友情の花
189 名前:友情の花・1[sage] 投稿日:2009/09/25(金) 23:56:35 ID:lkwu06ZU0
「あれ、まゆっちは?」
朝の島津寮前。ゲンさん以外は、だいたい皆揃って登校するのだが
今日はまゆっちの姿が見えない。
「まゆっちなら、今日は用事があるとかで早めに出ていったぞ。
……自分が声をかけたら、やけに慌てていた」
「日直だったのを忘れてた、とか?」
「……ならいいんだが」
「ずいぶん気にするではないか。何かあったのか?」
「ちょっと、な」
新しく友達になった大和田さんが
心ない中傷に傷ついていたので
その中傷を流していた中心人物の女の子と決闘をして
相手を瞬殺して病院送りにしたのが、つい先日のこと。
どうもそれから、少しまゆっちの様子がおかしいのだ。
なんというか、元気がない。
考えてみれば、まゆっちも武道四天王の一角。
それが、礼儀とはいえ全力で戦っては
相手は一たまりもなかったはず。
そんな姿を見せられては、周りも畏怖して当然だ。
一人の友達を救うため
他の人間には避けられる。難しいところだな。
まゆっちにも、姉さんみたいな、はっちゃけたところがあればいいんだが……
190 名前:友情の花・2[sage] 投稿日:2009/09/25(金) 23:59:36 ID:lkwu06ZU0
そして放課後。
皆ヒマなので秘密基地に集まっていた。
朝から気になっていたことを、フォローのつもりで
相変わらず元気がないまゆっちに尋ねてみる。
「あ、いえいえ、そういうことではないんです」
「あれ?」
「はい。最初は、ああこれでまた周囲から引かれちゃうな、と思いましたが
あれも私ですから……それを隠して受け入れられても、仕方がありません。
何より、今いる大切な友達を守れなくて
それ以上友達を増やせるわけがありませんから」
「おお……偉いぞ、まゆっち!」
「悩んでいたのは……それで、本当に伊予ちゃんと友達になれているのか
それが不安で、確かめていたんです」
「いや、確かめなくても充分に友達になってると思うけど」
「そうは思うんですが、何というか……具体的なものが欲しくてですね。
前にガクトさんに教えていただいたことを、実践してみたんです」
「俺様が?……何だっけ?」
「えっと……」
ゴソゴソとポケットから何か取りだすと、うつむいて顔に何やら手を当てた。
「これです」
191 名前:友情の花・3[sage] 投稿日:2009/09/26(土) 00:02:42 ID:H+Cu6orx0
「ぶっ!?」「ちょ!?」「うお!?」
顔を上げたまゆっちに皆が驚愕。
それもそのはず、可愛らしいまゆっちの鼻から大量に鼻毛が出ていたのだ。
「……何のギャグ?」
手を伸ばして鼻の下に触れる。と、ポロリとその鼻毛が手の上に落ちた。
「あ……」
「え、これ……つけ鼻毛?なんでまたこんなものを」
「えっとですね、以前ガクトさんに、友達とはどういうものか教えていただいて
出ている鼻毛を無視するのが他人、指摘してくれるのが知りあいで
友達とは黙って相手の鼻毛を引っこ抜く、そういう関係だと」
「いやアレはたとえ話だ!わざわざそんなモノ作って実践すんなよ!」
「でも、大和さんは今、抜こうとしてくれましたよ?」
しまった、なんか余計なことをしてしまったっぽい。
「それで、伊予ちゃんがコレを見たら、抜いてくれるかと思い
朝早く学院に行って、見てもらったんですが…抜いてくれなくて……」
「それで、皆より一足先に寮を出ていたのか」
しかしまあ、こんなもの見せられても普通驚くだけだろう。
「なるほど、大和田さんがまゆっちの鼻毛を抜いてくれないんで
まだ友達になっていないんじゃないか、と気を落としていたわけか」
192 名前:友情の花・4[sage] 投稿日:2009/09/26(土) 00:06:08 ID:H+Cu6orx0
「まゆっちは人のいうこと真に受けすぎ」
「いえ、そんな……今だって大和さん、抜こうとしてくれました。
私、伊予ちゃんが鼻毛を抜いてくれるまで、頑張ろうかと!」
そんな頑張り方はやめてほしい。
「……女の子同士だとさ、そういう身だしなみの部分って
親しくなっても遠慮とかあるんじゃないの?」
「いやモロロ、私はワン子が鼻毛出してたら抜くぞ」
「……姉さんはまた特殊だとおも痛たたたたたたっ!?」
瞬間でやってきた姉さんにこめかみをグリグリされる。
「誰が特殊だってー?んー?」
「と、特殊な美少女ということデス」
「そう!私は特殊な美少女!
