春菊

260 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:30:08 ID:qtq5g6n70
ではまゆっちルートの心モノ投下
261 名前:春菊・1[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:33:09 ID:qtq5g6n70
朝の島津寮にいい匂いが立ちこめる。
いつものように、まゆっちが弁当を作っているようだ。

「や、おはよう、まゆっち」

「おはようございます、大和さん」

俺に挨拶を返しながらも、その手が休まることはない。
それどころか、いつも以上に忙しそうだ。

「……今日の弁当、何だか量が多いんじゃない?」

「はい、今日は不死川さんの分も作ってるんですよ」

「へえ」

不死川心も無事攻略したとは聞いていたが
さっそく弁当を作ってあげるあたり、マメだなぁ。

「俺の分まで作ってたら大変だろ?何なら俺のはいいよ?」

「いえいえ、二人分も三人分も、手間はそう変わらないですから」

「でも、持っていくのに荷物にはなりそうだし」

「あ、そうですね……じゃあ、大和さんの分だけ、ここでお渡ししてもいいですか?」

「ああ、構わないよ。しかし、不死川に弁当か……ひょっとして、一緒に食べるの?」

「はい、ご一緒させていただくんですよ」

友達と一緒にお昼ご飯か。まゆっちも成長したなぁ。
262 名前:春菊・2[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:36:14 ID:qtq5g6n70
「大和さんも、ご一緒にいかがですか?」

「え……あー、うん」

不死川の誘いを断ってしまった俺は、あれから顔を合わせるのが気まずくなっていた。
断ったときには、意外に大人の対応をしてくれたが
だからといって、気まずいのは向こうも同じだろう。
ここでまゆっちと二人でいるところを見せつけるのは、ちょっと酷だ。

「今日はちょっと用事があるから、二人で食べなよ」

「……そうですか……そのうち、イヨちゃんや不死川さん、大和さん
 ファミリーの皆さん全員で、一緒のお昼とか食べたいですね」

野望はどんどんスケールが大きくなっているようだった。

「で、今日はどこで食べる予定?」

「はい、お天気がよかったら屋上で、ということに。
 あの、やっぱり来ていただけるんですか?」

「ああ、うん、都合がついたら」

……ゴメン、まゆっち。その逆だ。
不死川とはち合わせしないように場所を確かめたのであって
むしろ絶対に屋上には行かない。

「よかったら是非!きっと不死川さんも喜びます!」

期待を込めた笑顔に胸が痛むが、これが皆のためだ。
まあ、顔を出したら出したで
不死川に「げぇっ!?直江!?」とか言われるだけだろうし。
263 名前:春菊・3[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:39:26 ID:qtq5g6n70
「げぇっ!?直江!?」

……言われた。

「あ、大和さん!やっぱり、来てくださったんですね!」

「……なんで中庭に?」

昼休み。
屋上を回避した俺は、どこで弁当を食おうか考え
たまには気分転換に、なんて考えて、中庭に来てみたのだった。

まさかまゆっちと不死川がいるとは思いもせずに。

「屋上には上がってみたんですけど、日差しが思ったより強かったので
 不死川さんの提案で、木陰のあるこちらに変更したんですよ」

くそぅ、不死川の我がままと気まぐれを計算しておくべきだったか。

「でも、大和さん、よくここにいるってわかりましたね?」

「ああ、うん……屋上で、姉さんにきいた」

今日は屋上に姉さんもいるはず。とっさにでまかせを言ったが

「あら?私、モモ先輩に行き先を言った覚えは……」

「こ、此方が言ったのじゃ!
 この山猿が、図々しくも追いかけてきたら伝えてくれるようにな」

思わぬ助け舟が出たのはいいが
何時の間にか扱いが山猿に戻っていた。まあ、いいけど。
264 名前:春菊・4[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:42:29 ID:qtq5g6n70
とりあえず、不死川もまだそれほど険悪な雰囲気にはなっていない。
ちゃっちゃと食べてしまって退散しよう……

「あ、いけない!……あの、お茶を教室に忘れてきてしまったので
 ちょっととってきますね!」

「え!?」「ま、黛!茶はなくてもよいから……!」

「すぐ戻りますからー!お弁当、先に召し上がっていてくださーい!」

たったかたー、とまゆっちは走って行ってしまう。
そして残される俺と不死川。
……何という最悪のケース。

ちら、と不死川の顔を見る。

「む……な、なんじゃ人の顔をジロジロと!」

向こうもちょうどこちらに目を向けたところだった。

「いや、その……まだ怒ってるのかな、と」

「……怒っておるわ」

「ソウデスカ」

「怒ってはおるが……怒ったところで、どうにもならぬのであろう?」

「まあそうなんだけど……
 何時までも怒っていられると俺もやりにくいし
 何より、まゆっちが板ばさみになったらかわいそうだ」
265 名前:春菊・5[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:45:53 ID:qtq5g6n70
「……そうよな。黛は、何も知らぬのだしな」

ふっ、と、不死川が、寂しそうに笑う。
ああ、コイツでも、こんな顔するんだ、と思ったら
何だか親しみが沸いてきた。

「それじゃ……怒りが収まったら、友達にはなってくれるかな?」

「……図に乗るな、この山猿が!……と、言いたいところじゃが
 黛に免じて、認めてやってもよい。
 ま、もうしばらくは、此方に怒らせておけ」

「……はいはい。じゃ、弁当いただくとするか」

「おいおい、黛が戻るまで待てぬのか!?これだから山猿は……」

「いいじゃん、食べててくれって言ったんだし。待ってるとかえって恐縮しちゃうぜ?」

「む……確かに、黛はそういうところがある……では、いただきます」

二人でゆっくりと弁当に箸を伸ばす。
が、ふと不死川の箸が止まった。

(……今、この時が……ずっと続けばのう……)

「んー?何か言ったかー?」

「な、何でもないわ!……春菊が、ちとほろ苦いと思ってな……」

「春菊が苦いぐらいで泣くなよ、いい年して」

「う、うるさいわー!この、鉄面皮の、女ったらしの、山猿がー!!」
266 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/09/29(火) 23:47:33 ID:qtq5g6n70
終わり。ほぼツン、ちょっとだけンデな味付け。