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174 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:40:00 ID:zcDBd6Xy0
釈迦堂さんで一本投下
175 名前:追加メニュー・1[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:43:01 ID:zcDBd6Xy0
「ビタミンDは……日光に当たらないと欠乏しやすい、か……」

多馬川沿いを歩くワン子。
歩きながら読んでいるのは、栄養学の本だ。
持ち前の集中力で本に没頭していた。

だから、その男がすぐそこに近づくまで気づかなかった。

「よう、久しぶり!……ってほどでもねえか?ハハハ、元気そうだな、一子」

「しゃ、釈迦堂さん!?」

元川神院師範代、釈迦堂刑部が、薄笑いを浮かべて立っていた。
その薄笑いが顔から消える。

「聞いたぜ……試験、ダメだったんだってな」

「は、はい……せっかく、アドバイスもいただいたのに、申し訳ありません」

「アドバイス?……俺、何か言ったっけ?」

「はい、アタシが島津寮で練習しているときに来ていただいて
 『初撃に全てを賭けろ』『アギトを完成させてみろ』って……」

「あー、あれか……そんなたいしたこと言ったわけじゃねえよ。
 で、師範代ダメになって、今どうしてんだ?」

「今は、管理栄養士になるための勉強をしています!」

勢いこむワン子の言葉に首を傾げる釈迦堂。

「かんり……えいようし?なんだ、メシの献立考える、アレか?」
176 名前:追加メニュー・2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:46:05 ID:zcDBd6Xy0
「はい!川神院の食事の栄養バランスを考えて、
 基礎体力の向上や、体調管理の面で貢献していこうと思っています」

「へえ……じゃあアレか、もっと野菜食え、とか言われるのか?」

「そうですね、今の川神院の食事は、ちょっと肉類に偏りすぎてるので
 その辺も改善していきたいです」

「オイオイ、川神院で俺が気に入ってたのは、メシに肉が多いことだったのによ。
 あーあ、これじゃあ、ますます帰りたくなくなっちまったなぁ」

「あ……で、でも……」

ワン子が困った表情になるのを見て、釈迦堂が慌てて言葉を打ち消す。

「ああ、おい、冗談だ。だいたい、破門になった身で、戻れるわきゃねーって。
 しかし……そっか、別の道、見つけたんだな」

「はい!あのとき、釈迦堂さんは
 『試験が駄目でも柔軟に考えろ』ともおっしゃってくれました。
 時間はかかったけど……今は、新しい道に邁進してます!」

「へっ……俺なんかが言ったつまんねぇ事、よく覚えてたもんだ。
 お前バカなんだからよ、そんな余計なこと覚えてねえで、なんだ、その……
 栄養士の学問でも、頭につめこんどけ」

「はい!ありがとうございます!」

「ま、しょんぼりしてんじゃねえか、と見にきてみたが、これなら大丈夫だな。
 あと……お前、男できたろ?」

「うえっ!?どどどどどうしてそんな!?」
177 名前:追加メニュー・3[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:50:00 ID:zcDBd6Xy0
顔を真っ赤にする一子を見て
かか、と笑い声をあげる釈迦堂はどこか嬉しそうだ。

「ハハハ、体つき見ただけでも、それぐらい、わかっちゃうんだぞー。
 ……相手はアレか、この間、俺に突っかかってきたニイチャンか?」

「あう……はい……」

「新しい道も見つかった、彼氏もできた。
 よかったじゃねえか、なあ!モノは考えようってヤツだ。
 さぁて、それじゃ俺ぁそろそろ行くが……達者でな、一子」

「は、はい……あの!」

「んー?」

「釈迦堂さんは、新しい道は、見つけられたんですか?」

「あー、俺ぁ駄目だ。強いヤツと戦ってりゃあ、それでいいってヤツでな。。
 もうな、この生き方、この道しか俺にはねえんだよ。
 ……やり直すには、年食っちまったしな」

「そ、そんなことないです!釈迦堂さん、すごい人だと思います!
 あの……もったいないです!釈迦堂さんが、教える側だったら……!」

「……お前だけだなぁ」

「え?」

思いだす。沖縄の頃。川神院に来たばかりの頃。
周囲はいつだって、自分を獣のように見て、恐れ、嫌っていた。
ただ一人、この少女を除いては。
178 名前:追加メニュー・4[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:53:05 ID:zcDBd6Xy0
川神院に来て、強さだけは認められたが
それは自分の中の獣が認められたにすぎなかった。
師範代になり、ルー・イーと対立したときも
自分と意見を同じくする者たちでさえ
遠巻きにして、近づこうとはしなかった。

そんな自分に進んで接してきたのは、同じように心に獣を宿した川神百代と
この川神一子だけだった。

自分の中の獣を恐れながら
自分と意見を違えながら
それでも、一子は自分に、他の人間と同じように接していた。

(コイツが俺の弟子だったら、違う今があったのかなぁ……)

「いや……何でもねえ。じゃ、あばよ」

「はいっ!……ありがとうございました!!」

背を向けた釈迦堂に、一子が深く頭を下げ礼をする。
振りかえらず、軽く片手をあげてそれに応え
釈迦堂形部はいずこともなく去っていった。

そして、数日後。
多馬川のほとりに、弟子たちに稽古をつける釈迦堂の姿があった。

「さぁて、そろそろメシにすっかぁ?」

「師匠ー、ウチの実戦訓練の相手って、アレどうなったん?」

「ああ、アレな……ちょっとな、予定変わっちまった。
 お前にゃ別の相手探すことにしたから、もうちょっと待てや、な」
179 名前:追加メニュー・5[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:56:05 ID:zcDBd6Xy0
「えー!?なら、また実戦はお預けー!?」

「すねるな。スゲー強いヤツ探してやっから、それまで腕磨いとけ」

「……はーい」

「よぉし、んじゃメシ食いに行くか!」

釈迦堂を先頭に、ゾロゾロと商店街のほうに向かう。

「げ、また梅屋?」

「あ?なんだよ、梅屋サイコーだろ?」

やや不満顔の弟子たちを置いて、さっさと店に入ると食券の自動販売機に向かう。

「へっへっへ、豚丼、豚汁、単品とろろ、っと……
 これ、セットメニューにしてくんねえかなー」

「……師匠、その組み合わせばっかりで飽きねーの?」

「んー?……そうだな、飽きはしねえが……」

ポチ

「あれ、師匠でもサラダなんて食うんだ」

「バカヤロ、人間はなぁ、肉ばっか食ってないで、野菜も食わなきゃ駄目なんだよ!
 お前らも、サラダ食えよサラダ!」

こうして
釈迦堂刑部の梅屋オススメメニューに「サラダ」が加えられたのであった。
180 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 22:57:40 ID:zcDBd6Xy0
終わり。
釈迦堂さんもワン子の前ではちょっといい人。恐るべしワン子パワー。