だから妹の鼻毛だけじゃなくて、風呂で別な毛を抜いたりもするんだー!」
「あわわわ、お、お姉様っ……!」
特殊すぎる。ていうか、ワン子の毛とか抜いてどうしてるんだ。
「と、とにかく……あまり続けても、大和田さんが困るだけかもしれないよ?」
「そ、そうですね……」
とりあえず、あのつけ鼻毛を使うのだけはやめさせておくことにした。
193 名前:友情の花・5[sage] 投稿日:2009/09/26(土) 00:09:12 ID:H+Cu6orx0
翌朝。今日はまゆっちも一緒に寮を出た。
もちろ鼻毛はつけていない。皆で多馬川沿いを歩いていると
「……まーゆっちー!」
遠くで自転車にまたがった女の子が手を振っている。
「あ……伊予ちゃーん!」
ああ、大和田さんか。まゆっちの奇行にもめげずに
声をかけてきてくれるあたり、なかなかタフというか。
そのまま自転車を走らせ近づいてくるが……
「ん?……何か顔違くね?」「何だ……アレ?」
走ってきた大和田さんの鼻の下には
昨日のまゆっちばりに黒々とした鼻毛が伸びていた。
もっとも、昨日まゆっちで経験したので皆さほど驚かない。呆れてはいるが。
「おはよー、まゆっち……あれ?
きょ、今日は……出てない、ね……?」
「はう……あ、あの……伊予、ちゃん……は、鼻が……」
「あ、アハハハハ……
いや、その……このところ、まゆっちが朝会う度に……
ほら、出てたから!なんか、指摘するばっかりでアレかな、とか!
で、その……私も、こ、こんなものつけてみちゃった」
どうやら、まゆっちのと同じようなつけ鼻毛らしい。
194 名前:友情の花・6[sage] 投稿日:2009/09/26(土) 00:12:17 ID:H+Cu6orx0
「黙ってたほうがいいのかな、とか、注意したほうがいいのかな、とか
色々考えたんだけど、よくわかんなくて
もうこうなったら自分も同じになっちゃえ!って……アハハハ」
「伊予ちゃん……ご、ごめんなさいっ!」
「え……何で謝るの?」
友達が恥をかいているときに
その恥をすすごうとすることはできるだろうけれど
一緒に恥をかいてやろう、とはなかなか思わない。
疑うまでも、試すまでもなかったのだ。
大和田伊予は、間違いなく黛由起江の友達だ。大親友だ。
「……もう、必要ないので、とってくださいね」
「わ!?」
ひょい、とまゆっちが早業で大和田さんの鼻毛をとる。
「……これ、もらってもいいですか?」
「ええ!?そ、そんなもの……どうするの?」
「記念にします……ええ、宝物です」
「えー……うん、でもいいや、あげるね!ね、自転車、後ろに乗る?」
「はい!」
呆気に取られた俺たちをおいて
似たもの同士の親友二人は自転車で遠ざかっていったのだった。
195 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/09/26(土) 00:13:29 ID:H+Cu6orx0
終わり。
絵は想像しないほうが良いと思われ。