これから
367 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 00:56:40 ID:A3Y8O2960
遅くなったけど辰子モノ投下
368 名前:これから・1[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 00:59:40 ID:A3Y8O2960
川神院。武道の鍛錬に励む多くの修行僧がこの寺で生活している。
最近、修行僧たちが寝泊まりする部屋とは別に
少し離れた場所に新たに一部屋が生活の場として設けられた。
ユートピア騒動後、川神院に引き取られた、板垣三姉妹の部屋である。
「は、あっぅ……やま、と、くぅん……う、ううん……」
深夜。その部屋から漏れる、吐息混じりの媚声。
「……あーもう!」
「わひゃあ!?……あ、あれ?……て、天ちゃん、起きてたー?」
「タツ姉に起こされたんだよ!部屋同じなんだから、一人エッチやめてくれよー!」
「……うるさいよ、二人とも!しっかり寝ときな!」
「う……ゴメン、アミ姉」「あ、あははは……ゴメンね……」
(やれやれ……しかし、タツのヤツは重症だねぇ。罪な男だ、直江大和……)
川神院の修行僧は、基本的に土日以外は外出できる自由時間がない。
板垣姉妹も当然同じ扱いになっていて
いくら辰子が大和に会いたいと思っていても、思うようにはならないのだった。
こっそり抜け出しても、辰子の大きな気を探りだされてすぐに見つかる。
それでは、と土日に島津寮に押しかけても
避けられているのか大和の気配すら感じられない。
(何とかしてやりたいが、さて……)
どうしたものか、と考えあぐねる亜巳だった。
369 名前:これから・2[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:02:41 ID:A3Y8O2960
「……そろそろ寝るか……おやすみ、ヤドン、カリン」
一通りの日課を終え、寝床の準備を始めたとき
コン、と何かが窓にぶつかった。
虫でも飛んできたか?と窓に目をやると
(ハァイ)
!板垣亜巳が、窓の外の暗がりで手を振っている。
目を凝らして周囲を確認……一人だけ、か。
今さら、襲ってきた、ということでもないだろう。
とりあえずちょっとだけ窓を開けると、小声で囁いた。
(何やってんすか!川神院で、修行中のはずでしょ!)
「おや、中にも入れてくれないのかい?つれないねぇ、あんなに可愛がってあげたのに」
(シーッ!クリスとかまゆっちとか、皆寮にいるんですよ!ここでもめごとは……!)
「もめる気はないさ。アンタが部屋の中に入れて、話をさせてくれるならね」
(わかりました、わかりました……しょうがないなぁ、もう)
窓を大きく開け、板垣亜巳を招きいれる。
こんなところ、京に見つかりでもしたらエライことになるぞ……
「どうやって抜け出してきたんすか?」
「アタシは気の操作が得意でね。気配を絶つこともできるのさ。
だから、今ここにいることを、他の連中に気取られる心配はないよ。
それで……ここまで来たのは、タツのことなんだけどね」
370 名前:これから・3[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:05:41 ID:A3Y8O2960
やっぱり、その話か。
アジトを脱出するためとはいえ、俺に好意をもっていた彼女とエッチして
そのまま逃げ出してきた、いわばヤリ逃げ状態。
それでも辰子さんは俺に変わらず……いや、それ以上に好意を抱きつづけている。
このまま会っていれば、押しきられてしまう可能性もあると
京が板垣姉妹が出てきそうな土日になると
俺を朝から遠くまで引っ張り出しているので
このところは顔も見ていなかった。
「アンタ、土日になるとここにいないだろう?……タツから、逃げてるのかい?」
「いや、たまたま、このところ土日に色々あって」
「どうだかねぇ……タツも天もね、ああ見えても男にはウブなんだ。
そのバージン奪っておいて、後は知らん顔ってのはさ……
姉としちゃあ、許せないんだよ!」
「うっ……い、妹思いなんですね」
「茶化すんじゃないよ。さあ、どう責任取ってくれるんだい?」
「そ、それは……」
(お、困ってる困ってる、フフフ……ちょっとイイね、このボウヤ)
「アンタに惚れてるタツを、利用するだけ利用して
その気持ちを踏みにじった……男として、どうなのさ?」
「いや、アレはそっちの悪行を止めるために仕方なく……」
「仕方なくで、3Pで後ろまで決めちゃったわけかい」
371 名前:これから・4[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:08:44 ID:A3Y8O2960
イカン、ヤっちゃった既成事実がある分コッチの分が悪い。
「そもそも、アンタ全然タツに気はないのかい?」
「……」
全然ない、と言ったらウソになる。
「とりあえず、次の土曜日、タツに会ってやっておくれ。
ここにいてくれれば、タツのほうをよこすからさ。
そのとき、ハッキリさせてやっておくれよ。ダメならダメでもいいからさ」
「わかった……その、全然ダメ、というわけじゃないんだ」
「ん?どういうことだい?」
「悪人だったけど、改心するために川神院にいるわけだし
だいたい辰子さんはそれほど悪って感じはなかった。
まっとうになってくれれば……その、考えてもいい……と、思う」
「まっとうに、ねえ……ソイツは、一番難しい注文かもしれない。
まあ、会ってくれるんなら、礼は言っておくよ。タツにはアタシから伝えておく。
……あの子のこと、頼んだよ」
珍しく穏やかな笑顔で、板垣亜巳は夜の闇の中に消えていった。
「……やれやれだな」
「ほんと、シツコイ姉妹だな、舎弟」
「困っちゃうよね……って、えええええ!?姉さん!?」
372 名前:これから・5[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:12:00 ID:A3Y8O2960
「よ。いやー、亜巳もまだまだ修行が足りないな。
気配探知されなくなるほどには、気を消しきれてはいなかったのさ。
抜け出した時すぐ気づいたんで、こうして尾けてきてみれば、ってわけだ」
「今までどこにいたのさ」
「ドアの外で聞き耳立ててた。ケシカランことを始めたら混ざろうと思って」
アンタがケシカランわ。ていうか、勝手に寮に侵入しないでほしい。
「で、聞いちゃったわけだが」
「何を?」
「何を、ってな……お前、辰子とヤっちゃったのか?」
……しまった!
