Returner
93 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:04:26 ID:+Q03/7PB0
>>25からの続編投下
94 名前:Returner・1[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:07:32 ID:+Q03/7PB0
クリスの提案で、島津寮に風間ファミリーのメンバーを呼んで
再来日したマルギッテの歓迎会を開くことに。
始める前、マルギッテは
「クリスお嬢様はともかく、私がそう歓迎されるとは思えないのですが」
とか言っていたのだが
いざ宴会が始まればけっこう盛りあがっていた。
「ところでさー、マルって川神学院には戻らないの?」
宴もたけなわ、というところでワン子の質問。
「私もクリスお嬢様と一緒に退学届を出している。
復学はないと考えなさい」
「でも、自分も復学したんだから、マルさんも戻ってくれると嬉しいな」
「復学には、全校生徒の4分の3以上の署名が必要と聞いています。
私にそれほどの人望があるとは思えません」
「そんなもん、やってみなきゃわかんねえだろ!
可能性がゼロじゃねえなら、チャレンジあるのみ、だぜ」
「いや、まず大事なのはマルギッテの気持ちだ。
マルギッテ……川神学院に戻りたいか?」
皆の視線がマルギッテに集中する。
そんな中で、彼女は苦笑いを浮かべた。
「……おかしなものだな」
95 名前:Returner・2[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:10:41 ID:+Q03/7PB0
「一緒に過ごしたのは、日数にしてたった一月半ほどだ。
特に親しい者ができたわけでもない。
あの場所に戻る必要など何もない……」
「……マルさん……」
「それなのに……戻ってみたいという気になっている。
以前の私なら、そんな無駄なことは気にもかけなかっただろうにな」
「わかった。戻りたい、というなら手を貸すぜ」
「ですが、実際問題、署名のことを考えると復学は無理でしょう。
私のことは気にせず、二人で学園生活を楽しみなさい」
「いや、キャップじゃないが、やってみなきゃわからん。
実はな、マルギッテの場合
復学に全校生徒の4分の3の署名はいらないんだ」
「え、そーなの?」
「ああ、マルギッテ2ーSだったろ。
俺、2年に上がるときに、ちょっとSクラス入るか考えて
いろいろ調べたんよ」
「おいおいマジかよ。大和がSクラスとか行ってたら
俺様達エライ目にあわされてたかもな」
「まあ結局、向いてねーわ、ってんでやめたけどな。
で、話戻すけど、Sクラス生徒が一度退学して復学する場合
全校生徒4分の3の署名は必要ない」
「それでは、マルさんは無条件で戻れるのか?」
96 名前:Returner・3[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:13:47 ID:+Q03/7PB0
「いや。その代わりに、所属していたクラスの生徒
全員の承認が必要、ってことになってる」
「それは……条件としては、むしろキビシイ」
「京の言うとおりかもな。Sクラスは競争の激しいところだ。
一度いなくなったライバルが戻ってくるのを
そうやすやすと受け入れるかどうかはわからん」
「そこは軍師の腕の見せどころ、というわけだな、弟?」
「復学を希望する生徒が、クラスメートに陳情書を書いて
それを読んで生徒が投票する、ってスタイルなんで
そうそう小細工もきかないけどね」
「大事なのはマルギッテさん本人の誠意、ということですね」
「でも、文章一つで印象ってけっこう変わるよ。
僕たちもアドバイスしたほうがいいんじゃないかな」
「いい意見だモロ!じゃ今から陳情書の文章、アイデアだしていこうぜ!」
「ねえねえ京?チンジョーショ、って……なに?」
「『してください』っておねだりする手紙と思いなさい、ククク」
「?何をしてもらうのかわかんないけど、おねだりは得意よ!」
「まあ、そういうことであればお願いするが……
このメンバーのアドバイスを元にして大丈夫なのだろうか」
「うん、まあ……たぶん」
97 名前:Returner・4[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:16:58 ID:+Q03/7PB0
いろいろなアドバイスが飛び交い
それをいちいち肯きながらマルギッテは聞いていた。
が、いざ陳情書を書くとなると
「すまないが、書くのは私一人で書きたい」
と言ってその場はお開きになった。
どんな陳情書になるかわからんが、とりあえず情報収集かな。
――そして翌、月曜日。
「お帰り大和。どうだった?」
俺とクリスの復学の手続きついでに、学院での情報収集。
寮に戻ったとたん、先に帰っていたクリスがいきなり尋ねてきた。
「ん……Sクラスなんであんまり情報も掴めなかったが
今のところ五分五分ってとこかなぁ」
「五分五分、か……」
「ああ。明確に反対の意思表示をするヤツはいないんだが
もろ手を上げて歓迎ってヤツもいない」
「そうか……陳情書次第というところだな」
「ところで、マルギッテはどうしてる?
