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ゲーム
2015-05-21
FAQ S版
開始行:
***誇りを胸に
#pre{{
292 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/04(...
作品別スレで、ワン子が人気投票で2位だった記念に
「ワン子が武道大会でクリスに勝って百代に挑むSS」
という話題が出たのでそんな感じのものを捏造
}}
#pre{{
293 名前:誇りを胸に・1[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「勝者、川神一子!」
高らかに勝者の名が告げられる中、ワン子はがっくりと膝を落...
クリスとの死闘を何とか制したものの、すでに満身創痍だ。
この後の2試合、可能なのか……?
いや、そもそも
優勝後の姉さんとの仕合で初手に使うまで
隠しておくはずだったアギトを勝つためとはいえ使ってしまっ...
仮にあと2試合を勝ち進み、優勝したとしても
すでに存在を知られてしまったアギトが果たして姉さんに有効...
おそらく、アギトでは通じないだろう。
アギト、では。
……いかん、ここで俺が悩んでいても仕方がない。
どうするのか、それはワン子が決めること。
俺はとにかくサポートに徹しよう。
タオルを手に、今にも倒れそうなワン子に駆け寄った。
そして、準決勝、決勝。
とにかく体力を温存させるため、派手な動きを抑えたがために
本来ワン子が持つスピードという武器が使えなかったし
クリス戦のダメージも抜けていなかったため
どちらも、ギリギリの勝利だったが
とにもかくにも第一関門は突破した。
後は、姉さんとの仕合のみ。
俺の中では、何とかワン子を勝たせたいという気持ちと
無事に終わってほしいという気持ちが錯綜していた。
}}
#pre{{
294 名前:誇りを胸に・2[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「大和……今まで、ありがとうね」
仕合までのインターバル。控え室で怪我の応急処置を施す俺に
ワン子が微笑みながらそう言った。
「おいおい、何だ、コレでお別れみたいな。
姉さんに一太刀浴びせて、試験に合格して、川神院の師範代...
まだまだ先は長いんだろ。それまで、俺がサポートするさ」
「うん、ありがと。でもね、ひょっとすると……これで、最後に...
だから、言っておきたかった。ありがとう、大和」
「……使うのか」
「うん」
何のためらいもなく、ワン子はうなずいた。
やめろ、と言いたかった。
そこまでしなくても、と止めたかった。
この先もずっと、元気なワン子と一緒でいたかった。
でも、ワン子は選んだ。
だから、俺もそれに応える。
「よし、じゃ腕出せ。マッサージだ。
万全……とは言えないかもしれないが
イメージどおりに技が決まるように、できるだけはしよう」
「うん、お願い!」
差し出された両腕をマッサージしながら
俺はあの日に記憶を飛ばしていた。
}}
#pre{{
295 名前:誇りを胸に・3[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「おう、やってるな一子!」
「釈迦堂さん!?」
仕合に向けて山中で特訓中のワン子と俺の前に
また、いつぞやのオッサンがやってきた。
山篭りしてるのに、なんでこの場所がわかるんだ……
「そろそろアギトも完成だな……へへ、こりゃ百代との仕合も楽...
「ありがとうございます!」
「……わかってるとは思うが、大会ではアギトは使うなよ。
一度でも百代に見られたら、もう通じねえぞ」
「はい!」
「だが……もし、大会に強敵が現れて、どうしてもアギトを使わ...
そんな状況になったら、お前どうする?」
「その時は、アギトを使ってでも勝ちます!
勝ち続けなければ、先に進めませんから!」
「そうだ!それでいい、負けちまったら元も子もねえんだから...
で、その場合……百代との仕合はどうすんだ?」
「わ、私にはアギトしかないと思います。はじめの予定通り、...
「はあ……お前らしいなぁ……一途というか、バカというか。
やっぱルーに似ちまったんだなぁ」
釈迦堂さんが、ため息をつきながらワン子に近づいていった。
}}
#pre{{
296 名前:誇りを胸に・4[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「薙刀、貸しな」
「は、はい……?どうぞ」
ワン子が差し出した薙刀を受け取り、釈迦堂さんが今度はスタ...
「俺ぁもう師範代じゃねえ。破門になった身でお前に技を教え...
