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FAQ A版
2016-04-01
ゲーム
2015-05-21
FAQ S版
開始行:
***ヒート! ジョーカ-!
#pre{{
455 名前:名無しさん@初回限定[] 投稿日:2009/10/15(木) 1...
もしも大和達が英雄を倒すのがもう少し長引いていたら、とい...
}}
#pre{{
456 名前:ヒート! ジョーカ-![] 投稿日:2009/10/15(木)...
『力を貸してください』
対馬家を訪ねてきた直江大和という少年はそう切り出した。
話を聞けば、姉貴分を学校公認の合戦で負かせたいのだと。
その為には、どうしても自分の力が必要だと判断したらしい。
姉貴分の名は川神百代。
会った事はまだないが、その存在は十分すぎるほど知っていた。
自分と同じ日本を代表する武道四天王の一人にして、川神院の...
一説では、四天王最強という触れ込みも出回っている。
現に、橘天衣と九鬼揚羽が敗れたのは紛れもない事実だ。
竜鳴館以上に武闘派として名高い川神学院の学生達といえど手...
話を全て聞き、しばらく考えてから承諾した。
歪み始めた後輩を叩き直すのは先輩の義務。
それに、絶対に姉を負かせてみせると語る直江の瞳は燃えてい...
決意と志、そして情熱の炎で。
まるで、あの時のレオのように。
だからこそ、信頼に値すると思った。
力になりたいと思った。
だが、それが――――。
(これほどの激戦になるとはな!)
百代の猛攻により、目前で九鬼揚羽と新たな四天王を襲名した...
残されたのは、自分一人だけ。
ならば、全身全霊で立ち向かうだけだ。
「さて、最後の一人だな! メインディッシュだ!」
}}
#pre{{
457 名前:ヒート! ジョーカ-!②[] 投稿日:2009/10/15(木...
百代が超スピードで突進してくる。
乙女は真与を軽く突き放し、安全圏に退避させてから迎え撃っ...
拳と拳がぶつかりあい、大気が震動する。
まともに衝撃で押し切られる前に、乙女は自身の勢いを蹴りに...
「制裁――――」
「――――されるつもりはない!!」
死角からの蹴りを見もせずに腕で受け止め、正拳突きで繰り出...
それを乙女は受け流すと同時に反転させ、百代の背に回り込ん...
全身の動きを封じる鉄流の関節技。
倒す事が不可能なら動きを完全に止めればいい、という発想だ...
少なくても、直江大和達が相手の大将を討ち取るまで。
「自爆技を使われようと、何度でも耐え抜いてみせる!」
「アジだなぁ、乙女さん!」
「戦いが終わるまで、私と我慢比べをして貰うぞ!」
「生憎、それほど気長じゃないんだよ。うおおあああああああ...
百代が吼えた。
強引に、極めて無茶苦茶に振りほどこうとする。
全身から骨が軋んで関節筋が千切れる音が聞こえ始めた。
人間としての活動限界を容易く超える動作だった。
嫌な音が鳴り響いたのも束の間、無理矢理振りほどいた腕で百...
その打撃に、もう自らの体を砕いた形跡は見受けられない。
(やはり瞬時に回復するか!)
咄嗟に腕を交差させ、衝撃吸収に最も適した防御をする。
しかし、拳が生み出した振動波にガードを貫通された乙女の体...
}}
#pre{{
458 名前:ヒート! ジョーカ-!③[] 投稿日:2009/10/15(木...
「ぐあああああああああああっ!!」
河原を何度も横転し、ようやく乙女の体は停止する。
彼女の体が転がった跡は、砂利が抉れ茶黒い土が剥き出しにな...
「どうした? もう反撃して来ないのか? それでは晩節が汚...
立ち上がろうとした瞬間、接近した百代に容赦なく蹴り飛ばさ...
またしても乙女は宙を舞い、今度は距離を置いた筈の真与の手...
真与に激突しなかったのは乙女の執念だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……心配するな…お前は私が守り抜く」
しかし、明白な事実は認めざるをえない。
川神百代は『力』では自分達を遙かに凌駕している。
噂に違わず、四天王最強だ。
(だが、それでも……)
たとえ、力で劣ろうと。
その差が明白であろうと。
(魂だけは、負けていない!!)