もう陳情書は書き始めてるかな?」
「それが……昨晩は自分の部屋に泊まったんだが
まだ書いてはいないらしい。
なんでも『気持ちを見つめなおしたい』んだそうだ」
98 名前:Returner・5[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:20:02 ID:+Q03/7PB0
本人の納得のいくようにさせたい気もするが
時間もそう余裕があるわけじゃないしな。
「ちょっと様子みたいから、2階にあがらせてくれ」
「わかった、自分も行こう」
2階に上がり、クリスの部屋の前で聞き耳を立てる。
が、物音一つしない。
「マルさん、入るぞー?」「邪魔するよー」
「……どうぞ」
部屋の真中で、マルギッテは座禅を組んでいた。
「静かだと思ったら、瞑想中だったのか」
「ええ、川神百代に教わりました。
気持ちを整理するには、なかなかよいものですね」
「で、陳情書なんだけど……どう?書けそう?」
「はい。今からでも書き始めようと思います。
それで……申し訳ないのですが、また一人にしていただきたいのです。
書きあがったら、お呼びしますので」
「うん、マルさんの好きなようにしてくれ」
「ありがとうございます、クリスお嬢様」
最悪、俺が代筆することも考えてはいたが、これなら大丈夫、かな?
99 名前:Returner・6[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:23:05 ID:+Q03/7PB0
部屋を出て、クリスと廊下で顔を見合わせる。
「とりあえず、居間で待つことにするか」
「ん、そうだな」
階段を降りかけたところで
今出てきたばかりのクリスの部屋のドアが開く。
「ん?何、マルギッテ?足りないものでもあった?」
「いえ、もう書き終わりました」
「早っ!?」
1分もたってねーぞ!
「いや、あの、マルさん?……本当に、もう書き終わっちゃったのか?」
「ええ、気持ちの整理はついていましたから。
作戦が決まったなら行動は迅速に、です」
迅速にもほどがある。
というか……
「まさか、どうせ無理だろうと思って
いい加減な陳情書書いてないだろうね?」
「それでは、昨晩の皆の好意を裏切ることになる。
そんなことはしない」
「じゃ、ちょっと見せてくれる?」
100 名前:Returner・7[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:26:19 ID:+Q03/7PB0
「いや、それは……!その、勘弁してもらえないだろうか」
「なんでさ」
「色々と……恥ずかしい文章になってしまった……気がするのです」
うお、モジモジするマルギッテ。新鮮だ……とか喜んでもいられない。
「恥ずかしい、って、2-Sの皆が読むんだぞ。
ここで俺たち二人に読まれるぐらいを恥ずかしがってちゃ困る」
「う」
「いいじゃないか大和、自分はマルさんを信用してるぞ!
それじゃ、その陳情書は自分が預かろう。明日、学院に提出してくる」
「お願いします。それでは、私は自分の部屋に帰ります。
クリスお嬢様、直江大和……ありがとう」
颯爽と寮を後にするマルギッテ。
その顔は、どこか晴れやかだった。見送る俺。
そしてクリスは……陳情書の入った封筒を手に、そわそわしていた。
「落ちつけ。ここでお前がそわそわしてもしょうがないだろ」
「いや……これ、やっぱり読んだらマルさんに悪いかな?」
「騎士にあるまじき行為だぞ?」
「む……そ、そうだな、我慢しよう」
騎士とお嬢様の板ばさみになっていた。
101 名前:Returner・8[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:29:22 ID:+Q03/7PB0
火曜日に陳情書を提出。
翌日の水曜日のHRで承認の決を取るという
かなりスピーディな展開だった。
「裏掲示板でも、ほとんど話題になってないね」
「まあ2-Sの内輪だけの話みたいなところあるしな」
秘密基地のパソコンで、モロと情報の確認をしたが特に収穫はなし。
あとは……担任の宇佐美先生の結果報告待ちか。
ん……クリスからメール?