だからここで、ちょっとした技を見せる。見せるだけだ。い...
「は……はいっ!」
「よし……技ってなぁ、一つ覚えてそれっきりじゃねえ。
一つ覚えて、その技が完成したなら、そっから応用させるこ...
これから見せるのは、アギトの応用技だ……いくぞ!」
釈迦堂さんが構えを取る。
「ふうううううううぅぅぅぅぅぅ……」
水面が波立つ。木々が震える。川原の石がカタカタと跳ねる。
緊迫した空気の中、震える小枝から一枚の木の葉が落ちた、そ...
「はあっ!!」
ごぅん!!
……見えなかった。俺には見えなかった。
ただ、すさまじい轟音がして、釈迦堂さんは、薙刀を突き出し...
そしてその突き出した薙刀の先の地面が一直線に
十数メートルに渡って抉り取られていた。
「見たか、一子ォッ!!」
}}
#pre{{
297 名前:誇りを胸に・5[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「す……すごい……これが、アギトの応用……」
「見えたのか、ワン子!?」
「うん……かろうじて、だけど切っ先の軌跡は追うことは出来た...
「お、てえしたもんだ……あたた、慣れない薙刀なんぞ振ったか...
さて、今のが俺オリジナルのアギト応用技だ。
川神院を破門になってから編み出した技だから、ジジイもル...
コイツを使えば、まず間違いはねえだろ」
「あ……ありがとうございます!よーし、早速……!」
「あー、練習は、するな」
「……え?」
「言ったろ。俺でも一度使うとな、腕が痛んじまってしょうが...
ハッキリ言って、今のお前じゃ技の最後まで腕がもつかどう...
練習なんぞして、それで腕がオシャカになっちまったら仕方...
イメージだ。頭ン中でイメージだけを繰り返せ。ぶっつけ本...
「は、はい……わかりました」
「……もう一つ、言っとくぞ。
コイツは腕にかかる負荷がハンパねえ。お前じゃ最悪、両腕...
師範代になるどころか、その後の一生、腕をまともに使えな...
それでも、やるか?」
「ちょ……それじゃ意味ないじゃないですか!?」
「小僧は黙ってろ!!……どうだ、一子?その覚悟は、あるか?」
}}
#pre{{
298 名前:誇りを胸に・6[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
一子は少しの間、うつむいて、黙って、考えていた。
やがて、顔を上げ、キッパリと答えた。
「やります。
腕が使えなくなって師範代になれなくても、それはそれまで...
技を使わずに敗れ、悔いを残したまま師範代にもなれないよ...
「一丁前のこと言うようになりやがったな、まったく。
……俺ぁな、お前が入門してえって言ったとき、反対したんだ...
でもな、今は、ありゃ間違いだったかもしんねえ、と思って...
俺に、悪かった、間違いでした、って言わせてみな」
「……師範代!ご指導ありがとうございました!!」
「師範代じゃねえっつってんだろ……
あー、そうそう忘れてた……『鵺』ってんだ、その技の名前。...
釈迦堂さんが去っていく。
返された薙刀を見つめ、ワン子は動かない。
「……やるのか?両腕がダメになっても。師範代になれなくなっ...
「やるわ……だいたい、ダメになるって限ったわけじゃないでし...
場を和ませようとワン子が笑う。その笑顔を、俺は抱きしめた。
「俺は……ずっと、お前の傍にいるからな。
何がどうなっても、この先ずっと傍にいるからな!」
大丈夫、きっと上手くいく。
ワン子は技を成功させ、試験に合格して、腕もダメにならず、...
そう思っているのに、何故か涙が止まらなかった。
}}
#pre{{
299 名前:誇りを胸に・7[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
―――― そして、今。
覚悟を決めたワン子が、試合場に立つ。
「東方、川神百代!」
「ああ!」
「西方、川神一子!」
「はい!」
対峙する両者の間に、雑念はない。
ただ、向き合い、闘志を秘めて見つめあう。
観衆が固唾を呑んで見守る中
「始め!」
幕が、開いた。
間合いはまだ遠い。
ただ両者の間の気のせめぎ合いが、ピリピリと見るものを刺激...
