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***縁は異なもの #pre{{ 276 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 22:54:02 ID:x6yuAAWB0 Sでヒロインになり損ねた記念投下 }} #pre{{ 277 名前:縁は異なもの・1[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 22:58:02 ID:x6yuAAWB0 昼休み。 今日は少し暖かいので、購買部でパンを買って 屋上で姉さんと昼飯にしようと階段を上がっていくと 「直江大和、話があるで候」 弓道部主将、矢場弓子センパイに声をかけられた。 「はい、何ですか?」 「君と椎名京は『風間ファミリー』という 幼馴染集団の仲間と聞いているで候」 てっきり、姉さんがまた借金して返済が遅れてるとかそんなんかと思ったが そうではないらしい。 「ええ、そうですね」 「椎名京は、弓道部員であるのだが 近頃は全く道場に顔を出さぬで候。 いくら言っても聞かぬ故、君からも 部活に出るよう忠告することを望むで候」 「はあ」 やれやれ、またか。 京が弓道部に籍を置いているのは、ときおり弓道場を使って 弓の稽古をしたいだけという、ある意味わがままな理由だ。 俺もさすがにそれはマズイと思うので、ときどき注意してるのだが…… 「いちおう、言ってはおきますが…… それじゃ根本的な解決にはならないんですよね」 }} #pre{{ 278 名前:縁は異なもの・2[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:02:34 ID:x6yuAAWB0 俺が注意すれば、何日かは弓道場に足を運ぶ。 が、そのうちにまた行かなくなる。 そんなことを、今まで、何度も繰り返してきたのだ。 「それは……わかっているで候」 矢場センパイがキュ、と眉をひそめる。 京には悪いが、ここは一つキツイ選択もしなければならないかもしれない。 「いっそ、もう、退部させたほうがいいのかもしれませんよ」 「いや、それは望まぬで候」 「どうしてです? 練習にも出ないで勝手なことばかりじゃ、部の結束を乱すだけでしょう」 「そうかもしれない。 だが……せっかく関わりあいになった『縁』を そう簡単には切りたくはないので候。 いつまでも待つゆえ、君は説得を頼むで候」 縁、か。 古風な感じのする矢場センパイが言うと、しっくりくる言葉だな。 「それでは、昼練があるゆえ、これにて」 踵を返して、矢場センパイは去っていく。 俺もまた、屋上に向かうために階段をあがっていった。 「……ということがあったんだよ」 「しょうがないなー、京も」 }} #pre{{ 279 名前:縁は異なもの・3[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:06:35 ID:x6yuAAWB0 今日は取り巻きの女子連中もおらず、屋上には姉さん一人だった。 さっそく、さっき矢場センパイに言われたことを姉さんにも伝える。 「まあ京にとっては、ファミリー以外はとことんどうでもいいからね。 それにしても、矢場センパイも我慢強いというか」 「ユミは面倒見がいいからなー。放っておけないんだろ」 「へえ、そうなの?なんかクールビューティーって感じだけど」 「ああ、でなきゃあんなに部員たちには慕われないさ」 「なるほどね。見た目や喋り方だけではわからないもんだな」 「見た目はともかく、喋り方はなー」 「なに?」 「いや、何でもないぞ?」 何でもないと言いながら、姉さんが声を潜めてクククと笑う。 何か、俺には言えないようなことがあるのだろうか。 「さて、そろそろ戻るか。パンごちそーさん」 「え……あ、ちょ、全部食べちゃったの!?」 いつの間にか、俺の昼飯がキレイになくなっていた。 「全部じゃない。サンドイッチはちょっと残しておいてやったぞ」 「つけあわせのパセリだけでどうしろと!?」 }} #pre{{ 280 名前:縁は異なもの・4[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:11:00 ID:x6yuAAWB0 午後の授業は空腹感がひどくてあまり頭に入らなかった。 このままじゃ寮の夕食まではとてももたないので 授業が終わってからどこかで食べて帰るか。と、その前に。 「京ー」 「はーい」 帰り支度をしていた京がトテトテと近づいてくる。 「お前、最近部活出てる?」 「ん……先週、一回顔出した」 「いちおう籍を置いてるんだし、最低限は活動しとけよ。 あんまりサボってるとクビになるぞ?」 