裂帛の気合いを込めて、再び立ち上がる。
ぐらつく足に力を込める都度、ある記憶が甦った。
459 名前:ヒート! ジョーカ-!④[] 投稿日:2009/10/15(木...
「おいおいおいおい、これヤバいんじゃねーか!?」
対馬家の居間。
ポップコーンをあちこちに食い散らかしながら蟹沢きぬが声を...
雪広アナウンサーによって実況中継される川神大戦。
橘館長以外に負ける所など想像すらできなかった風紀委員が一...
鉄乙女を知る者にとって、これほどショッキングな映像があろ...
「あわわわ…乙女さんがズタボロだなんて……あんな恐ろしい女が...
アレに比べりゃ俺のねーちゃんなんてフカみてぇなもんだぜ…...
「バーカ、俺達が信じないでどうするんだよ?」
わななく鮫氷新一に伊達スバルが落ち着いて言う。
もっとも、その視線はこの場の誰よりも画面に釘付けになって...
「…大丈夫だろ、レオ。乙女さんなら、きっと何とかする。そう...
「いや、俺は信じちゃいない」
「ボウズ?」
レオは今朝を思い出す。
『じきに大学も卒業。教師になる以上、この戦いが最後の死合...
そう笑って勇ましく出陣していった、最愛の人。
彼女がそう断言した以上、きっとそうなるに違いない。
「疑わないだけだ。俺の恋人(あね)は無敵なんだから」
}}
#pre{{
460 名前:ヒート! ジョーカ-!⑤[] 投稿日:2009/10/15(木...
数年前の体育武道祭。
自分よりも力量が上の相手に果敢に立ち向かった最愛の恋人(...
満身創痍になって何度倒れても決して心は折らず、そして最後...
あの日の瞬間は、今でも脳裏に焼きついている。
自分が彼を愛し始めた頃の、煌めく思い出なのだから。
そして今、自分があの時の弟とほぼ同じ状況に立たされている。
(今度は…私の番だな)
弟は立派に戦い抜いた。
ならば、姉が倒れる訳にはいかない。
倒れる事は許されない。何よりも自分が許しはしない。
(まだ勝機はある!)
技の修練を積んできた自信と幾多の戦いをくぐり抜けてきた経...
たった一つだけある。
川神百代という驚異の存在を戦闘不能にする手段が、思いつく...
九鬼揚羽と黛由紀江――――彼女達のおかげで。
いや、彼女達だけじゃない。
何よりも、自分を奮い立たせてくれるレオのおかげで。
「甘粕…というらしいな。お前に弟はいるか?」
「は、はい。います」
「そうか」
優しく微笑んで、そっと頭を撫でる。
「大事にしてやれ」
きっと、とてつもない力を与えてくれるから――――。
}}
#pre{{
461 名前:ヒート! ジョーカ-!⑥[] 投稿日:2009/10/15(木...
「行くぞ、川神百代!!」
(護衛対象から離れて、向かってくる?)
この状況で大将をノーガードにするのは相当に分の悪い賭けだ...
今のところ気配は感じられないが、もしも交戦中に他の敵兵が...
しかし、このまま護衛重視の戦い方をしていても絶望的な結末...
この決死の判断でさえ、百代にとっては涎が出るような展開だ...
「完全決着を望むか? いいだろう! 大将はデザートだ! ...
「はああああっ!!」
拳の一斉掃射の弾幕に乙女は真っ向から飛び込んだ。
被弾しながら、何故か乙女は少し笑っていた。
(本当にお前の時と同じだな、レオ!)
レベルはまるで別次元だが、百代の連続攻撃が村田のガトリン...
懐かしい奇妙な感覚が胸を駆け抜け、不思議と笑みが滲み出る...
「蛮勇か。もっとも、そういうのは嫌いじゃない!! 餌食に...
弾幕を突破した瞬間、強烈な閃光が乙女を捉えた。
「ぐ……おおおっ」
じりじりと押されながらも、ひるまず止まらず猛然と駆ける。
川神波の閃光でさえ、接近する為の布石として利用した。
放出が終わった百代の目に、突如乙女の姿が飛び込んでくる。
間髪入れず、強靱な腰を回転させ力を注がれた攻撃が放たれた。
「きりもみ乙女パンチ!!」
}}
#pre{{
463 名前:ヒート! ジョーカ-!⑦[] 投稿日:2009/10/15(木...