ぶつかり合う気は周囲に漏れて弾け
耐えかねたかのように一枚の木の葉が、両者の間に舞い落ちる。
あの時のように。
そして、それを合図にしたかのように
「せやああああぁぁぁぁっ!!」
ワン子が、仕掛けた。
}}
#pre{{
300 名前:誇りを胸に・8[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
(……やはり、アギト!)
百代が一撃目を身を捻ってかわす。
(次に切り返しの打ち下ろし……速い!)
もし、あらかじめこの技があることを知らなければ
切り伏せられるとまではいかなくても、腕で防ぐしかなかった...
(一度私に見せていなければ……な!?)
打ち下ろしはかわした。そのかわしたはずの切っ先が横に滑っ...
(払いに繋げるか!)
すんでのところで、これもかわす。かわして、やや体が泳いだ...
(!?切り返し!?……上下左右、縦と横二連続のアギトか!く...
ここまでが、ほんの一刹那。
その一刹那に、上下左右からの斬撃が迫る。
(!しまっ……!)
思わず、後に下がっていた。いや、下がらざるを得なかった。
だがそれは、薙刀という長柄の獲物を使う相手に対しては致命...
(チィッ!このままでは……!)
一子が、叫ぶ。
「吼えろ、鵺ーーーッ!!」
}}
#pre{{
301 名前:誇りを胸に・9[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
(突きが来る!)
後退を始めた体は、突きが来るとわかっていても
他の回避行動に繋げにくい。そのままでは、間合いの長い薙刀...
(ならば……!)
思い切って、薙刀の間合いの先まで大きく距離を取るまで。
ワン子が渾身の力を込めた突きの切っ先は、僅かに百代には届...
だが、百代は勘違いをしていた。
来るのはただの突きではない。
上下、左右とアギトが来たのなら
この突きもまた、アギトであってしかるべきであり
そしてアギトが一対の攻撃であるのなら
この突きもまた、一対の攻撃の一つであってしかるべき……!
ごぅん!
(!?)
突然、轟音とともに、百代は衝撃に身を揺さぶられた。
上下左右、二連続のアギトは、たとえかわされても空振りでは...
超高速で切り裂いた空間は、真空に近い状態になっていた。
そこに押し込まれる、突きの剣圧!
無理やり切り開かれ、それをまた無理やり押し戻された際の衝...
それこそが、何種類もの動物の体が混じりあった「鵺」の吼え...
複数の牙を持つ異形の、最後の咆哮だった。
「ぬ…ああああぁぁぁっ!?」
}}
#pre{{
302 名前:誇りを胸に・10[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 0...
ワン子の「鵺」で発生した衝撃波を、川神院の修行僧が発した...
その衝撃波の走った道筋に
姉さんは顔の前で両腕を交差させた、防御姿勢で立っていた。
胴着はところどころ裂け、腕や足にも傷を負っている。
「……それまで!」
何が起きたのか、見るのが二度目の俺にもわからない。
だが、この状況を見る限り、やったのか?
確か、姉さんに一撃浴びせるか、防御をさせれば試験は合格。...
ガラン
……ああ、そんな。
ワン子が、握っていた薙刀を落とす。それが意味することはた...
会場のはるか後方から怒鳴り声が響いた。
「ジジイ、一子の腕を診てやれ!!」
「その声、釈迦堂か!?」
「俺のことより、一子を診てやれってんだよ!」
「どういうことじゃ、まったく……一子、腕がどうか……ッ!?」
ぐらり
ワン子の体が大きく揺らぎ、そしてそのまま倒れこみそうにな...
咄嗟に姉さんがその体を支え、抱きかかえた。
駆け寄って覗き込んだワン子の顔は
苦痛に気を失ったはずなのに、満足そうに笑っていた。
}}
#pre{{
303 名前:誇りを胸に・11[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 0...
手術は、5時間にも及んだ。
筋肉、腱、関節、血管、神経。
腕の組織のそこらじゅうが、ボロボロに千切れていたらしい。
手術は成功したが、それは切断せずにすんだ、というところで
「もう……元には、戻らないそうでス……」
ルー師範代がそう告げた後は、誰もが、押し黙っていた。
「俺は、後悔してねえぞ」
不意に、病院までついてきていた釈迦堂さんが口を開く。
「……え?」
「一子に『鵺』を見せたことを、俺は後悔してねえ。
アイツぁ見事にやってのけた。川神百代に、一太刀浴びせた...