あれはあの場限りのことで3人以外には秘密にしておきたいなー
と一応口止めはしておいたのに全く無駄に!
「どーなんだ大和?捕虜の分際で3Pとか後ろ決めたとかマジなのか?
そりゃあ辰子だってお前が恋しくなるだろうなぁ……この、エロ軍師め」
「いや、あれはさっき亜巳さんにも言ったけど脱出のためにやむをえず!」
「そこまでヤってるとなると、あの晩の上書きじゃ足りてないかなー」
「めめめめめめ、めっそうも」
「……とりあえず、京呼ぶか」
「それだけはご勘弁を!!」
373 名前:これから・6[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:15:02 ID:A3Y8O2960
「まあヤっちゃったものはしょうがないとして」
「……スイマセンデシタ」
さんざん俺をボテくりまわして少しは気がすんだのか
姉さんがどっかと腰を下ろす。
……這いつくばった俺の上に。
「真面目な話、辰子のことはどうする?会ってやるのか?」
「まあ、約束だし……確かに、このままじゃあんまりかな、とも思う」
「そっか……ケジメは、つけないとな。
とりあえず、今夜は帰る。上書きしちゃっても、いいんだけどな……」
「え」
それは、姉さんと俺が、姉と弟ではなくなるということで。
「それと、明日は、京には私がついていてやるから、その辺は心配するな」
本気かどうか確かめようとしたが、話題を切りかえられた。
「ありがと、姉さん」
ごまかされた気もするが、京のことが気がかりではあったので礼を言っておく。
「姉さん、か……そうだ、お前は、私の弟だ。私のものなんだ……
このまま、お前が辰子を選んだりしたら……私は、何をするかわからないぞ」
この人の場合、本当にやりそうで怖かった。
374 名前:これから・7[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:18:02 ID:A3Y8O2960
「やーまーとーくーん!遊びに来たよー!」
そして、翌日の土曜日。話通りに板垣辰子が島津寮にやってきた。
別に遊びに行くとは言わなかったはずだが
まあ、それはまだいい。許せる。
「ねえねえ、これからどこに行くー?」
「いや、今日はその……話がある……んだけど」
「どんな話する気なのかなー、ウチの弟は」「ね。大和のお手並み拝見だね」
……この辺がなんというか、よくわからない。
「なんで二人がここにいるのさ!?」
辰子さんに、姉さんと京がついてきていた。
「監視だ。弟が悪い女とこれ以上悪いことしないように」「もしくは一緒に悪いことするために。クク」
「姉さん……京についていてくれるって言ったじゃん!」
「ちゃんと一緒にいるじゃないか」「ねー?」
確かに姉さんは「京についている」けど、これじゃ意味がない。
かといって、この二人の追跡から逃れられるわけもない。
「アタシはべつに一緒でもいいよー」
悩んでいるうちに辰子さんがOKしてしまい
こうして、奇妙な四人組で出かけることになった。
375 名前:これから・8[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:21:07 ID:A3Y8O2960
柔らかな日差しの中、多馬川のほとりを4人で歩き出す。
「えへへー……えい!」
歩きながら、俺の右腕を辰子さんが抱える。
むに、っとボリュームのある胸が腕に押しつけられる……
「ムム」
すかさず、左腕を京が抱きかかえる。
「んん?」
さらに姉さんが、背後から抱きしめてくる。
…………
「歩きづらいわ!ちょっと全員離れて!」
傍目には、すげーうらやましいハーレム状態なんだろうが
こんな一触即発のハーレムはイヤだ。
巻きこまれたら、一般人の俺は命がいくつあっても足りやしない。
「この際だから言っておくけど、京」
「ん?」
「お友達のままで。で、姉さん」
「なんだ、弟?」
「姉貴分のままで。OK?」
376 名前:これから・9[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:24:07 ID:A3Y8O2960
「ずっと言われつづけてきたセリフなのに、これはすごいダメージ……」
がっくりとうなだれる京。
「すると何か、弟……私たちより、辰子を……」
そして殺気をみなぎらせる姉さん。
その矛先が俺に向けられたのは初めてだ。
さらに
「わーい!大和君、やっぱり私がいいんだよねー!」
俺に抱きついてはしゃぐ辰子さん。
あわてて次の言葉を繋ぐ。
「そして、辰子さんは友達ですらない」
「え……?」
一言で、場の空気が一変した。
よろめくように辰子さんが俺から離れる。
「あは、な、何か……聞き違いかな、だって……え、エッチだってしたし!」
「うん。辰子さんが、友達じゃなかったからあのときはできた。
あの家から逃げ出すために、利用するためにエッチした。
そんなこと、友達相手にはできない。
辰子さんが友達でも何でもなかったから、できたんだ」
こんなシチュエーションで言うつもりはなかったが、勢いで言ってしまった。
まだ肝心な部分は伝えていないけど。
だがその前に、今度は辰子さんがうなだれていた。
377 名前:これから・10[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:27:09 ID:A3Y8O2960
「そ……っか。私、騙されちゃったんだ……あは、は……」
辰子さんの雰囲気が変わる。暗く、凶々しく、獣のように。
「ヒドイなぁ、大和君……私、初めてだったんだよ……?