「お……なんかヒゲ先生、島津寮のほうに来るらしい」
「あれ、マルギッテの部屋じゃなくて?」
「麗子さんに身元引きうけ人になってもらってるからな」
「そっか……この際、また皆を集めようか?
島津寮なら大勢人が来ても平気でしょ」
「そうだな、気になってるだろうし、集めとくか」
二人で手分けして、召集のメールを送り、島津寮に急行。
玄関ではクリスが待っていた。
「おじゃましまーす」「ただいまー。クリス、宇佐美先生は?」
「4時頃にみえるそうだ」
そわそわしてるところを見ると
結果はまだ聞いていないようだな。
102 名前:Returner・9[sage] 投稿日:2009/09/20(日) 23:33:14 ID:+Q03/7PB0
「肝心のマルギッテはどうしてるの?」
「居間で待機中だ。人事は尽くしたから天命を待つ、だそうだ」
「余裕というか、大人だなぁ」
そうこうするうちに風間ファミリー全員集合。
「テメェら、またここに勢ぞろいかよ……」
遅れて帰ってきたゲンさんが、俺達を見てげんなりしていた。
「まあまあ。ゲンさん、今日は仕事は?」
「親父がここに来るんだろ?そんで合流してからだ」
受け答えしながらテキパキと動いている。
「ほれ、茶菓子だ。マルギッテはいちおう客だろ、まったく。
ちったぁ気ぃ使えお前ら。あと、えーと……マルギッテ」
「何か、源」
「こんな風に集まられちゃ、うるさくてかなわねえ。
こういうのは、これからは学院でやってくれ」
「わかった……そうできれば、な。ありがとう、源」
「……礼なら、復学してからコイツらに言ってやれ」
ゲンさんも何気に応援してくれていた。
104 名前:Returner・10[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 00:00:43 ID:+Q03/7PB0
やがて4時。
予定ピッタリに宇佐美先生はやってきた。
「いらっしゃい、宇佐美先生」「待ってました!」
「おー、すごい歓迎だな。自分のクラスでも、こんなに歓迎されたことねえぞ。
オジサン、ちょっと嬉しくなっちゃったよ」
「んなことより、親父、結果は?」「OKか?OKなんだろ?」
「……待ってたのは結果のほうね。ま、そうだよな……
よ、マルギッテ」
「お久しぶりです、宇佐美先生」
「それで、結果はどうだったんですか?」
「あせるなよ、直江。がっついてると、嫌われるぜ?
……ま、これを見てくれ」
バサバサッとテーブルの上に紙片がぶちまけられた。
「何ですかこれ?」
「投票用紙だ。わざわざ持ってきちゃったぜ。
そうだな、直江、ちょっと読んでみ」
「投票用紙って、無記名で承認か反対に○してあるだけじゃ?」
「本来はな。けど、けっこう余白に色々書いてある。ま、いいから読め」
「はい、じゃあ……読みますね」
105 名前:Returner・11[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 00:03:58 ID:ep7akMpb0
投票用紙を1枚手にとって広げてみる。
「えー……『承認。同じ匂いのするヤツが、もう一人ぐらいいてもいい』……同じ匂い?」
「それは……たぶん忍足あずみでしょう。意外です。彼女が受け入れるとは」
「次。『承認。美しい女性は多いほうが楽しいものです』。これは葵だな」
「彼らしい……」
「次。『承認。女性としての魅力はもう感じないが、仲間ならOKだ』。……井上か」
「次いくぞ。『承認。高貴なる心をもって、受け入れてやるのじゃ』。皆わかりやすいなオイ」
「皆、相変わらずのようですね」
読んでいく投票用紙、それぞれに一言一言が書き加えられ
そしてその全てがマルギッテの復学を承認していた。
「最後の1枚だ……」
「これが承認だったら……マルさんは復学できるんだな!」
「読むぞ……
『我は、もしお前がクリスのために復学したい、というのなら
承認しないつもりであった』……これは、九鬼か」
けっこう長いな。続けて読む。
「『だが、陳情書でお前の気持ちはよくわかった。
それとともに、我もクラスメートというものが何なのか
改めて考えさせられた』」
106 名前:Returner・12[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 00:07:21 ID:ep7akMpb0
「ね、ねえ、承認なの、反対なの、どっちなのよぅ!」
「待てって!えー……
『よって、我は汝マルギッテ・エーベルバッハを
再び迎えいれようと思う……承認』!」
一瞬の静寂。
そして
「やっ…たぁー!!」「やったぜ、マルー!」「おめでとうございますー!」
沸きあがる歓声。
「いやー、オジサンこれ読んで、いい年してちょっと感動しちゃったよ。
……ちょっと銀八先生みたいだよな?」
「ううん、全然」
「相変わらずキツイな椎名は……ま、いい。
マルギッテ、そういうわけだから
明日学院まで来て、手続きしろや」
「了解しました……その、ありがとうございました」
「礼なら明日、クラスで皆に言いな。
じゃ、オジサンはこれで……」
来たときと同じように、ひょうひょうと宇佐美先生は帰っていった。
「いやー、しっかし、あの2-Sが全員一致とかスゲーじゃん、マル!」
「そういやよ、結局、どんな陳情書だったんだ?」
107 名前:Returner・13[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 00:10:26 ID:ep7akMpb0
皆の視線がマルギッテに。
「マルさん、もう承認は得たんだし、教えてくれても」
「わ、わかりました。ちょっと照れますが……こう書きました。
『私は、お前たちが好きだ。そばにいたい』」
ざわっ……!