大地に放てば螺旋状のクレーターが誕生するほどの衝撃が百代...
並の人間なら、確実に首から上がねじ切られていただろう。
だが、百代相手ではせいぜい意識を刈り取る程度でしかない。
加えて、意識が完全にブラックアウトする寸前に念じてさえお...
それ故か、昏倒しながらも百代は笑っていた。
(たかが一瞬だ……)
(一瞬で十分だ!!)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
百代の動きが完全に停止した一瞬の隙をついて、気をまとった...
二人の体は組み合いながら、再び天空へ上昇していった。
その最中、復活した百代の腕が乙女を力強く掴む。
「かかったな、鉄乙女!!」
互いに回避不可能な至近距離。
「終わりだ! 吹っ飛べ!! 川神流・人間爆弾っ!!」
一瞬の静寂の後、一筋の光が横一線に迸る。
直後、爆炎と爆音が同時に産声をあげ、青空を黄金色に照らし...
黒煙がたなびき粉塵が舞い散る中、百代は確かに乙女の体が自...
(勝った!)
早く煙が晴れて乙女が落下する様を見届けたい。
はやる心のせいか、時の流れが止まったように感じられ、笑う...
だが――――煙の隙間から自分を見つめている瞳に気づき、その心...
(何故まだそこにいるっ!?)
}}
#pre{{
465 名前:ヒート! ジョーカ-!⑧[] 投稿日:2009/10/15(木...
全てがスローモーションになっている二人だけの世界。
拳一つ分の間隔が開いた至近距離で、乙女が構えている。
全身に夥しいダメージを負いながら、彼女の眼差しから闘志は...
むしろ、より一層烈しく燃えたぎっていた――――。
(耐えきっただと!? 何故だ!?)
(気合いだああああああああっ!!)
前言通りに乙女が人間爆弾を耐え切れたのは、持ち前の根性の...
しかし、それ以上に揚羽へ使用していた事を見ていたのが大き...
威力、そして自ら負ったダメージから回復する所要時間も全て...
同じ技は二度と通じない、とまではいかないが後のない最後の...
(見切るのが得意なのは、お前だけじゃない!)
(だが、どんな攻撃を受けようと所詮は一瞬のみよ!)
それさえ耐えきれば――――勝ちだ。
百代はそう確信していた。
確かに、それは事実に違いなかっただろう。
乙女の攻撃次第では。
(!?)
百代は思わず目を見開く。
未だ黒煙にその身の大半を包まれている乙女の拳が宿している...
まさしく――――川神流・雪達磨。
}}
#pre{{
467 名前:ヒート! ジョーカ-!⑨[] 投稿日:2009/10/15(木...
(無断コピー…著作権違反だ!)
(はああああああああああああっ!!)
残された全ての力を結集させた渾身の一撃が百代を打ち貫いた。
常人の目には映らないほどのスピードで、百代は川へ落下して...
拳を叩きつけた反動を利用して、乙女は後方へ跳躍した。
(治れ! 早く!! まだか!?)
百代にとって、瞬間回復の速度が遅いと思ったのはこれが人生...
これは刹那の攻防。
百代の傷ついた体も失われた力も、細胞が未だ回復を開始して...
その状態で、動く事もままならず百代は水に叩きつけられた。
同時に、轟音と共に巨大な水柱が水面から迫り上がる
百代を飲み込んだまま、水柱は瞬時に凍結した。
(これが……狙いか!?)
百代とて、あらゆる攻撃を受けても無傷で済んでいるのではな...
突き詰めれば、あくまで負ったダメージと疲労が回復するスピ...
では、仮にダメージを回復するよりも前に、完全に『時』を止...
回復しきれていない状態で、氷漬けにする事ができたならどう...
(これで終わったと思うなよ、いずれ第二第三の……)
時間さえも凍りついたかのような氷柱の中。
悪の大王めいた台詞を思いながら、百代の意識は急速に薄れて...
}}
#pre{{
469 名前:ヒート! ジョーカ-!⑩[] 投稿日:2009/10/15(木...
人間爆弾を使わせて自分も大ダメージを負った百代を、雪達磨...
それが川神百代を封じ込めるべく乙女が思いついた、口にする...
一か八かの傾向が非常に強かったが、勝算がなかった訳でもな...
