水槽の中

751 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/11/14(土) 23:56:29 ID:XERP34bN0
では姉さんもので締め
752 名前:水槽の中・1[sage] 投稿日:2009/11/14(土) 23:59:30 ID:XERP34bN0
文化祭も終わって、そろそろ朝の木枯らしが冷たく感じるようになった。
今日はここ数日のうちでも特に寒い。
学院に向かう皆の表情も、なんとなくこわばりがちだが
最後に合流してきた姉さんは、特に険しい顔をしていた。

「どーしたの姉さん。何か浮かない顔してるけど」

「ん……ちょっと、タケルが具合悪いみたいでな」

「?タケル、って……誰のことでしたっけ?」

まゆっち始め、皆が誰だっけ?という顔をしている。

「私が飼っている金魚。タケルって名前なんだ」

七夕のときの話だから、俺と姉さん以外はもう忘れてるのかな。

「モモ先輩が金魚?なんでまたそんな可愛らしいペットを。
 似あわねーよな、クマとかイノシシならわかるけど……グホァ!?」

余計なことを言ったガクトは姉さんの蹴りで宙に浮いていた。

「俺が七夕祭りのとき、金魚すくいでゲットして、姉さんにプレゼントしたやつだよ」

「ああ、あのときのかぁ。モモ先輩、ちゃんと育ててくれてるんだね」

「モロが色々調べてくれたんで、すごく助かったんだぜ」

昔だったら、面倒くさがって放りだしていたかもしれないけど
けっこう気に入って、大事にしてくれている。
こういうところも、微妙に変化してきているのかな。
しかし、今は具合が悪いという。ちょっと心配だな。
753 名前:水槽の中・2[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:02:31 ID:SVHejt6F0
「餌もあまり食べないし、なんというか生気がないんだ」

「ここ数日で、急に寒くなったからじゃないの?」

「いや、水槽にヒーター入れてるから、それはないはずだな。
 ……心配だから、今日でも見に来てくれ、弟」

「わかった、帰って調べてみてからそっちに行くよ」

「うん……頼りにしてるぞ」

俺に相談して、少し気が楽になったのか
その後は姉さんもいつもの明るい表情に戻った。

やがて退屈な授業も終わる。
姉さんは「タケルが心配だから」と
一人で飛ぶように帰っていった。

俺は休み時間にケータイで調べておいた
金魚用の治療薬などを仕入れに
ヤドカリの餌を飼ってる馴染みのペットショップへ。
ついでに、金魚の病気についても店の人に少し聞いておく。
……けっこう、デリケートな生き物なんだな。

と、ケータイが鳴る。姉さんだ。

「もしもし?どしたの?」

『大和、すぐ来てくれるか?……タケルが、死にそうかも』

む、ノンビリしてもいられなくなったか。寮には戻らず川神院に直行だ!
754 名前:水槽の中・3[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:05:33 ID:SVHejt6F0
「姉さん、タケルの具合どう?」

「それが……こんなことに……」

急いで川神院の姉さんの部屋にかけつけると
水槽の中で、タケルはお腹を上にひっくり返っていた。
姉さんはどうしていいのかわからないといった様子で
水槽を覗きこんではオロオロしている。

「……死にそうな魚って、こんな風にひっくり返るんだろ……」

「いや、ひっくり返ってるけど、まだ泳いでるし……これは『転覆病』かな」

「てんぷくびょう?」

「うん、こういう丸っこい金魚がかかりやすい症状らしい。
 症状が出ても、すぐに死んじゃうわけじゃないらしいから安心して。
 んーと……あれ、姉さん、水槽のヒーター切った?」

「いや、特にいじってないけど……」

「おかしいな、水温が下がりすぎてる……あ!コンセント抜けてるじゃん!」

水槽の裏側なんで気づかなかったのかな。後は、餌の問題か。

「姉さん、最近タケルの餌変えた?」

「う、うん……大和のくれた分が切れたから買いにいったら
 同じのがなかったんで、店で自分で選んでみたんだけど」

「それが合わなかったのかも。しばらく、餌はやらないでみよう」
755 名前:水槽の中・4[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:08:38 ID:SVHejt6F0
とりあえずの対処をして、しばらく様子を見ることに。

