ゲンさんと大和とチョコレート

606 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 08:09:45 ID:LE7Egx8X0
時期外れも甚だしいバレンタイン物投下
誰得! 京得!
607 名前:ゲンさんと大和とチョコレート1[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 08:12:03 ID:LE7Egx8X0
 バレンタイン。
 ごく一部の勝ち組にこれまたごく一部の負け組が、己のふがいなさ欠点には目をやらずひがみそねみねたみ怨嗟の声をあびせ呪詛を吐くイベントである。
 もちろん大多数の一般人にとっては何ら一般行事と変わらないが。
 そして彼女持ちの大和は当然勝ち組グループに所属していた。
 
 義理チョコもほどよく貰い、彼女である由紀江からはお手製の本命チョコをもらい。
 京からは、今にも九十九神に化してしまいそうなほど念のこもったチョコを貰い。
 意外なところでは忠勝からも貰っていたりした。しかもお手製である。

 それは巨人から頼まれた話で、
「付き合いだ、職場で配るぞ。なにバイト代は払う」
 職場というのが巨人が密かに支援している孤児施設であることは、忠勝も承知しているので、バイト代は貰わず引き受けたのだ。

 人に配るのであれば納得のいくものを作られねばならない。
 忠勝はそういう男である。
 料理は得意であるが、菓子作りとなると何度も試行錯誤をかさねた。
 そしてもうほぼ完成品となった物を大和に味見させたのだ。
「な、なんなんだ。……この口に入れた瞬間に広がる華やかで豊かな風味と蕩けるような舌触りは! チョコとも思えぬ芳醇な香り。甘ったるいだけではなく、それを引き立てる苦みも最後には広がる。……まるで朝霧につつまれた森を散歩してる気分や!」
 その甲斐あってか完成品は大和のテンションが少し変になるくらいのクオリティーで。
「あんたは天才や! 菓子作り界の神の子や!」
「勘違いするなよ。別にてめぇのために作ったんじゃねぇんだからな。……茶はいるか?」
「おねがい」
「……紅茶がいいか。砂糖は控えめにしとくぞ」

 バレンタインの後にはホワイトデーが控えている。
 恐怖の三倍返しデーである。
 しかし三倍返しが基本とはいっても、十円チョコを渡された相手に実直に十円チョコを三つ渡して返すことは許されない。言語道断である。
 チョコを出した瞬間に冷ややかな目線が浴びせられることは間違いなく、口ではありがとうなどとのたまいながらも腹の中では所詮この程度かという失望がうず巻いていて、七十五日間もの間陰口の種を提供することになりかねないからだ。
608 名前:ゲンさんと大和とチョコレート2[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 08:14:27 ID:LE7Egx8X0
 かといって渡さなければ渡さないで好感度減少は免れない。
 まさに外道イベントなのである。

 今年も大和は頭を悩ませていた。
「(ツテを頼ればチョコは手に入るが……ちょっとばかり痛い出費だな……)」
 金銭に困窮しているわけではないが、余裕があるわけでもない。出費はできるだけ抑えたい。
 頭に浮かんだのが、手作りチョコである。
 男からの返しが手作りチョコというのもあれな気がしなくもないが、市販の箱やラッピングをすればなんとかなるだろう。
「ゲンさん。今いい?」
 忠勝の部屋をノックする。
「ちっ、……こっちも暇じゃねぇんだよ」
 がらりと扉が開く。
「用件は長くなんのか? ……茶菓子を持ってくるから待ってろ」
 菓子作りは下手だから由紀江に聞け。そういう忠勝をなだめつつ、チョコ作りの質問をする。
 口数は少ないものの、はっきりとわかりやすく忠勝も説明する。
 店で買うよりは安くあがるが、味や見た目は腕次第だとのこと。
「菓子作りをなめんじゃねえ。…痛い目にあうぞ」
「ゲンさんほどのクオリティーは求めてないから。市販品と同じようなのができればオッケーだよ」
「…好きにすればいい」

 菓子作りを甘くみていたことには、大和もすぐに気がついた。
 基本が分かっていれば本も役には立つ。が、門外漢の大和に効果があるかは疑わしく、レシピ通りにやっても再現にはほど遠く、そもそもレシピに書かれている言葉の意味をいちいち調べる必要もあった。
 暇つぶしも兼ねてと合間合間に作っていたのだが、ホワイトデーが間近に近づいても出来あがらず、最初のうちは静観していた忠勝もじれったくなったのか、見かねて口を出し始める。
「なってねえな。…かしてみな。……勘違いするなよ。てめえに台所を占拠されると迷惑だからだ」
 決して自分が作るわけではない。あくまでやり方を見せるだけだ。
 違いはすぐに出た。
「…美味くはねぇな」
609 名前:ゲンさんと大和とチョコレート3[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 08:50:41 ID:LE7Egx8X0
 それから幾度か試作を重ねただけで、
「だが不味くもねぇ。これくらいなら人様に渡せるんじゃねえか」
 