そうするように仕向けていた事もあるが、百代ほどの強者なら...
見よう見まねを決着の切り札として使う気になれたのは、ひと...
それらの土台である乙女の精神力が物を言う形となった。
しかし、もちろん彼女一人で獲得した勝利ではない。
揚羽への人間爆弾。
由紀江への雪達磨。
彼女達ほどの実力者がいなくては百代があれらの技を使ったと...
そうした意味で、最大の功労者はあの二人だった。
「先輩、大丈夫なのでしょうか?」
ずっと静観していた真与がとことこと寄ってくる。
「これしきで命を落とすようなら、武道四天王の一角は担って...
通常の百代なら内側から氷を破壊して難なく脱出できるだろう。
しかし、今の状態ならどうか。
自らが爆弾と化す自爆技を使う上での代償として当然な傷が癒...
脱出するとしても、かなりの時間を要する事は確実だった。
「そのまましばらく休んでいて貰うぞ。力と瞬間回復に頼り切...
先輩としての忠告。
そして、持論。
「最後に頼れるのは能力じゃない。気合いだ」
}}
#pre{{
470 名前:ヒート! ジョーカ-!⑪[] 投稿日:2009/10/15(木...
百代が眠っている氷柱を見つめた後、乙女は真与へと踵を返す。
途端に、体のバランスが崩れた。
「わわっ!」
真与が慌てて支えようとする。
それを、乙女は制止した。
「いや、いい。倒れたりはしないさ」
ゆっくりと――――しかし、しっかりと大地に足を踏みしめる。
朗らかな笑顔で、遠くにいる最愛の恋人(おとうと)に言い聞...
「私は……乙女だからな」
帰ったら、胸を張って伝えよう。
『勝ったぞ』と。
そして抱きしめてやろう。
お前がいてくれたから、勝てたのだと――――。
そして、まもなく。
F軍の勝利を告げる花火が天空に咲いた。
}}
#pre{{
471 名前:名無しさん@初回限定[] 投稿日:2009/10/15(木) 1...
おしまいです。
規制を喰らってしまった時には焦ったぁ…。
乙女さんならきっとあのまま戦っても何とかしたに違いない、...
タイトルはWからの引用&「熱血する切り札(乙女さん)」と...
}}
終了行:
***ヒート! ジョーカ-!
#pre{{
455 名前:名無しさん@初回限定[] 投稿日:2009/10/15(木) 1...
もしも大和達が英雄を倒すのがもう少し長引いていたら、とい...
}}
#pre{{
456 名前:ヒート! ジョーカ-![] 投稿日:2009/10/15(木)...
『力を貸してください』
対馬家を訪ねてきた直江大和という少年はそう切り出した。
話を聞けば、姉貴分を学校公認の合戦で負かせたいのだと。
その為には、どうしても自分の力が必要だと判断したらしい。
姉貴分の名は川神百代。
会った事はまだないが、その存在は十分すぎるほど知っていた。
自分と同じ日本を代表する武道四天王の一人にして、川神院の...
一説では、四天王最強という触れ込みも出回っている。
現に、橘天衣と九鬼揚羽が敗れたのは紛れもない事実だ。
竜鳴館以上に武闘派として名高い川神学院の学生達といえど手...
話を全て聞き、しばらく考えてから承諾した。
歪み始めた後輩を叩き直すのは先輩の義務。
それに、絶対に姉を負かせてみせると語る直江の瞳は燃えてい...
決意と志、そして情熱の炎で。
まるで、あの時のレオのように。
だからこそ、信頼に値すると思った。
力になりたいと思った。
だが、それが――――。
(これほどの激戦になるとはな!)
百代の猛攻により、目前で九鬼揚羽と新たな四天王を襲名した...
残されたのは、自分一人だけ。
ならば、全身全霊で立ち向かうだけだ。
「さて、最後の一人だな! メインディッシュだ!」
}}
#pre{{
457 名前:ヒート! ジョーカ-!②[] 投稿日:2009/10/15(木...
百代が超スピードで突進してくる。
乙女は真与を軽く突き放し、安全圏に退避させてから迎え撃っ...
拳と拳がぶつかりあい、大気が震動する。
まともに衝撃で押し切られる前に、乙女は自身の勢いを蹴りに...