静まり返ったその場が、一瞬のうちに喧騒に包まれる。
「……なんという告白!」「ラ、ラブレター?」「こりゃ落ちるわ……」
「ま、まだ続きはある!
『また共に競い合い、共に戦い、共に笑おう』と」
「……おー」「うん、短いが、いい言葉だ」
なるほど、九鬼が納得するわけだ。
馴れあいではない、共に競いあうライバルではあるけれど
時には同じ目標を目指し、力を合わせて戦うこともあるだろう。
そしてその結果に、時には共に笑い、時には涙を流すこともあるだろう。
いかにも2-Sらしい仲間意識だった。
「いやあ、カッコイイな、マルギッテ」「うんうん、さすがはマルさんだ!」
「いえ……その、気持ちを素直に言葉にしただけですから」
(そして……これは……お前たちに向けた言葉でも、ある)
隣でつぶやくマルギッテの声が、かすかに耳に届いた。
うん、俺も……承認だ。
108 名前:Returner・14[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 00:13:27 ID:ep7akMpb0
翌朝。
登校前、親不幸通りのマルギッテの部屋に、クリスと共に向かう。
「マルさーん?起きてるー?」
ガチャリとドアが開き、いつもの軍服姿のマルギッテが姿をあらわす。
「おはようございます、クリスお嬢様、直江大和。
登校にはまだ早いと思いますが?」
「あー、やっぱり……
大和、ちょっと外で待っててくれ」
「いいけど?」
俺を置いて二人が部屋の中へ。
そして待つこと数分。
何か中でもめているようだが、よく聞こえない。
やがて再びドアが開き、今度はクリスだけが出てくる。
「あれ、マルギッテは?」
「今来る。ほら、マルさん!大和にも見せてやろう!」
「あ、あの…ちょ、これは、その……やはりですね、私には……」
「いいからいいから!ほら!」
「うお!?」
クリスに手を引っ張られて出てきたマルギッテは
なんと川神学院の制服姿だった。
109 名前:Returner・15[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 00:17:17 ID:ep7akMpb0
「これは……何というか」
「あ、あまりジロジロ見るな……
クリスお嬢様……こういう姿は、慣れていないし私には似あわない」
モジモジしながら力なく抗議する、その姿が可愛い。
「いや、いいよ、似あう似合う、すげえ可愛い!」
「うん!自分も、マルさんはこういう格好したら可愛いだろうな、と思っていたんだ!
せっかく心機一転して復学するんだから
着るものも変えたほうがいいと思って準備しておいたんだ」
「ナイスアイデアだ、クリス」
「か、からかわないでください!」
「からかってなんかいないぞ?
さあ、早く学院に行って皆にお披露目だ!」
「あ、ちょ……待って!……もう!
仕方がないですね……」
クリスが強引にマルギッテの手を引っ張って
朝の川神の街を走り出す。
「遅いぞ大和ー!」
やれやれ。元気あふれる騎士娘と、怒ると怖いその保護者。
ついていくのは大変だけど……ま、俺も走るか。3人一緒で。