「……情けないなぁ。金魚の世話も満足にできないのか、私は」

「気にすることないって。
 俺も初めてヤドカリを飼育したときは、失敗ばかりしてたよ」

「……大和は、気づいてるかな。川神院って、ハトがいないだろ」

「へ?……ああ、言われてみれば」

普通、こういう大きなお寺とかは
よくハトが集まってるもんだけど、確かに川神院にはいないな。

「それって、私がいるかららしい」

「何ゆえ」

「動物って、本能的に自分より強い動物を避けるんだよ。
 犬や猫も、私にはなつかないだろ。
 私がいるから、ハトは怖がって寄ってこないんだとさ。ジジイが言ってた」

寂しそうに姉さんが笑う。

「それにな、自分より強い動物と無理やり一緒にいさせると
 ストレスが溜まって、寿命も縮むらしい。
 そういう意味じゃ、私なんか最強の武神って言うより、疫病神とか破壊神かもな。
 ……タケルがこんなになっちゃったのも、私と一緒に……」

「 違 う ! 」

姉さんが言い終える前に、俺は全力でそれを否定した。
756 名前:水槽の中・5[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:11:38 ID:SVHejt6F0
姉さんの肩を掴み、正面から見つめる。

「確かに強いヤツは怖いよ。おっかねーよ。
 俺だって、最初は姉さんが怖かったよ。けどさ……
 俺も、ファミリーの皆も、今は姉さんのこと、怖がったりしないだろ?」

「それは……仲間だから……」

「そうだよ!俺たちが姉さんが好きで
 姉さんが俺たちを好きでいてくれるから
 その強さを頼もしく感じてるんだ。支えになってるんだよ。
 ……だから、自分の強さを否定するようなこと、言わないで」

「でも、タケルは具合悪くなっちゃったし」

「姉さん、タケルのこと大事にしてきたじゃないか。
 タケルにだって、それは伝わってる。
 逆に考えようよ。ホントはもう死んじゃいそうなんだけど
 姉さんが見守ってくれてるから、タケルは頑張ってるんだって」

「うん……でも、弟にこんな説教されちゃってるようじゃな」

あの姉さんがここまで自信をなくしてしまうとは。
しょうがない……ちょっと深呼吸して、覚悟を決める。よし。
姉さんを抱き寄せて、唇を重ねる。

「ん……ちゅ、む……大和……もっとギュってして……」

「ギュ、だけでいいの?」

「ん……今日は、ちょっとな」
757 名前:水槽の中・6[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:14:49 ID:SVHejt6F0
「わかってる。今日は『アブナイ日』だよね。
 姉さんの『スケジュール』ぐらいは把握してるよ」

「うん……ゴメンな、慰めてくれてるのに……」

「でも、しちゃうから」

喋りながら、ソフトに姉さんの体にタッチしつづける。

「?……ゴム、持ってきて、る……?」

「いや……姉さん、子供作ろう」

姉さんの顔がキョトンとして、そしてすぐに真っ赤になった。

「ちょ、待て!お前、何言ってるかわかってるのか!?」

「わかってる。二人で育てよう。きっと強くて賢い子になるから」

「だから!……金魚も満足に育てられないんだぞ私は!?
 赤ちゃんなんか……無理、に決まってる……だろ」

何と言おうと、俺はやめない。姉さんならできる。そう信じている。
だから、実際に証明しよう。愛撫する手に熱がこもる。

「そ、それに、まだ……卒業、して……」

「たぶん、今ならそんなに目立たないところで卒業できるよ」

いつか通る道なら、今、無理矢理にでも……押し通る!

「う、はぁっ!?……もう、強引だぞ、お前……」
758 名前:水槽の中・7[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:18:52 ID:SVHejt6F0
その日から、俺は機会があれば姉さんに精を注ぎこみ
姉さんも結局は積極的にそれを受けいれていた。

が、ある日。

「せっかくその気になったのに、できてないってどういうことだッ!?」

姉さんに、生理が来ていた。

「どういうことと言われましても」

「おかしいだろ、アレでできてなかったら
 どんだけヤればいいんだよっちゅー話だぞ?」

機嫌が悪いのは、生理のせいなのか、できてなかったせいなのか。
……両方かな。
だけど、落ちこみからは立ち直ったんだから
無駄ではなかったハズ。

「まあ、こういうものは授かり物っていうから。
 きっと、俺たちはまだそういうタイミングじゃないんだよ」

「……これじゃ跡継ぎも心配だな。
 お前、弾数は多いけど実は空砲でした、とかじゃないだろうな?」

「なんですと!?」

……いいでしょう。どうやら本気の俺を見せるときが来たようだ。
もう、泣こうが腰抜かそうが失神しようが許しませんよ?」

そんな二人の思惑を知ってか知らずか
部屋の片隅の水槽の中では、青文魚が悠々と泳いでおりましたとさ。
759 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/11/15(日) 00:21:12 ID:SVHejt6F0
終わり。そして二人の激闘が始まるのだが
隣の部屋のワン子はどうしているのだろうか。

ちなみにこれで475KB。次スレよろしくです。