反発するかもしれないので、矢場センパイの名前は出さないでおく。 「別にクビになったらなったでいいよ」 「そういうなよ。社会に出たら、イヤなつき合いだって避けられないこともある。 そういうときの、予行演習だと思え」 ……なんだか、矢場センパイの意図からすると 全然説得になってない気もするが こういう言い方でもないと京は納得しそうにない。 「うーん……なんか、あの主将は苦手だけど、じゃあ行ってくる」 京がノロノロと弓道場に向かうのを見送って、俺も教室を出る。 京、矢場センパイが苦手なのか……いい人だと思うけどなぁ。 }} #pre{{ 281 名前:縁は異なもの・5[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:15:00 ID:x6yuAAWB0 数日後。 あれから、京は1日おきぐらいには弓道場に顔出ししている。 果たしていつまで続くかはわからないが とりあえず矢場センパイに頼まれた義理は果たしたといえるだろう。 俺はと言えば あの日、夕食前に立ち寄ったお好み焼き屋が思いのほか美味くて ちょっとハマってしまい、今日もちょっと遅くなったが寄り道である。 店に入り、今日はオーソドックスなブタ玉とかイカ玉にするか それともオススメメニューのウナ玉にチャレンジするか、なんて考えていたら 奥のほうのテーブルが何か騒がしい。 「ねー、美味しいでしょここー。オススメ中のオススメなのよー」 「出汁が効いてるってカンジですねー!」 「やーん、ダイエット中なのにー!主将ヒドイー!でも美味しいー!」 チラ、と目をやると女子が数人。同じ川神学院の制服だった。 まあこれだけ美味けりゃ評判になっててもおかしくはないかな。 「でも、やっぱり椎名センパイ来ませんでしたねー」 「つき合い悪いってレベルじゃないよねー」 「うーん……彼女はさ、自分の世界を大事にしてるから」 あれ?ひょっとして京のこと? そういえば、一人の声に聞き覚えがあるような……? 「まあ、そのうち椎名さんも打ち解けてくれるわよ! 最近は練習にも顔出してるじゃない、ね?あ、ほら焼けてる焼けてる!」 やっぱり。矢場センパイだった。 }} #pre{{ 282 名前:縁は異なもの・6[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:19:02 ID:x6yuAAWB0 そのうち、一人が俺の視線に気付いたのか 矢場センパイに耳打ちをし、センパイがこちらを向く。 「あ……」「……ども」 しばらく固まってから、顔を真っ赤にしてこちらのテーブルに。 「あー……ゴホン!あれから、椎名京は練習に出るようになったで候」 なるほど、あのとき姉さんが笑ったのは このギャップを知っていたからか。 「いや、もう普通に喋ってもいいですよ?」 「!くぅうぅー!やっぱ聞いてたのねー!」 赤くなった顔をさらに赤くして、矢場センパイがジタバタし始める。 と思ったら、ガシッと俺の手を握り 「内緒よ!?これ、他の人には内緒だから!」 「そりゃかまいませんが……なんで普段はあんな喋り方なんです?」 「や、その……私、けっこう甘いところがあって…… 色々つけこまれたりしないように、その……ね?」 今度はモジモジし始めた。なんだこのギャップ萌え。 まあ普段はクールな仮面をかぶっていて 親しい人、たとえば同じ部活の仲間なんかにはこんなホンワカした素顔を見せるのだろう。 けど、それが「原因」の一つなのかもしれない。 「京が、矢場センパイを『苦手だ』って言ってたの、判る気がします」 }} #pre{{ 283 名前:縁は異なもの・7[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:23:01 ID:x6yuAAWB0 「……え?」 「言ってたんですよ、アイツ。矢場センパイが苦手だって」 「え、それ……どういうこと?……馴れ馴れしすぎる、ってこと……?」 「それもあるかもしれないけど…… アイツ、裏表のある人間は信用しないから」 「!」 まあ、コレに関しちゃ俺もあまり人のことは言えない。 ファミリーの人間にしか本音は見せない、ってところはある。 ただ、俺と京の場合には、強烈なイベントと長い付き合いがあったおかげで 強い信頼関係を築くことができたのだ。 それに、ファミリーの他のメンバーは、元からあまり裏表がない連中だ。 「裏と表があったら、もう一つ裏があるかもしれない。 そんな考え方をするんですよ、アイツ。 ガキの頃、いろいろあったせいなんで コレに関しちゃ、あまりアイツを責めないでやってもらえませんか」 「う……うん。わかったわ……」 ちょっと言い方がキツかっただろうか。 矢場センパイがちょっとうなだれて自分のテーブルに戻っていく。 が、途中でまたシャキッと背筋を伸ばし、俺のほうに振り返ると 「ありがと、直江…大和クン!」 