桜と再会、再出発

340 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:22:15 ID:fUOkbRGm0
よーし、オラも夜勤明けで眠い目こすりながら投下しちゃうぞー
341 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:22:49 ID:fUOkbRGm0

川神を震撼させた騒動から、いくつもの季節が廻り、何度目かの春が訪れた。

外は暖かな陽気、桜前線が、ここ川神にも到達した頃。


「うー、早く早くー!ボクは急いでるんだー!」

「るっせぇな、お前がいっつも財布だの何だの忘れ物すっから世話焼いてやってんだろーが!!」

「……ウィー」


九鬼家の屋敷は、今日も騒がしかった。


「ふはははは!!今日も騒々しいな!!」

「これは英雄様ッ、申し訳ありませんでした!!」


突如扉を開けて登場した主君を見て、忍足あずみは手に持っていたカバンを目の前の少女に手渡した。


「ユキ、ちょっと一人で支度していてくださいねっ☆」

「あいあいさー♪」


カバンを受け取った少女、榊原小雪は、ご機嫌に鼻歌を歌いながら支度を続ける。

荷物を無造作にカバンへ詰め込む姿が、支度をしているように見えるかは別として。
342 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:24:09 ID:fUOkbRGm0
「英雄様、お仕事の妨げてしまっていましたか?」

「なーに構わぬ、我もちょうど小休止しようと思っていたところだ!!」

「それでは、給仕にお茶を淹れさせますねっ☆」

「我が所望するは香り豊かなアールグレイよ!!それ以外は飲まぬぞ!!」

「仰せのままにッ!」

「うむ!……それにしても」


英雄の目線の先には、楽しげに荷物を選別する小雪の姿があった。


「この屋敷に来たときには、落ち込んでばかりだったというのにな」

「私たちが話しかけても、部屋の隅っこに座り込んでばっかりでしたからね」

「うむ。そしていつも泣いていた、何枚もの写真を眺めながらな」

「英雄様のお声に反応しないこともありました」

「しかし許そう、王は常に寛大であるからだ!!」

「さすがでございす英雄様ぁっ!!」

「ふははははははは!!王としては当然のことよ!!」


この二人の話が、10分に一度は脱線することも相変わらずである。
344 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:29:29 ID:SnCkmvX70
「これも貴様らの、そしてあ奴らの功績よ!!褒めてつかわすぞ!!」

「もったいないお言葉でございますぅっ!」


部屋中に響くほどの声で会話する二人に、小雪が駆け寄る。


「ねえねえヒデー!ヒデー!」

「こらこら、『様』をつけないとまた関節捻っちゃうぞっ☆」

「許す!!そしてなんだ、小雪!!」

「この服、どうかな?似合うかな?どうかな?」

「よく似合っているとも!!この我が断言してやる、自信を持つが良い!!」

「わーい、やったやったー!」


そして小雪は爛漫に笑いながら、服の裾をひらひらさせる。

あの頃の、あの二人の横にいた時のように。


「それにしても、見事なはしゃぎっぷりですね」

「せん無きことよ、何せ今日は待ちに待ち焦がれた日なのだからな!」

「そうですねっ☆」
345 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:31:33 ID:SnCkmvX70
「では我は仕事にもどる!!あずみッ!!」

「はいっ!!」

「小雪を見送ったら我の補佐に就け!!明日には大事な用が控えているのでな!!」

「了解しました、英雄様っ!!」


退室する英雄の、気迫に満ちた背中を見送る。

今までも、これからも、多くのものを背負う背中を。


「それじゃ、いってきまーっす!」

「オイだから財布忘れんなっつってんだろゴルァ!!」



同日、某所、某施設の前。


「あー、シャバの日差しが眩しいぜ……頭皮に染みる」

「今日もよく光を反射しています。絶好調ですね、準」

「これは健康のバロメーターじゃない、犬の鼻の湿り具合みたいに言わないでくれ」

「でも私は、準の頭を見れば健康具合が把握できます」

「そいつは驚きだ」
346 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:33:45 ID:SnCkmvX70
暖かな春の陽気の中。

葵冬馬と井上準は、舗装された人気の無い道路に立っていた。


「いやいや、お外はすっかり春だねぇ」

「ええ。やはり桜は、こうして見上げるのが一番美しいです」

「テレビじゃ映せない、ラジオでも流せない、か」

「おや準、あなたの出身は南国ではなかったはずですが」


いつも通りのとりとめの無い、つかみ所も無い会話。

胸中にある多くの感情を二人が共有している以上、それを口にする必要も無かったから。


「さて、そろそろでしょうか」

「こっちから行っちゃ駄目なのか?」

「迎えに行く、という話ですから。ここは素直に待ちましょう」


そうして、桜の花びらが散る道に立ち続け、数分後。


「っ……トーマー!!準ー!!」
347 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:35:56 ID:SnCkmvX70

「おや、来てくれましたね」

「おう、もう少しで桜の妖精さんと同化するところだったってウゴォ!?」


そのまま駆け寄り、二人へ飛びつく。その姿は、とても微笑ましかった。

ただ、微笑んで受け止めるには、小雪の脚力が強靭すぎたのだが。


「俺は今、すさまじい感動と衝撃を受けている……主に後者は物理的なあれだけどな」

「ねーねー、遊園地行こー!!」

「出てきて一番にそれかよ!」

「こーら、準」

「んん?」


たしなめる役の準がツッコミを入れ、甘やかす役の冬馬が小雪の頭を撫でる。

頭を撫でられているその肩が、小さく、震えていた。



「今日はユキのわがままを聞いてあげる日、ということでどうです?」
349 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:41:15 ID:n4+0gcgU0
「あー……参ったねこりゃどーも」