「制裁――――」
「――――されるつもりはない!!」
死角からの蹴りを見もせずに腕で受け止め、正拳突きで繰り出...
それを乙女は受け流すと同時に反転させ、百代の背に回り込ん...
全身の動きを封じる鉄流の関節技。
倒す事が不可能なら動きを完全に止めればいい、という発想だ...
少なくても、直江大和達が相手の大将を討ち取るまで。
「自爆技を使われようと、何度でも耐え抜いてみせる!」
「アジだなぁ、乙女さん!」
「戦いが終わるまで、私と我慢比べをして貰うぞ!」
「生憎、それほど気長じゃないんだよ。うおおあああああああ...
百代が吼えた。
強引に、極めて無茶苦茶に振りほどこうとする。
全身から骨が軋んで関節筋が千切れる音が聞こえ始めた。
人間としての活動限界を容易く超える動作だった。
嫌な音が鳴り響いたのも束の間、無理矢理振りほどいた腕で百...
その打撃に、もう自らの体を砕いた形跡は見受けられない。
(やはり瞬時に回復するか!)
咄嗟に腕を交差させ、衝撃吸収に最も適した防御をする。
しかし、拳が生み出した振動波にガードを貫通された乙女の体...
}}
#pre{{
458 名前:ヒート! ジョーカ-!③[] 投稿日:2009/10/15(木...
「ぐあああああああああああっ!!」
河原を何度も横転し、ようやく乙女の体は停止する。
彼女の体が転がった跡は、砂利が抉れ茶黒い土が剥き出しにな...
「どうした? もう反撃して来ないのか? それでは晩節が汚...
立ち上がろうとした瞬間、接近した百代に容赦なく蹴り飛ばさ...
またしても乙女は宙を舞い、今度は距離を置いた筈の真与の手...
真与に激突しなかったのは乙女の執念だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……心配するな…お前は私が守り抜く」
しかし、明白な事実は認めざるをえない。
川神百代は『力』では自分達を遙かに凌駕している。
噂に違わず、四天王最強だ。
(だが、それでも……)
たとえ、力で劣ろうと。
その差が明白であろうと。
(魂だけは、負けていない!!)
裂帛の気合いを込めて、再び立ち上がる。
ぐらつく足に力を込める都度、ある記憶が甦った。
459 名前:ヒート! ジョーカ-!④[] 投稿日:2009/10/15(木...
「おいおいおいおい、これヤバいんじゃねーか!?」
対馬家の居間。
ポップコーンをあちこちに食い散らかしながら蟹沢きぬが声を...
雪広アナウンサーによって実況中継される川神大戦。
橘館長以外に負ける所など想像すらできなかった風紀委員が一...
鉄乙女を知る者にとって、これほどショッキングな映像があろ...
「あわわわ…乙女さんがズタボロだなんて……あんな恐ろしい女が...
アレに比べりゃ俺のねーちゃんなんてフカみてぇなもんだぜ…...
「バーカ、俺達が信じないでどうするんだよ?」
わななく鮫氷新一に伊達スバルが落ち着いて言う。
もっとも、その視線はこの場の誰よりも画面に釘付けになって...
「…大丈夫だろ、レオ。乙女さんなら、きっと何とかする。そう...
「いや、俺は信じちゃいない」
「ボウズ?」
レオは今朝を思い出す。
『じきに大学も卒業。教師になる以上、この戦いが最後の死合...
そう笑って勇ましく出陣していった、最愛の人。
彼女がそう断言した以上、きっとそうなるに違いない。
「疑わないだけだ。俺の恋人(あね)は無敵なんだから」
}}
#pre{{
460 名前:ヒート! ジョーカ-!⑤[] 投稿日:2009/10/15(木...
数年前の体育武道祭。
自分よりも力量が上の相手に果敢に立ち向かった最愛の恋人(...
満身創痍になって何度倒れても決して心は折らず、そして最後...
あの日の瞬間は、今でも脳裏に焼きついている。
自分が彼を愛し始めた頃の、煌めく思い出なのだから。
そして今、自分があの時の弟とほぼ同じ状況に立たされている。
(今度は…私の番だな)
弟は立派に戦い抜いた。
ならば、姉が倒れる訳にはいかない。
倒れる事は許されない。何よりも自分が許しはしない。
(まだ勝機はある!)
技の修練を積んできた自信と幾多の戦いをくぐり抜けてきた経...