……それで、いいじゃねえか」
「そうじゃの……褒めてやらねば、のう……
よう、ここまで……よう、ここまで……」
「じゃ、俺ぁもう行くぜ……えーと、兄ちゃん……大和っつったか...
「はい。何か?」
「一子に言っておいてくれ。
釈迦堂が、「悪かった、間違いだった」って謝ってたってな」
「自分で直接、言ってやってくださいよ」
「やなこった。俺ぁな……湿っぽいのは、苦手なんだよ。じゃあ...
}}
#pre{{
304 名前:誇りを胸に・12[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 0...
「あ、おはよー、大和」
「おう」
手術を終え、意識を取り戻したワン子は意外に元気だった。
両腕はギブスでグルグル巻きにされていて、不自由そうではあ...
「ねー、このギブスいつ取れるのかしら?早くリハビリとか始...
「ちゃんと先生の言うこと聞いてればすぐだろ」
結局、試験には合格だったが
両腕が元に戻らないとわかったワン子は、キッパリと師範代へ...
もっと泣いたりするかとも思ってたのだが
「大丈夫よ。だって、あのお姉様に一太刀浴びせられたんだも...
師範代にはなれなくても、この誇りを胸に生きていける。
アタシは、それで十分だわ……」
そう言って、笑った。
「それでね……アタシ、何か違うものにチャレンジしようと思う...
まだ何をするかは思いつかないけどね。
……でも手が不自由なままだと、ちょっと困るかなー」
「もしそうなっちゃったら、俺がお前の手の代わりになってや...
この手で薙刀を振ることはできないけれど
ワン子のために何か掴める物があるはずだから。
だから喜んでその代わりを務めようと思う。
「……うん。これからもお願いね、大和!」
}}
#pre{{
305 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/04(...
終わり。そして栄養士を目指す本筋に戻る。
なんで自分が書く釈迦堂さんはいい人になっちゃうんだろう。
}}
終了行:
***誇りを胸に
#pre{{
292 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/04(...
作品別スレで、ワン子が人気投票で2位だった記念に
「ワン子が武道大会でクリスに勝って百代に挑むSS」
という話題が出たのでそんな感じのものを捏造
}}
#pre{{
293 名前:誇りを胸に・1[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「勝者、川神一子!」
高らかに勝者の名が告げられる中、ワン子はがっくりと膝を落...
クリスとの死闘を何とか制したものの、すでに満身創痍だ。
この後の2試合、可能なのか……?
いや、そもそも
優勝後の姉さんとの仕合で初手に使うまで
隠しておくはずだったアギトを勝つためとはいえ使ってしまっ...
仮にあと2試合を勝ち進み、優勝したとしても
すでに存在を知られてしまったアギトが果たして姉さんに有効...
おそらく、アギトでは通じないだろう。
アギト、では。
……いかん、ここで俺が悩んでいても仕方がない。
どうするのか、それはワン子が決めること。
俺はとにかくサポートに徹しよう。
タオルを手に、今にも倒れそうなワン子に駆け寄った。
そして、準決勝、決勝。
とにかく体力を温存させるため、派手な動きを抑えたがために
本来ワン子が持つスピードという武器が使えなかったし
クリス戦のダメージも抜けていなかったため
どちらも、ギリギリの勝利だったが
とにもかくにも第一関門は突破した。
後は、姉さんとの仕合のみ。
俺の中では、何とかワン子を勝たせたいという気持ちと
無事に終わってほしいという気持ちが錯綜していた。
}}
#pre{{
294 名前:誇りを胸に・2[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「大和……今まで、ありがとうね」
仕合までのインターバル。控え室で怪我の応急処置を施す俺に
ワン子が微笑みながらそう言った。
「おいおい、何だ、コレでお別れみたいな。
姉さんに一太刀浴びせて、試験に合格して、川神院の師範代...
まだまだ先は長いんだろ。それまで、俺がサポートするさ」
「うん、ありがと。でもね、ひょっとすると……これで、最後に...