「ふふっ、私も少しぐっときてしまいました」

「おいおーい、本当に参ったね……それじゃ俺だけ泣けねぇじゃねーか」

「たまには良いではありませんか、三人一緒に」


そして、少しの間。

三人は、肩を寄せ合って、三者三様に、泣いた。


「いやー、なんか恥ずかしいなマジで」

「あのオジサンたちも、もらい泣きしてたよー!」


小雪の言葉に振り返って見れば、門の横に立つ看守二人。

バツの悪そうにそっぽを向きながら、目じりを手の甲で擦っていた。

そんな看守に、ぺこりと頭を下げて、三人は歩き始める。


「わーい!わーい!トーマー、準ー!!」

「……はい。ただいま、ユキ」

「おう。世間の厳しさ乗り越えて帰ってきたぜ」
350 名前:【桜と再会、再出発】[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:43:24 ID:n4+0gcgU0
「そういや、出迎えはユキだけかい」

「うん、ボクだけだよー!」

「そうか……まあ、それもしゃーねえか」


英雄に付き添われ、出頭する前。

あの場にいた、直江大和と風間翔一、椎名京とは、少し話すことはできたけれど。

それ以外の人々のことを考えて、準は小さく溜め息を吐いた。


「ぬ?どーしたのさ、準?毛髪のことで悩み?」

「いや毛髪ねーだろ!見ればわかるだろ!」

「ふふっ、大丈夫ですよ準」


そんな準の様子を見て、冬馬は笑いながら携帯の画面を見せる。

そこには、いつの日か、屋上で交換したメールアドレス。

送信者は、あの日自分たちを止めてくれた、男の名前だった。


「どうやら我々は、気を遣っていただいたようです」
351 名前:【桜と再会、再出発】[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 09:45:41 ID:n4+0gcgU0
「うん!明日、みんなで遊ぶんだよー!」

「……川神学園の正門前とは、あいつらも粋なことしやがるねぇ」

「英雄も、毎日激務があるというのに来てくれるそうです」

「今日中に一段落つけるんだー、って頑張ってた!」


「しかしユキが、俺たち以外の奴と遊ぶのが楽しみだとは意外だぜ」

「いつもなら、私たち三人だけで良いと言っていましたしね」

「うん?ボクも普通に遊ぶよー?」

「ほほう、そうなのか」


冬馬も、準も、知らなかった。

いつも、限られた少ない時間で話すことは、互いの体を気遣うことばかりだったから。


「うん!ボクが、今一番仲良しなのはミヤちゃんなんだー!」

「……みや、ちゃん?」

「あと、大和やワン子も、遊びに来てくれるんだよ!まゆまゆは、お土産持ってきてくれる!」

「彼らが、ですか」

「モモちゃんとクリちゃんは、あまり来られないんだけどー。あ、あとねー!」
353 名前:【桜と再会、再出発】[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 10:00:16 ID:ZQ/v2hZ60
言葉が出なかった。

それは、救われた者の、救われなかった者に対する、負い目もあるのかもしれない。

救うことができなかったことへの、罪悪感もあるかもしれない。

それでも彼らは、自分たちを止めてくれただけではなく、

小雪に手を差し伸べ、支え、共に歩んでくれた。



「これは……まったく、感謝のしようがありませんね」

「恩を返し切ろうにも、その頃にはお爺ちゃんになってそうだぜ」

「少しずつでも返していきましょう。時間は、たくさんあるのですから」

「おう、ちげぇねぇ」

「みんなと遊ぶのは明日だから、今日は三人だけで遊ぶんだー!」

「ははっ、そいつは楽しみだ……あー、2-F委員長は来ねーのかな」

「本当に、準は相変わらずですね」

「これが偽らざる俺の姿だ。これだけは何があっても変わることはない」

「うー、全然かっこよくないよー」


小雪はそう言いながらも、脇に抱いた二人の腕をぐいぐいと引っ張る。
354 名前:【桜と再会、再出発】[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 10:03:35 ID:ZQ/v2hZ60
「それじゃ、遊園地に出発ー!」

「ちょっと待ってくれユキ。俺たち、ほとんど手ぶらなんだが」

「大丈夫だよー、準の通帳は持ってきてるから!」

「用意が良いね!っていうかなんで俺だけ!?」

「まあまあ、後で返しますから。今は三人で遊びましょう」

「そーだ!そーだ!」


結局、この二人がこう言っては、賛同するしかない。

まあ、準も何だかんだでノリ気ではあるのだが。


「あー、へいへいわかったよ……とことんお供するぜ、若」

「イェーイ!それじゃ、出発ー!」

「はい。それと準、出てくる前に言った言葉をもう忘れてしまったのですか?」

「ん?……ああ、すまん。どうも、まだ慣れなくてなぁ」

「いけませんよ。私たちは『親友』なのですから」

「トーマー、準ー!はーやーくー!」


先行く少女にぐいぐいと腕を引っ張られながら、満開の桜の下を三人は歩く。
355 名前:【桜と再会、再出発】[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 10:06:45 ID:ZQ/v2hZ60
「では行きますよ、準」

「ん……おう。行くか、冬馬」


これから先、きっと困難なことも多くあるだろうけれど。

今の自分には、この三人だけではなく、共に歩んでくれる多くの仲間がいるから。

恐れることなく、皆で、新たな出発を。


「勇往邁進、ですね」

「おーっ!」

「おう……ユキ、頭をバシバシ叩くのはやめてくれ」



彼らなりの、川神魂を胸に秘めて、歩き出す。



【終】
356 名前:【桜と再会、再出発】[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 10:10:39 ID:ZQ/v2hZ60
初投稿とはいえ、色々と見苦しい点ばっかりで申し訳ない。本当に申し訳ない

三人が再会するCGを見て、ふと妄想してしまったお話でした。