 忠勝から直接手ほどきを受けたこともあり、味見た目共に、市販品と遜色はない。
 評判も上々だった。
 試作段階で失敗作を重ねたので、当初より出費はかさんだが、それでも購入するよりは安かった。 

「まったくゲンさんのおかげで無事に済んだよ。ありがとう」
「俺はただ教えただけだ。…あれはお前が作り上げたものだろう。感謝される義理はねえ」
「いやいやゲンさんがいなけりゃ作れたなかったもん。これは俺からの感謝の気持ちです」
 ラッピングされた包みを二つのばす。
 忠勝はしかめつらを崩さないまま見つめている。
「余計なことしやがって。気にするなったら気にしないでいいんだよ」
「そんな大層なものじゃないから。…お茶入れるね」
 自ら茶を入れようとする忠勝を押しとどめる。
 つつみのひとつはお礼に、と買ってきたクッキーである。
「どこの店だ?」
 そこまで有名な店ではないが、名前を聞いただけで忠勝にはすぐにわかったらしい。
 忠勝は眉間にしわを寄せたまま、注意深くクッキーを眺めにおいを嗅ぐ。
「アレルギーでもあったっけ?」
「いや、そうじゃねえ」
 クッキーを歯先で半分ほどかじり口に含む。舌の上や、舌先で破片をキャンディーのように弄ぶ。
 それからお茶を一気に飲み干し、腕組みをしたま黙り込んだ。
 忠勝がクッキーを目前に難しい顔をして考え込む。
 妙に緊張感がある空気も合って、なんだかとてもシュールな光景だった。
 だんだんとおかしさがこみ上げてくる。けれどそのあまりにも真面目な顔に、大和は耐えを耐え、忍びを忍ぶ。
610 名前:ゲンさんと大和とチョコレート4[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 09:11:05 ID:LE7Egx8X0
 ふいに忠勝は軽く舌打ちをして、
「…うめぇ」
 呟くようにもらした。
 大和は噴き出す。
「何がおかしい」
 怯んで怖じ気づきそうなほどのするどい眼光で睨み付ける。 
 けれど、今の大和には逆効果で、笑いは止みそうにない。
 忠勝はもう一度舌打ちをして、そっぽをむいた。
「いやぁ…悪くはないよ。…なんていうかゲンさんらしいと思って」
「そうかよ」
「それで、もう一つの袋なんだけど、チョコです」
 ホワイトデーに作ったチョコだ。
「そこまでの味じゃないんで、気持ち程度に」
「謙遜するな」
「料理は味よりも気持ちが大事なんだ。…腹が減ってればなんだって美味いだろう。それと一緒だ。気持ちがこもっているってことが一番の美味しさなんだよ」
「いやそれ不味いっていってるようなものだから」
「だから、不味くはないって言ってるだろ。……うめぇよ」

