頑張っても変わらないものもある

148 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 22:02:30 ID:6ik6x+Yo0
百代ルートバレンタインもの投下
149 名前:頑張っても変わらないものもある・1[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 22:05:30 ID:6ik6x+Yo0
『ハーイエヴリバディ、今から自分でチョコレートを買っておいて
 誰かに貰ったことにしようなんて考えてる、サビシイ男はいないかな?
 校内ラジオ、LOVE川神が、始まるよー!』

今日は水曜日。昼休みになればいつもの校内放送が教室に流れ出す。
ガクトが何だかビクッとしていたが、見なかったことにしておいてやろう。

『パーソナリティは、小さな女の子からのチョコレートしか受けつけない
 2年の井上準と』

『後は野となれ山となれ!3年の川神百代だ』

『いやー、そろそろバレンタインですね』

『お前、なんかヨユーだな』

『いやぁ、義理はけっこう貰えるんですけどねー。
 そういう先輩も、女子からけっこう貰ってるそうで』

『そのことだが、この場を借りてちょっと言っておきたいことがある』

……なんだかイヤな予感がするなぁ。
教室、出ておいたほうがいいかなぁ。

『皆もすでに知ってはいると思うが、私は現在、2年の直江大和と交際中だ。
 今までのようにチョコレートを貰うのは、相手に対して失礼だと思う』

『ふむふむ』

『そこで、今年のバレンタインはチョコレートは受け取らないことにした。
 そのことを、あらかじめ言っておく』
150 名前:頑張っても変わらないものもある・2[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 22:08:30 ID:6ik6x+Yo0
……ザワッ

一拍おいて、微妙に教室内の空気が変わる。

「やるなぁ、大和。あのモモ先輩をシツケてるのかー?」

「今までのモモ先輩だったら、くれるモンは貰っとく、みたいな感じだったのにね」

「えー、じゃあ今年はお姉さまのおすそ分けはなしー?」

「犬は食べ物の心配しかしないのか……」

「キャップに貰えばいい」

「ヤダよ、俺は自分の分全部食うもんねー!」

ファミリーのメンバーは、いつもとさして変わらない反応なのだが
気のせいか、他のクラスメートの視線が微妙に刺さってくる。
すでに校内で俺と姉さんの関係を知らない者はほとんどいないが
改めてこうして発表されたりしたことで、何事か騒動が起きそうな。

「さて、ちょっとよそのクラスの知りあいに本を借りてこよう」

モチロン、嘘だ。そそくさと教室を出て
向かう先は放送室。
放送が終わって、部屋を出てくる姉さんを待つのだが……
すでに、先客がいた。それも10人以上。

「あっ、来たわよ!」「よくもまあノコノコと!」

姉さんの、取り巻き連中だった。
151 名前:頑張っても変わらないものある・3[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 22:11:37 ID:6ik6x+Yo0
おそらく、姉さんのチョコレート受け取り拒否宣言に抗議しにきたのだろう。
今さらだが、こういう事態は想定しておくべきだった……

「ちょっとアナタ、顔貸しなさいよ」

その中の3年らしき女生徒が俺をご指名。

「いや、俺は姉さ……川神センパイを待ってるんで」

「いいから来る!」

女子の集団に取り囲まれた。このまま俺をどこかへ拉致しそうな勢いである。

「屋上でいいよね?」「うん、そうしよ」

マジで拉致だった。相手が女子じゃあまり手荒に逆らうこともできない。
ワン子を笛で呼びだそうかと思ったとき

「何をやっているで候」

弓道部の前部長、矢場弓子先輩がその場に現れた。
確か姉さんとは友人として親しいはず。
こうなったら恥も外聞もない。助けてくれそうなら何にでもすがるぞ。

「すいません、この人たちに言いがかりつけられちゃって!」

「やれやれで候……
 皆、そのような真似をしても、今さら川神の心は戻らぬで候。
 ここは二人を祝福するのが、いい女というもので候」

そういうと、女生徒の集団をギン、と睨みつけた。
152 名前:頑張っても変わらないものもある・4[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 22:14:42 ID:6ik6x+Yo0
矢場先輩の一睨みで、女生徒の集団はすごすごと引き下がっていった。

「君もちょっと情けないで候。もっと毅然としているべきで候」

「いや、相手が女の子だからあまりキツク出るのもどうかと」

「優しさも場合によりけりで候……
 もっとも、その優しさが、川神を変えているので候」

そうかな。まあ確かに、丸くなった感じはする。戦闘衝動も弱まったし。
と、放送室のドアが開く。

「お、大和。出迎えご苦労……と、ユミ?」

「川神百代。貸した金の返済期日で候」

「げ!……じゃ大和、後ヨロシク!」

「あ、ちょ!待つで候!」

が、姉さんは止めるまもなく風のように廊下を逃げていった。

「……訂正するで候。アレは、まるで変わっておらぬで候。
 弟分として彼氏として、どう始末をつけるのか知りたく候」

「そうですね。ここは優しさは捨てて、説教してきます」

「ふむ……君がついていれば、大丈夫と思われるで候……頑張るで候」

微笑みを浮かべた矢場先輩を背に、姉さんを追いかける。
効果があるかどうかわからない、説教をするために。
153 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2010/02/14(日) 22:18:29 ID:6ik6x+Yo0
おしまい

この年のバレンタインでは
百代に渡らなかった分、矢場弓子に
女生徒からのチョコレートが集まることになるとは
大和も百代も、そして当の弓子も
このときは想像だにしていなかったという。

「……普通の恋愛がしたいで候」

「その喋り方やめれば男できると思うぞー」

「お主は早く借金返すで候!」