たった一つだけある。
川神百代という驚異の存在を戦闘不能にする手段が、思いつく...
九鬼揚羽と黛由紀江――――彼女達のおかげで。
いや、彼女達だけじゃない。
何よりも、自分を奮い立たせてくれるレオのおかげで。
「甘粕…というらしいな。お前に弟はいるか?」
「は、はい。います」
「そうか」
優しく微笑んで、そっと頭を撫でる。
「大事にしてやれ」
きっと、とてつもない力を与えてくれるから――――。
}}
#pre{{
461 名前:ヒート! ジョーカ-!⑥[] 投稿日:2009/10/15(木...
「行くぞ、川神百代!!」
(護衛対象から離れて、向かってくる?)
この状況で大将をノーガードにするのは相当に分の悪い賭けだ...
今のところ気配は感じられないが、もしも交戦中に他の敵兵が...
しかし、このまま護衛重視の戦い方をしていても絶望的な結末...
この決死の判断でさえ、百代にとっては涎が出るような展開だ...
「完全決着を望むか? いいだろう! 大将はデザートだ! ...
「はああああっ!!」
拳の一斉掃射の弾幕に乙女は真っ向から飛び込んだ。
被弾しながら、何故か乙女は少し笑っていた。
(本当にお前の時と同じだな、レオ!)
レベルはまるで別次元だが、百代の連続攻撃が村田のガトリン...
懐かしい奇妙な感覚が胸を駆け抜け、不思議と笑みが滲み出る...
「蛮勇か。もっとも、そういうのは嫌いじゃない!! 餌食に...
弾幕を突破した瞬間、強烈な閃光が乙女を捉えた。
「ぐ……おおおっ」
じりじりと押されながらも、ひるまず止まらず猛然と駆ける。
川神波の閃光でさえ、接近する為の布石として利用した。
放出が終わった百代の目に、突如乙女の姿が飛び込んでくる。
間髪入れず、強靱な腰を回転させ力を注がれた攻撃が放たれた。
「きりもみ乙女パンチ!!」
}}
#pre{{
463 名前:ヒート! ジョーカ-!⑦[] 投稿日:2009/10/15(木...
大地に放てば螺旋状のクレーターが誕生するほどの衝撃が百代...
並の人間なら、確実に首から上がねじ切られていただろう。
だが、百代相手ではせいぜい意識を刈り取る程度でしかない。
加えて、意識が完全にブラックアウトする寸前に念じてさえお...
それ故か、昏倒しながらも百代は笑っていた。
(たかが一瞬だ……)
(一瞬で十分だ!!)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
百代の動きが完全に停止した一瞬の隙をついて、気をまとった...
二人の体は組み合いながら、再び天空へ上昇していった。
その最中、復活した百代の腕が乙女を力強く掴む。
「かかったな、鉄乙女!!」
互いに回避不可能な至近距離。
「終わりだ! 吹っ飛べ!! 川神流・人間爆弾っ!!」
一瞬の静寂の後、一筋の光が横一線に迸る。
直後、爆炎と爆音が同時に産声をあげ、青空を黄金色に照らし...
黒煙がたなびき粉塵が舞い散る中、百代は確かに乙女の体が自...
(勝った!)
早く煙が晴れて乙女が落下する様を見届けたい。
はやる心のせいか、時の流れが止まったように感じられ、笑う...
だが――――煙の隙間から自分を見つめている瞳に気づき、その心...
(何故まだそこにいるっ!?)
}}
#pre{{
465 名前:ヒート! ジョーカ-!⑧[] 投稿日:2009/10/15(木...
全てがスローモーションになっている二人だけの世界。
拳一つ分の間隔が開いた至近距離で、乙女が構えている。
全身に夥しいダメージを負いながら、彼女の眼差しから闘志は...
むしろ、より一層烈しく燃えたぎっていた――――。
(耐えきっただと!? 何故だ!?)
(気合いだああああああああっ!!)
前言通りに乙女が人間爆弾を耐え切れたのは、持ち前の根性の...
しかし、それ以上に揚羽へ使用していた事を見ていたのが大き...
威力、そして自ら負ったダメージから回復する所要時間も全て...
同じ技は二度と通じない、とまではいかないが後のない最後の...
(見切るのが得意なのは、お前だけじゃない!)
