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***天使のスイング #pre{{ 397 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:40:00 ID:1ADfLgFI0 では天使を投下 }} #pre{{ 398 名前:天使のスイング・1[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:43:01 ID:1ADfLgFI0 「よ、こんちはー」 最近、俺は土曜日になると川神院に足を運んでいる。 ランニングから帰ってきたらしい川神姉妹が 門のところで一息ついていたので声をかける。 「あ、大和ー!」「おー、どうした舎弟」 「いや、タツ姉にちょっとね」 ついこの間、改めて友達関係を築いたタツ姉こと板垣辰子に会いに来たわけだが 「チッ、またアイツにか」「なーんか最近の大和、辰子にベッタリよねー」 いきなり二人の視線が冷たくなる。 ……この二人に声をかけたのはまずかったか。 だが無視して通りすぎるわけにもいかなかったろうし、仕方がない。 「そんなことはないぞ?ただ、土日ぐらいしか会えないから せめてその時ぐらいは会いに来てあげようかと」 「ふーん……辰子なら厨房じゃないかな?お料理得意だから、手伝ってもらってるの。 ……アタシも行くから、大和一緒に来れば?」 「お、そっか、サンキュ」 そういえば、家事スキルは高い人だった。 ワン子と一緒に寺の奥のでかい厨房に向かうが 「あ、テメーよくもノコノコと!今こそケツの恨み晴らしてやらぁ!」 いきなり後から罵声が飛んできた。 }} #pre{{ 399 名前:天使のスイング・2[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:46:01 ID:1ADfLgFI0 振り返って声のするほうを見るまでもない。 タツ姉の妹、板垣天使だ。 「ちょっと天!ここじゃ大和はお客なんだからね? 失礼があったら、ルー師範代に言いつけるわよ!てか、ケツの恨みって何よ!?」 「ケッ、またチクりかよ。ケツはケツに決まってんだろ!文句あんなら、直で言えやぁ!」 ……ケツの話題はやめてくれないかなぁ。 好戦的な二人が火花を散らすが、心配するヒマもなくルー先生が飛んできた。 「こらこら、またケンカかネ? いきさつがいきさつだけニ、別に仲良くしろとまでは言わないが もうちょっと穏便にしてもらいたいネ」 「あ……すいません、ルー師範代」 ワン子がすぐにルー先生に謝るのに対し 「う……うるせーな……」 トーンダウンしながらも、天使は反抗的姿勢を崩さない。 「わかったのカネ、天?」 「う、は、はい……わかりました」 さすがの天使も、自分たちの師匠である釈迦堂刑部を倒したということで ルー先生には頭が上がらないようだ。 「それと……まだゴルフクラブを持ち歩いてるのかイ?」 }} #pre{{ 400 名前:天使のスイング・3[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:49:03 ID:1ADfLgFI0 言われてみれば、天使はゴルフクラブを脇に抱えている。 「これはもうウチのクセみたいなもんなんで……」 「でも、川神院には相応しくない武器だヨ。 似たような武器なら、槌とか、狼牙棒とかあるだろウ?」 「ウ、ウチはこれがいいんです!これだけは、勘弁してください!」 「まあ、どうしてもダメ、というわけではないが……」 「……失礼しまっす!」 「あ、ちょっと待ちなさイ!……やれやれ、我の強い娘だ。 私のことを認めてはくれたガ、なかかか心を開いてはくれなイ。困ったものだ」 「なんでゴルフクラブなんですかね。愛着があるとか、かな」 「でも、アタシと戦ったとき、アタシあの子のクラブ折ったわよ? あれはまた別のみたいだから、愛着とかじゃないんじゃない?」 「ふむ……直江。君になら、彼女も心を開きそうに思うんダ。 いろいろ聞きだしてみてもらえないかナ?」 「俺っすか」 心を開くどころか、アナルを開いてしまったおかげで恨まれているのだが。 