 なんていうか、胸キュンを感じた。
 これまでに感じたことのない胸のときめきを感じた。
 大和の心に、情欲の炎がめらめらと燃え上がり広がっていく。

「げ、ゲンさんっ!」
「っッ!」
 忠勝を押し倒す。不意を突かれた忠勝は抵抗できずに、床に打ち付けられる。大和は強引に押さえつけ馬乗りになった。
 忠勝も抵抗し藻掻くが、腕を足で押さえつけられているので、はねのけられない。
「抵抗しないのかな?」
 歯をくいしばる忠勝の頬を手の甲で撫でる。
611 名前:ゲンさんと大和とチョコレート5[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 09:15:27 ID:LE7Egx8X0
 緊張して身体を硬くするのが大和にも分かった。
「てめぇ。……混ぜ物しやがったな」
 忠勝は末端に広がる痺れを感じていた。
 本来であれば、大和が忠勝の動きを封じることはできない。
 薬を盛られたのである。
 なんともご都合主義である。
「当たりだよ」
 ベルトをするりと抜き取り、忠勝の腕に回す。
 その隙をついて、大和の体を押し飛ばし距離をとった。
 壁を背にし睨み付けるが、顔をしかめたかと思うと、そのままずるりとしゃがみ込んでしまう。
 忠勝の息は荒く頭は揺れている。意識を失ってもおかしくはないが、気力でなんとか保っていた。
「ふふっ」
 なんとも妖艶な笑みを浮かべつつ一歩また一歩と近づく大和。
 我らが鬼畜軍師は男だってほいほいと喰っちまう奴なのだ。
 忠勝の目前でしゃがみこみ、だらりと垂れ下がった腕の手首を背中で縛った。
 もはや力が入らないらしく抵抗はなく緊張して硬くなっていた身体も弛緩しはじめている。
 しかし開、けているのもやっとという様子の半目から放たれている光は凄まじくいころされてしまいそうなほどだ。
 だが大和にそれを気にした風はない。
 鼻歌を歌いながら、白シャツのボタンを一つずつ外していく。
 忠勝が体をゆすり横向けに倒れる。
 みだれた衣服の隙間から、鍛えられて引き締まっている筋肉質な肉体がのぞいている。
「抵抗するのは諦めたのかな?」
 大和は手を滑り込ませる。胸のあたりに手を触れると、温かさと、心臓の鼓動が伝わってきた。
「…本気なんだな」
「冗談でここまでやらないさ」
 親指を唇に触れさす。柔らかな弾力をもったそこを指先でそっとつまむと白い歯先が見えた。
 顔を近づける大和に身を固くする。
612 名前:ゲンさんと大和とチョコレート6[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 09:19:29 ID:LE7Egx8X0



「ストーップ! ストッープ!」
 朝。通学中。京と由紀江の話に、大和は割ってはいる。
「ん? 何?」
 満面の笑みを浮かべる京。
「アウトー! アウトー!」
 何のことかわからないや、と素知らぬ顔で話を続けようとする京。

「脚色しすぎだから。余裕でアウトだから!」
 
 いやいや、と手を振る大和。
 ホワイトデーの翌日、由紀江と京にもお返しを、とチョコを渡した大和は、話の流れで忠勝に渡したくだりを話していたのだが、途中からモロたちとの話に引き込まれ、続きを京が話していた。
 漏れてくる会話の断片が、ヘタレ攻めやら誘い受けやらリバ可やらなにやら怪しいワードばかりなのが気にはなったが、由紀江が真剣な顔をして聞いているので放っておいたのだ。
 そして放っておいたら話が触れたくもないほどのカオスっぷりになったのだ。実写版ドラゴンボールもびっくりの出来である。
 ちなみに実際は、お茶を入れていたところに京があらわれ三人してまったりお茶をしたという、至極平和平凡であった。

「大丈夫、そこは15禁レベルの描写しかしないから。…それにこのぐらいの話なら普通の本屋で売られているよ?」

 男にとっては秘境である、書店の少女漫画のコーナーを大和は思い浮かべる。
 独特の雰囲気をもったそこは通り過ぎることさえ躊躇させ、あまつさえ本を探そうなどという気を起こしてその地帯に侵入すれば最後、女性下着コーナーに負けず劣らずの恥辱感を味あわせられるトラップゾーン。
 そしてそのダンジョンの最奥にはやはり主が潜み迷い込んだ村人たちの気力をことごとく奪い尽くすという。
613 名前:ゲンさんと大和とチョコレート7[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 09:30:12 ID:LE7Egx8X0
「突っ込むところはそこじゃない。……まゆっちも、信じてないとは思うけど、京の話は半分嘘だからね?」
 悪ノリしている京を放っておいて、大和は彼女である由紀江の方に振り向く。
「あの……どこまでが本当なんですか?」
 由紀江の言葉は、おずおずとした口調だったけれど、はっきりと頭に届いた。
「え?」
 届いたけれど、理解することを体が生理的に拒む。
 由紀江の目の中をぐるぐると渦が巻いている。
 そして、彼氏を妄想の材料に使われある意味とられたなんてことではなくて、もっと別の、なんていうか大和が受け入れたくないような事柄にたいする好奇心で満ちている。

「ど こ ま で が 本 当 な ん で す か?」
 

 ブルータス、お前もか……
 そう心の中で呟きながら、大和はくずれ落ちた。

「ククッ。……甘い物は別腹なんだよ」
 素晴らしい妄想の堪能と、由紀江を別の道へと誘導するということに成功した京は満足げで。
「性的な意味で!」
 にやりと邪悪な笑みを浮かべながら高らかにそう宣言した。

 性的な意味でという言葉に反応して近づいてくる百代を視界の端にとらえながら、大和は静かに目を閉じた。
614 名前:なんていうか……スレ汚しすみません[sage] 投稿日:2009/10/26(月) 09:34:45 ID:LE7Egx8X0
以上です。
ついカッとなってやった。反省はしてない(キリッ