だから、言っておきたかった。ありがとう、大和」
「……使うのか」
「うん」
何のためらいもなく、ワン子はうなずいた。
やめろ、と言いたかった。
そこまでしなくても、と止めたかった。
この先もずっと、元気なワン子と一緒でいたかった。
でも、ワン子は選んだ。
だから、俺もそれに応える。
「よし、じゃ腕出せ。マッサージだ。
万全……とは言えないかもしれないが
イメージどおりに技が決まるように、できるだけはしよう」
「うん、お願い!」
差し出された両腕をマッサージしながら
俺はあの日に記憶を飛ばしていた。
}}
#pre{{
295 名前:誇りを胸に・3[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「おう、やってるな一子!」
「釈迦堂さん!?」
仕合に向けて山中で特訓中のワン子と俺の前に
また、いつぞやのオッサンがやってきた。
山篭りしてるのに、なんでこの場所がわかるんだ……
「そろそろアギトも完成だな……へへ、こりゃ百代との仕合も楽...
「ありがとうございます!」
「……わかってるとは思うが、大会ではアギトは使うなよ。
一度でも百代に見られたら、もう通じねえぞ」
「はい!」
「だが……もし、大会に強敵が現れて、どうしてもアギトを使わ...
そんな状況になったら、お前どうする?」
「その時は、アギトを使ってでも勝ちます!
勝ち続けなければ、先に進めませんから!」
「そうだ!それでいい、負けちまったら元も子もねえんだから...
で、その場合……百代との仕合はどうすんだ?」
「わ、私にはアギトしかないと思います。はじめの予定通り、...
「はあ……お前らしいなぁ……一途というか、バカというか。
やっぱルーに似ちまったんだなぁ」
釈迦堂さんが、ため息をつきながらワン子に近づいていった。
}}
#pre{{
296 名前:誇りを胸に・4[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「薙刀、貸しな」
「は、はい……?どうぞ」
ワン子が差し出した薙刀を受け取り、釈迦堂さんが今度はスタ...
「俺ぁもう師範代じゃねえ。破門になった身でお前に技を教え...
だからここで、ちょっとした技を見せる。見せるだけだ。い...
「は……はいっ!」
「よし……技ってなぁ、一つ覚えてそれっきりじゃねえ。
一つ覚えて、その技が完成したなら、そっから応用させるこ...
これから見せるのは、アギトの応用技だ……いくぞ!」
釈迦堂さんが構えを取る。
「ふうううううううぅぅぅぅぅぅ……」
水面が波立つ。木々が震える。川原の石がカタカタと跳ねる。
緊迫した空気の中、震える小枝から一枚の木の葉が落ちた、そ...
「はあっ!!」
ごぅん!!
……見えなかった。俺には見えなかった。
ただ、すさまじい轟音がして、釈迦堂さんは、薙刀を突き出し...
そしてその突き出した薙刀の先の地面が一直線に
十数メートルに渡って抉り取られていた。
「見たか、一子ォッ!!」
}}
#pre{{
297 名前:誇りを胸に・5[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
「す……すごい……これが、アギトの応用……」
「見えたのか、ワン子!?」
「うん……かろうじて、だけど切っ先の軌跡は追うことは出来た...
「お、てえしたもんだ……あたた、慣れない薙刀なんぞ振ったか...
さて、今のが俺オリジナルのアギト応用技だ。
川神院を破門になってから編み出した技だから、ジジイもル...
コイツを使えば、まず間違いはねえだろ」
「あ……ありがとうございます!よーし、早速……!」
「あー、練習は、するな」
「……え?」
「言ったろ。俺でも一度使うとな、腕が痛んじまってしょうが...
ハッキリ言って、今のお前じゃ技の最後まで腕がもつかどう...
練習なんぞして、それで腕がオシャカになっちまったら仕方...
イメージだ。頭ン中でイメージだけを繰り返せ。ぶっつけ本...
「は、はい……わかりました」
「……もう一つ、言っとくぞ。
コイツは腕にかかる負荷がハンパねえ。お前じゃ最悪、両腕...
師範代になるどころか、その後の一生、腕をまともに使えな...