さっきだって、いきなり襲われそうになったし。 とはいえ、気になるといえば気にはなる。 「わかりました、心がけてみます」 }} #pre{{ 401 名前:天使のスイング・4[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:52:03 ID:1ADfLgFI0 「……大和もお人よしよねー。 まあ、ルー師範代の頼みじゃ、断れないって気もするけど」 「しかし、なんでゴルフクラブなんだろうな? そんなに武器として優秀なのか、アレ?」 ルー先生と別れて、厨房に向かいながらワン子と話す。 「うーん……あれは攻撃用っていうより 相手の攻撃を受けたり流したりする、防御的な意味合いが強いのよね。 ただ、そのわりには構造が弱いのが欠点かなー。 アタシも、あれにこだわる理由はわかんない」 「ふむ……これは、姉妹であるタツ姉に聞いたほうがいいかな」 「そうね、辰子なら知ってるかも。なんたって、姉妹なんだもんね」 そんなわけで、厨房でタツ姉に聞いてみたのだが 「ううん、知らないー」 ……この人のノンビリさは俺の想像の斜め上だった。 「だいたいでいいけど、何時頃からゴルフクラブ使ってたのかしら?」 「んー……天ちゃん、何時の間にかあれ使ってたよー。 けっこう前から、あれ持ち歩いてたような…… そんなことよりー、遊びに行こうよー、大和ー」 最初は俺もタツ姉と遊びに行くつもりだったのだが 気になってることが解決しないとなあ。 }} #pre{{ 402 名前:天使のスイング・5[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:55:36 ID:1ADfLgFI0 「タツにそういうこと聞いても、ハッキリするわけないだろう」 「うひゃあおあ!?」「うわ、何よ!?」 いきなり、後ろから耳元に囁かれた。亜巳さんだ。 「あー、いい反応だねぇ。なんていうか……くすぐられるねえ」 俺の中の何が亜巳さんをくすぐるのだろうか。 ……いや、知りたいわけではないが。 「はいよタツ、頼まれてた調味料、ここに置くからね」 「あ、そうだった……ありがとアミ姉ー」 タツ姉は亜巳さんが持ってきたスーパーの袋を持って、厨房奥へ。 「辰子ー、ちゃんとしまう場所わかってるのー?」 ワン子もそれについていってしまい、俺と亜巳さんが残された。 「……で、大和が気にしてるのは、天のゴルフクラブのことだっけ?」 「ええ、まあ。何だか、ゴルフクラブにこだわりがあるみたいなんだけど 亜巳さんは、その理由に心当たりあります?」 「……たぶん、思い出の品ってヤツなんだろうさ」 「思い出……ひょっとして、両親がプレゼントしたとか?」 「まさか。そんな親じゃなかったし、顔もろくに覚えてやしないよ。 あれはね、あの子が初めて、自分で手に入れた物なのさ」 }} #pre{{ 403 名前:天使のスイング・6[sage] 投稿日:2009/10/11(日) 23:59:14 ID:1ADfLgFI0 「自分で手に入れた?」 「まだガキの時分さ。あの子が小学校で4年のときだっけかねぇ。 アタシらは、もうその頃にはワルで通ってて、色々やらかしたもんさ。 でも、天はすばしっこいだけでまだ小さかった。 だから、アタシらにくっついてるだけだったのさ」 仲のいい姉、兄にくっついている末の妹か。 どこか微笑ましい気もするが 「ある日、天のヤツが一人でどこかに行って、ゴルフクラブをもってきた。 おおかた、河川敷で練習してるヤツから盗んできたんだろうね」 盗んで手に入れてたあたり、やはり微笑ましくはなかった。 「そんな金にもならないもの盗んできて、って 竜兵なんかはずいぶんバカにしたけど、あの子は手放そうとはしなかった。 一人の力で手に入れた、初めての獲物だったからだろうね」 ……まあ、俺にも似たような思い出はある。 初めてバイトで稼いだ金で買ったヤドカリ水槽は、今でも使ってる宝物だ。 「その頃、アタシらはちょいと街のチンピラ集団ともめててね。 ある日、不意討ち食らって大勢に取り囲まれちまい、竜兵がヤバそうになったんだ」 「あの竜兵が?」 「アタシや竜兵が強いっていったって、所詮ガキだったからね。 