そう言って、ニパッと笑った。 はて。礼をいわれるようなことを言ったつもりはないのだが。 }} #pre{{ 284 名前:縁は異なもの・8[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:29:03 ID:x6yuAAWB0 翌朝。皆で揃って変態の橋を渡っていると 「おーい!」 遠くから呼びかける声がする……というか、今の矢場センパイか? と思っていたら、向こうからタタタ、とけっこうな速度で走ってきた。 「や、おはよー椎名さん!モモちゃんと大和クンもおはよー!」 「!?」「え、あ……え?」「どうしたユミ、変なもんでも食ったか!?」 「やーねー、そんなんじゃないってば。 で、椎名さん、おはようと挨拶されたら?」 「……おはようございます」 「よろしい!で、大和クンは?」 「ああ、はい、おはようございます?」 「ん、よろしい。あとモモちゃんは今日中に貸したお金返すように!」 誰だよモモちゃんって。というか、イメチェンにもほどがありますよ矢場センパイ。 「あの……どうして、喋り方変えたんです?」 「あー、うん……椎名さんはさ、普段からこういう風なほうが むしろ付き合いやすいんじゃないかな、って」 昨日、俺が言ったことを受けてのことか。 裏も表もない、素顔の自分で通すことにしたのか。 ただ、京の信用を得るために。 }} #pre{{ 285 名前:縁は異なもの・9[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:34:31 ID:x6yuAAWB0 だが、京はあくまで冷たく言い放つ。 「……なんでそんなことするんですか。 主将が今まで保ってきた、外向けのイメージは捨てるんですか」 「なんで、って……んー…… 貴方と、もっと仲良くなりたいから?」 「迷惑です」 「おい、京……」 「たとえば、主将はここにいるムキムキマッチョの島津ガクトに いきなり『好きです。つきあってください』って言われたら どうですか?どうしますか?」 「え?あの……このカレ?」 矢場センパイがガクトを見て、オロオロしたかと思うと いきなり頭を深々と下げた。 「ゴ、ゴメンナサイ!」 「俺様、告ってもいねーのにフラれた!?」 「私も同じです。いきなりそんなこと言われても 今はゴメンナサイとしか言えません」 「!うん……わかった。でも、私は、せっかくできた『縁』を大事にしたいの。 だから、これからも、貴方が私を受け入れてくれるまで頑張るからね」 「……どうぞ、ご自由に」 }} #pre{{ 286 名前:縁は異なもの・10[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:38:42 ID:x6yuAAWB0 京は「ゴメンナサイ」の前に「今は」とつけた。 珍しく、認めたのだろう。ファミリー以外の人間を。 受け入れるところまではまだいかないが 少なくとも今までの門前払い状態よりは格段の進歩だ。 そして、それは矢場センパイにも伝わったらしい。 明るい表情を保ったまま、俺たちと一緒に通学路を歩き出した。 「つーかユミさー、いつの間に『大和クン』とか呼ぶようになってんだよ」 「えー?いいじゃない、別に。 ちょっと大和クンとも『縁』が出来たしさー。 ……こっちの縁も、大事にしたいかなーなんて思うのよ?」 「ヌヌ」「ほーう?」 いかん、京と姉さんがジト目で俺を見ている。 イジり倒される前にフォローしなくては。 「いや、俺と矢場センパイのはそんなたいした縁じゃないでしょ」 「えー!?そんな冷たいこと言わないでよー。 あ、あと私のことはぁ、『弓子さん』でいいからね!」 イカン、かえって火に油になってしまった! 「ちょーっと説明してもらおうか舎弟」「じっくりと……ねっとりとね」 「あららー、この縁を育てるのは大変そうねー」 矢場センパイ……弓子さんと俺の「縁」かぁ。育つのかなぁ。 それまで、俺のほうが二人の攻めをかわせればいいのだが。 }} #pre{{ 287 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/23(日) 23:43:02 ID:x6yuAAWB0 おわり ユーミンは京の気持ちを知ると 自分から身を引きそうなキャラなのでヒロインは無理なのかもしれない と自分に言い聞かせて無理やり納得した 「なあ、俺様も弓子さんに『今は』受け入れられなくても 頑張ればそのうちに認めてもらえるんじゃ……」 「あ、ゴメーン、それはないからー」 「追い討ちまで喰らった!?」 「追いすがるからだろ」「しょーもない」 }}
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