それでも、やるか?」
「ちょ……それじゃ意味ないじゃないですか!?」
「小僧は黙ってろ!!……どうだ、一子?その覚悟は、あるか?」
}}
#pre{{
298 名前:誇りを胸に・6[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
一子は少しの間、うつむいて、黙って、考えていた。
やがて、顔を上げ、キッパリと答えた。
「やります。
腕が使えなくなって師範代になれなくても、それはそれまで...
技を使わずに敗れ、悔いを残したまま師範代にもなれないよ...
「一丁前のこと言うようになりやがったな、まったく。
……俺ぁな、お前が入門してえって言ったとき、反対したんだ...
でもな、今は、ありゃ間違いだったかもしんねえ、と思って...
俺に、悪かった、間違いでした、って言わせてみな」
「……師範代!ご指導ありがとうございました!!」
「師範代じゃねえっつってんだろ……
あー、そうそう忘れてた……『鵺』ってんだ、その技の名前。...
釈迦堂さんが去っていく。
返された薙刀を見つめ、ワン子は動かない。
「……やるのか?両腕がダメになっても。師範代になれなくなっ...
「やるわ……だいたい、ダメになるって限ったわけじゃないでし...
場を和ませようとワン子が笑う。その笑顔を、俺は抱きしめた。
「俺は……ずっと、お前の傍にいるからな。
何がどうなっても、この先ずっと傍にいるからな!」
大丈夫、きっと上手くいく。
ワン子は技を成功させ、試験に合格して、腕もダメにならず、...
そう思っているのに、何故か涙が止まらなかった。
}}
#pre{{
299 名前:誇りを胸に・7[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
―――― そして、今。
覚悟を決めたワン子が、試合場に立つ。
「東方、川神百代!」
「ああ!」
「西方、川神一子!」
「はい!」
対峙する両者の間に、雑念はない。
ただ、向き合い、闘志を秘めて見つめあう。
観衆が固唾を呑んで見守る中
「始め!」
幕が、開いた。
間合いはまだ遠い。
ただ両者の間の気のせめぎ合いが、ピリピリと見るものを刺激...
ぶつかり合う気は周囲に漏れて弾け
耐えかねたかのように一枚の木の葉が、両者の間に舞い落ちる。
あの時のように。
そして、それを合図にしたかのように
「せやああああぁぁぁぁっ!!」
ワン子が、仕掛けた。
}}
#pre{{
300 名前:誇りを胸に・8[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
(……やはり、アギト!)
百代が一撃目を身を捻ってかわす。
(次に切り返しの打ち下ろし……速い!)
もし、あらかじめこの技があることを知らなければ
切り伏せられるとまではいかなくても、腕で防ぐしかなかった...
(一度私に見せていなければ……な!?)
打ち下ろしはかわした。そのかわしたはずの切っ先が横に滑っ...
(払いに繋げるか!)
すんでのところで、これもかわす。かわして、やや体が泳いだ...
(!?切り返し!?……上下左右、縦と横二連続のアギトか!く...
ここまでが、ほんの一刹那。
その一刹那に、上下左右からの斬撃が迫る。
(!しまっ……!)
思わず、後に下がっていた。いや、下がらざるを得なかった。
だがそれは、薙刀という長柄の獲物を使う相手に対しては致命...
(チィッ!このままでは……!)
一子が、叫ぶ。
「吼えろ、鵺ーーーッ!!」
}}
#pre{{
301 名前:誇りを胸に・9[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 01:...
(突きが来る!)
後退を始めた体は、突きが来るとわかっていても
他の回避行動に繋げにくい。そのままでは、間合いの長い薙刀...
(ならば……!)
思い切って、薙刀の間合いの先まで大きく距離を取るまで。
ワン子が渾身の力を込めた突きの切っ先は、僅かに百代には届...
だが、百代は勘違いをしていた。
来るのはただの突きではない。
上下、左右とアギトが来たのなら
この突きもまた、アギトであってしかるべきであり
そしてアギトが一対の攻撃であるのなら
この突きもまた、一対の攻撃の一つであってしかるべき……!
ごぅん!
(!?)
突然、轟音とともに、百代は衝撃に身を揺さぶられた。
上下左右、二連続のアギトは、たとえかわされても空振りでは...