ところがその時、それまで喧嘩のときには隠れてた天が ゴルフクラブ振りまわして飛びこんできたのさ。デビュー戦ってわけ。 おかげで形勢は逆転して、チンピラどもを撃退することができたんだよ」 }} #pre{{ 404 名前:天使のスイング・7[sage] 投稿日:2009/10/12(月) 00:02:42 ID:1ADfLgFI0 「なるほど……ゴルフクラブにこだわる気持ち、わかった気がする」 「強くなければ生きていけない、そんな毎日だったからね。 ゴルフクラブは、そんな暮らしの中で 天が自分で見つけた、自分の強さの象徴なのさ」 「……今、天がどこにいるかわかる?」 「気を探ってみようか……道場の裏手にいるようだね」 「わかった、ありがと」 立ち去りかけたところで、亜巳さんに呼びとめられる。 「待ちな。アタシもアンタにききたいことがある」 「なに?」 「ついこの間まで敵だったアタシらに、なんでそうまで関わろうとする?」 「さあ……なんでかな。理由なんてわからないよ。 強いて言えば……放っておけないから、かな?」 「おかしなボウヤだね。でも……気に入ったよ。 コイツは……タツと天の面倒をみてくれる、礼、だ……」 「んんぅ!?」 ぐい、と体を引き寄せられ、あっという間に唇を奪われていた。 「ん…ごちそうさま……たまには、アタシとも遊んでおくれ。じゃあね」 }} #pre{{ 405 名前:天使のスイング・8[sage] 投稿日:2009/10/12(月) 00:05:59 ID:1ADfLgFI0 亜巳さんの言った通り、天はゴルフクラブを抱えて 道場裏の木の下に座りこんでいた。 「よう」 「……気安く話しかけんなボケ」 「そうツンツンすんなよ」 「どーせ師範代に言われて、ウチからこれ取り上げようとしてんだろ?」 ビシ、とゴルフクラブを俺に突きつける。 「最初はそのつもりだったけどな。でも、亜巳さんから話を聞いて気が変わった。 俺からも、ルー先生に頼んでみるよ。天には、これが必要なんだってな」 「な、なんだよ、物わかりのいいふりしやがって……騙されねーからな」 「別に騙そうとか思ってないぞ」 「どうだか……それよりオマエ、タツ姉と友達になったんだってな」 「ああ、まあな」 「……別にウチは、友達なんかいらねー」 「そうか。まあ、無理に友達にならなくてもいいよ」 「だったら、さっさとタツ姉と遊びに行けばいいだろ」 「ああ、今からそうするつもりだけど……一緒に来ないか?」 }} #pre{{ 406 名前:天使のスイング・9[sage] 投稿日:2009/10/12(月) 00:09:01 ID:DR953o+C0 怒っているのか照れているのかわからないが、天の顔が真っ赤になる。 「!だ、だから友達なんていらねーって……!」 「タツ姉が友達で、オマエはその妹。それで、誘う理由としちゃ充分だろ?」 「……ったく、気ィきかせて二人きりにしてやろうと思ってたのによ。 ひょっとしてアレか、二人きりでデートだとキンチョーしちゃうってか?」 「まあ、そういうこともあるかな」 「しょうがねー、ついてってやるから、感謝しろよ」 「そりゃどーも。そういや、ゲーム好きだったよな? 駅前のゲーセン、新台入ったぜ」 「マジか!?行く行く! いやー、ここに押し込められてからゲームとか全然やってなくてさー。 もう退屈で退屈でしょうがなかったんだよなー。 なあなあ、新台って何?獣拳?」 はしゃぎながら飛びついてきて、俺の腕を取る。 こうしていれば、ちょっと元気なフツーの女の子に見えるかもしれない。 だが、半ば俺に抱きついているような自分の姿勢に気づいたのか また顔を赤くしてパッと離れた。 (……ケツの恨みは、もういいや) 「んー?何か言ったか?」 「何でもねーよ!今度は、痛くならねーようにってだけ!」 }} #pre{{ 407 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/10/12(月) 00:10:31 ID:DR953o+C0 終わり。>>379からの続きってことで。 亜巳姉さんはどうしよう…… }}
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