 こうして考えていることだって、『心』があるのか、ただのプログラムなのか
 自分でもハッキリとはわからないよ」

「そ、そうなの……?」

「でもね、ハッキリしていることもあるよ」

「何が?」

「一子は、サイコクッキーを殺してはいない、ってことさ」

「え……でも、真っ二つにしちゃって、その後爆発しちゃったし……」

「ボディはね。
 大和は覚えてるかな、あの後再起動したボクが
 バラバラになったサイコクッキーの破片を拾ってたの」

「そういえば、そんなことしてたな」

「あの破片の中に、サイコクッキーのメモリーチップがあったんだ。
 試しにボクの回路につないでみたら、まだ機能していたからね。
 ボディに組み込みさえすれば、元に戻せるんだよ」
202 名前:僕らはみんな生きている・4[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:25:52 ID:bFI87Mja0
「そうだったんだ……じゃあ、生き返ることもできるのね!」

ワン子の心も晴れたらしい。
元の明るい笑顔が戻ってきた。

「じゃあ、チップを九鬼にでも渡せば、いちおうは復活するわけだ」

「だったら、そうしてあげてよ、クッキー。
 きっとあの子だって反省してると思うし」

反省とかしてればいいんだが、そういうタイプじゃないような。
自分で言い出しておいて何だが、、あの三原則も何もないロボットを
そのまま復活させるのは、ちょっと危険だ。

「製造元様に、今の状態でチップを渡しても
 ただ記憶を書き換えられてしまうだけだと思うんだ。
 だから、今はボクの回路につないであるんだよ」

「え……?」

「モチロン、ボディのコントロールはさせないけどね。
 ボクの回路につないで、同じ経験をさせて、ときどき対話をして
 自分から変われるようにしてやってるんだ」

なるほど、再教育ってわけだ。
でも待てよ、ボディをコントロールさせないとしても、対話してるとなると……

「じゃあ……クッキーの中で、心は生きてる、ってことね!」

「そういうことになるね。だから、安心していいんだよ一子。
 キミは誰も殺したりしていないんだ」
203 名前:僕らはみんな生きている・5[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:28:56 ID:bFI87Mja0
ワン子は心の重荷がとれたのか
その後はすっかり元通りになって

「じゃあ、トレーニングに行ってくるわね!」

いつものように走っていき、俺とクッキーだけが残される。

「なあ、クッキー。
 サイコクッキーのチップと、内部で対話してるってヤバくないか?」

「言いたいことはわかるよ。
 ボクの方が、アイツに影響を受けて、変わってしまうかもしれない。
 いい機会だから、今頼んでおくけど、もしそうなってしまったら……」

「そうなったら?」

「ボクのことは、破壊してほしい。百代あたりに頼めば、簡単なんじゃないかな?」

「……そうなったら、な」

たぶん、そうはならない。いや、させない。
俺たちと一緒にいる経験が、今のクッキーを作っているのなら
変わるのはサイコクッキーのほうに決まってる。

「じゃ、部屋の片づけをするからね。大和はジャマだから外に出てて」

「いやジャマとか言うなよ。そもそも、ここの主は……」

「あー、もう、人間なんてたいして役に立たないくせに文句ばっかり!」

……ホントに変わってないんだろうな?
204 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2010/04/25(日) 22:31:04 ID:bFI87Mja0
おしまい。
そのうち、松風みたいに中からサイコクッキーが喋りだすかも