(だが、どんな攻撃を受けようと所詮は一瞬のみよ!)
それさえ耐えきれば――――勝ちだ。
百代はそう確信していた。
確かに、それは事実に違いなかっただろう。
乙女の攻撃次第では。
(!?)
百代は思わず目を見開く。
未だ黒煙にその身の大半を包まれている乙女の拳が宿している...
まさしく――――川神流・雪達磨。
}}
#pre{{
467 名前:ヒート! ジョーカ-!⑨[] 投稿日:2009/10/15(木...
(無断コピー…著作権違反だ!)
(はああああああああああああっ!!)
残された全ての力を結集させた渾身の一撃が百代を打ち貫いた。
常人の目には映らないほどのスピードで、百代は川へ落下して...
拳を叩きつけた反動を利用して、乙女は後方へ跳躍した。
(治れ! 早く!! まだか!?)
百代にとって、瞬間回復の速度が遅いと思ったのはこれが人生...
これは刹那の攻防。
百代の傷ついた体も失われた力も、細胞が未だ回復を開始して...
その状態で、動く事もままならず百代は水に叩きつけられた。
同時に、轟音と共に巨大な水柱が水面から迫り上がる
百代を飲み込んだまま、水柱は瞬時に凍結した。
(これが……狙いか!?)
百代とて、あらゆる攻撃を受けても無傷で済んでいるのではな...
突き詰めれば、あくまで負ったダメージと疲労が回復するスピ...
では、仮にダメージを回復するよりも前に、完全に『時』を止...
回復しきれていない状態で、氷漬けにする事ができたならどう...
(これで終わったと思うなよ、いずれ第二第三の……)
時間さえも凍りついたかのような氷柱の中。
悪の大王めいた台詞を思いながら、百代の意識は急速に薄れて...
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469 名前:ヒート! ジョーカ-!⑩[] 投稿日:2009/10/15(木...
人間爆弾を使わせて自分も大ダメージを負った百代を、雪達磨...
それが川神百代を封じ込めるべく乙女が思いついた、口にする...
一か八かの傾向が非常に強かったが、勝算がなかった訳でもな...
そうするように仕向けていた事もあるが、百代ほどの強者なら...
見よう見まねを決着の切り札として使う気になれたのは、ひと...
それらの土台である乙女の精神力が物を言う形となった。
しかし、もちろん彼女一人で獲得した勝利ではない。
揚羽への人間爆弾。
由紀江への雪達磨。
彼女達ほどの実力者がいなくては百代があれらの技を使ったと...
そうした意味で、最大の功労者はあの二人だった。
「先輩、大丈夫なのでしょうか?」
ずっと静観していた真与がとことこと寄ってくる。
「これしきで命を落とすようなら、武道四天王の一角は担って...
通常の百代なら内側から氷を破壊して難なく脱出できるだろう。
しかし、今の状態ならどうか。
自らが爆弾と化す自爆技を使う上での代償として当然な傷が癒...
脱出するとしても、かなりの時間を要する事は確実だった。
「そのまましばらく休んでいて貰うぞ。力と瞬間回復に頼り切...
先輩としての忠告。
そして、持論。
「最後に頼れるのは能力じゃない。気合いだ」
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470 名前:ヒート! ジョーカ-!⑪[] 投稿日:2009/10/15(木...
百代が眠っている氷柱を見つめた後、乙女は真与へと踵を返す。
途端に、体のバランスが崩れた。
「わわっ!」
真与が慌てて支えようとする。
それを、乙女は制止した。
「いや、いい。倒れたりはしないさ」
ゆっくりと――――しかし、しっかりと大地に足を踏みしめる。
朗らかな笑顔で、遠くにいる最愛の恋人(おとうと)に言い聞...
「私は……乙女だからな」
帰ったら、胸を張って伝えよう。
『勝ったぞ』と。
そして抱きしめてやろう。
お前がいてくれたから、勝てたのだと――――。
そして、まもなく。
F軍の勝利を告げる花火が天空に咲いた。
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471 名前:名無しさん@初回限定[] 投稿日:2009/10/15(木) 1...
おしまいです。
規制を喰らってしまった時には焦ったぁ…。
乙女さんならきっとあのまま戦っても何とかしたに違いない、...
タイトルはWからの引用&「熱血する切り札(乙女さん)」と...
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