初めて男の子を好きになって
初めて一緒にいてくれる男の子が出来て
初めて女の子の幸せ教えてもらったのに……」
「悪事をやめさせるためとはいえ、確かにヒドイことをしたと思う。
責められても仕方がない。ごめん、辰子さん」
「全部、ウソだったんだ……?
アハハ、アタシ、バカだから、簡単に騙されちゃったよ。
あーあ……騙されてたってわかったのに……
まだ君のこと好きだなんて、ホント、アタシってバカだなぁ……」
危険を感じた姉さんの殺気が、その矛先を辰子さんに変える。
俺との間に割って入ろうとするが、それを手で止めた。
「どうせなら、ずっと騙しつづけてくれればよかったのに……
でも、もうオシマイなんだね」
「騙しつづけるなんてできないけど、終わりにする気もない。
だって、辰子さんには、友達になってほしいんだから」
「え……でも、友達じゃないって……」
「だから、これから。これから、友達にならない、俺たち?」
そう。俺たちには「これから」があるんだから。
378 名前:これから・11[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 01:30:16 ID:A3Y8O2960
「あのときは俺たち争ってたけど、今はもうすんだことだし
辰子さんだって色々やり直してるわけでしょ?
だから、これから友達になって、二人の関係もやりなおしたいんだ。
……まあ、辰子さんが許してくれれば、なんだけど」
「でも……アタシ、友達って、いたことない……
どうすればいいか、わからないよ」
板垣ファミリーは家族だけが大事な人間で
他はどうでもいいって人たちだったからなー。
「そんなに難しく考えないでいいと思うよ。
一緒に遊んだり、食事したり、おしゃべりしたり、そんな感じで。
それと、友達になるのなら
辰子さんには、普通に社会の中でやっていける人になってほしい」
「それももよくわかんないなー。
アタシは、自分と大和君さえよければ、後はどうでもいいし」
「たとえばね、辰子さんが好き放題に行動して、他の人に迷惑がかかる。
すると、辰子さんの友達である俺に、文句がくるようにもなるんだよ」
「そしたら、アタシが黙らせちゃう」
「黙らせたヤツの周りからまた文句がくる。キリがないよ?
力ずくじゃダメなんだ。周りとうまくやっていかなくちゃ」
この辺、姉さんや京も意識して言ってるが、通じているやらいないやら。
「うーん……めんどくさいけど
そうしないと大和君が友達になってくれないなら、頑張ってみる」
379 名前:これから・12[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 02:14:58 ID:A3Y8O2960
何とか、うまくまとめることができたと思う。
辰子さんとは友達……ちょっとだけそれ以上の関係で、やっていけそうだった。
「じゃあ、行こうか、辰子さん」
「……タツ、でいいよ、アタシのこと。友達って、そうなんでしょ?」
「ハハハ、確かにそうだね……でも何か呼びにくいなー。
やっぱり少しお姉さんなんだし……タツ姉、かな?」
「!……うんっ!じゃ……これからよろしくね、大和」
「……おーい、私らすっかりおいてきぼりなんだがー?」
おっと、姉さんと京のことを忘れてた。
「えーと、これから七浜に遊びに行こうと思ってたんだけど、一緒に行く?」
「決まっている。監視は続行だ!」「もちろん、お前のオゴリだからな!」
「アハハハ、何だか賑やかだねー」
まだトゲのあった二人だが、屈託のないタツ姉の笑顔に、毒気を抜かれたようだ。
「はぁ……何だか、嫉妬するのも疲れてきた」「ま、友達だっていうならいいけどな」
姉さんや京も、ただの友達以上、女性として意識もしてる、そんな友達。
「これから」どう変わっていくか、それは俺にもわからない。わかっているのは
「すっごく楽しそうだねー、大和!」
ってこと。
380 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/10(土) 02:16:14 ID:A3Y8O2960
終わり。プチハーレムの予感。
規制が入ってヤレヤレだぜー。