超高速で切り裂いた空間は、真空に近い状態になっていた。
そこに押し込まれる、突きの剣圧!
無理やり切り開かれ、それをまた無理やり押し戻された際の衝...
それこそが、何種類もの動物の体が混じりあった「鵺」の吼え...
複数の牙を持つ異形の、最後の咆哮だった。
「ぬ…ああああぁぁぁっ!?」
}}
#pre{{
302 名前:誇りを胸に・10[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 0...
ワン子の「鵺」で発生した衝撃波を、川神院の修行僧が発した...
その衝撃波の走った道筋に
姉さんは顔の前で両腕を交差させた、防御姿勢で立っていた。
胴着はところどころ裂け、腕や足にも傷を負っている。
「……それまで!」
何が起きたのか、見るのが二度目の俺にもわからない。
だが、この状況を見る限り、やったのか?
確か、姉さんに一撃浴びせるか、防御をさせれば試験は合格。...
ガラン
……ああ、そんな。
ワン子が、握っていた薙刀を落とす。それが意味することはた...
会場のはるか後方から怒鳴り声が響いた。
「ジジイ、一子の腕を診てやれ!!」
「その声、釈迦堂か!?」
「俺のことより、一子を診てやれってんだよ!」
「どういうことじゃ、まったく……一子、腕がどうか……ッ!?」
ぐらり
ワン子の体が大きく揺らぎ、そしてそのまま倒れこみそうにな...
咄嗟に姉さんがその体を支え、抱きかかえた。
駆け寄って覗き込んだワン子の顔は
苦痛に気を失ったはずなのに、満足そうに笑っていた。
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303 名前:誇りを胸に・11[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 0...
手術は、5時間にも及んだ。
筋肉、腱、関節、血管、神経。
腕の組織のそこらじゅうが、ボロボロに千切れていたらしい。
手術は成功したが、それは切断せずにすんだ、というところで
「もう……元には、戻らないそうでス……」
ルー師範代がそう告げた後は、誰もが、押し黙っていた。
「俺は、後悔してねえぞ」
不意に、病院までついてきていた釈迦堂さんが口を開く。
「……え?」
「一子に『鵺』を見せたことを、俺は後悔してねえ。
アイツぁ見事にやってのけた。川神百代に、一太刀浴びせた...
……それで、いいじゃねえか」
「そうじゃの……褒めてやらねば、のう……
よう、ここまで……よう、ここまで……」
「じゃ、俺ぁもう行くぜ……えーと、兄ちゃん……大和っつったか...
「はい。何か?」
「一子に言っておいてくれ。
釈迦堂が、「悪かった、間違いだった」って謝ってたってな」
「自分で直接、言ってやってくださいよ」
「やなこった。俺ぁな……湿っぽいのは、苦手なんだよ。じゃあ...
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304 名前:誇りを胸に・12[sage] 投稿日:2009/10/04(日) 0...
「あ、おはよー、大和」
「おう」
手術を終え、意識を取り戻したワン子は意外に元気だった。
両腕はギブスでグルグル巻きにされていて、不自由そうではあ...
「ねー、このギブスいつ取れるのかしら?早くリハビリとか始...
「ちゃんと先生の言うこと聞いてればすぐだろ」
結局、試験には合格だったが
両腕が元に戻らないとわかったワン子は、キッパリと師範代へ...
もっと泣いたりするかとも思ってたのだが
「大丈夫よ。だって、あのお姉様に一太刀浴びせられたんだも...
師範代にはなれなくても、この誇りを胸に生きていける。
アタシは、それで十分だわ……」
そう言って、笑った。
「それでね……アタシ、何か違うものにチャレンジしようと思う...
まだ何をするかは思いつかないけどね。
……でも手が不自由なままだと、ちょっと困るかなー」
「もしそうなっちゃったら、俺がお前の手の代わりになってや...
この手で薙刀を振ることはできないけれど
ワン子のために何か掴める物があるはずだから。
だから喜んでその代わりを務めようと思う。
「……うん。これからもお願いね、大和!」
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305 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/04(...
終わり。そして栄養士を目指す本筋に戻る。
なんで自分が書く釈迦堂さんはいい人になっちゃうんだろう。
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