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***記録更新 #pre{{ 255 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:18:31 ID:uZ7Q1o+Z0 あけましておめで投下します }} #pre{{ 256 名前:記録更新・1[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:22:31 ID:uZ7Q1o+Z0 「……ん?」 ひとりでに目が覚める。ぼんやりした頭で部屋の時計を見れば いつもの起床時間ではあるが、何かがおかしい。 ああ、そうか。 京が起こしに来ていないんだ。 いつもなら、朝は決まって京が起こしてくれるのだが 今日に限って部屋に来ていない。 珍しいこともあるもんだ、と思いながら、もそもそと起きあがった。 朝食の席についても、京は姿をあらわさない。 「珍しいですね、いつも大和さんと京さんは早いほうなのに」 「今朝は、俺を起こしにも来てないんだよ」 先に来ていたまゆっちも首を傾げる。 やがて、クリス、キャップと住人が集まってきたが それでも京は姿をあらわさない。 「おかしいねえ……由紀江ちゃん、ちょっと部屋の様子、見てきておくれでないかい?」 麗子さんに言われて、二階に上がっていったまゆっちは 戻ってきたときに少し表情をこわばらせていた。 「京さん、具合が悪いそうです。何だか、熱があるようで」 「おや……珍しいこともあるもんだね。 ちょいと見てくるから、アンタたちは朝ゴハンすませちまいな」 }} #pre{{ 257 名前:記録更新・2[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:26:36 ID:uZ7Q1o+Z0 京は、いつもの習慣――たとえば、朝は俺を起こしに部屋に来る――を とても大切にしている。 それができない、というのはかなり重症なのだろうか。 朝食を食べ終わったころ、麗子さんが二階から戻ってきた。 「京ちゃん、かなり熱があるから、今日は学校は無理だね。 昼間はなるべくアタシが見てるから、アンタたちは学校に行っといで」 「ちょっと心配だから、学校行く前に、様子を見に二階に上がってもいい?」 「ああ、いいよ。京ちゃんも、大和ちゃんの顔見たがってたからね。行っておやり」 「では、私も行こう」「私も」俺もー」「……ま、顔見せぐらいはしてやるか」 なんだかんだで、結局残りの住人全員で京の部屋に行き なんとなく俺が代表っぽかったので、ドアをノックする。 「京ー、俺だけどー。入ってもいい?」 『あ……大和……ちょっと待って。 …………どうぞー』 心なしか、声も弱々しい京の返事を待って ゾロゾロと連れ立って部屋に入る。 「あれ……皆、来たんだ」 布団をひっかぶった京がちょっと驚いていた。 「お邪魔します……どうだ、具合?」 }} #pre{{ 258 名前:記録更新・3[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:30:36 ID:uZ7Q1o+Z0 どうだ、なんて聞くまでもなく 京の具合はいかにも悪そうだった。 顔は赤く汗ばんで、目も潤んでいる。呼吸も荒い。 まあ、風邪だろうなぁ。 「うん……そんなにたいしたことない。 ちょっと熱が出ちゃっただけ。ゴメンね皆、心配かけて」 「気にすんな。しかし珍しいな、お前が熱出すなんて。どれくらい熱あるんだ?」 「そういえば、測ってなかった……大和、測って」 「ん……体温計とかあったかな」 「そんなんじゃなくて……おでことおでこで、ペタってして測って」 何そのプレイ。皆もいるのにそんな恥ずかしいことできません。 「いや、ちゃんと体温計で測らないとダメだろ……」 「いいじゃありませんか大和さん」「測ってやれよ、大和」「病人の頼みぐらいきいてやれ、直江」 あれ、何だか拒否しづらい空気に。 「遅刻してしまうではないか。見ていてやるから、早くしろ大和」 「お前らがいるからイヤなんだよ!」 「……二人きりだったら、直腸で測ってもらっていた」 「スイマセンおでこで測らせていただきます」 }} #pre{{ 259 名前:記録更新・4[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:34:48 ID:uZ7Q1o+Z0 「ん……来て、大和……」 布団に横たわった京が目をつぶる。 「いや、熱測るだけだからね!?」 そうは言うものの、俺もなんだかドキドキしてしまっている…… 息を止め、かがみこんで顔を近づけ、額で額にそっと触れる。 京の体温が、かなり高くなっているのを確認して、またそっと顔を離す。 イカン、俺まで顔が熱くなってきた。 「で、熱は何度あるのだ?」 「俺は体温計じゃないんだよクリス……」 「わからなかったのなら、もう一度測ればいいではないか」 冗談じゃない。そんなことしたらホントにこっちまで熱が出ちまう。 「まあ、すごく高いことは確かだ。こりゃ絶対安静だな」 「そうか……我々はそろそろ学校に行かねばならんが、大事にな、京」 「何か食べたいものとかありますか?」 「大和が食べたい……」 食われてたまるか。と思ったが 二人きりだったらヤバくなりそうな雰囲気だった。 「じゃ、行ってくるからな。あんまり麗子さんに世話かけるなよ」 }} #pre{{ 260 名前:記録更新・5[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:39:07 ID:uZ7Q1o+Z0 登校の途中で合流してくる風間ファミリーの面々に 京の病状を説明していく。 「じゃあ、今日の金曜集会、京は欠席ね」 「あー、そうなるなー。というか、ワン子よく今日が金曜って覚えてたな」 朝、京の風邪騒ぎですっかり頭から抜け落ちていたが 今日は金曜だったのだ。 「バカにしないでほしいわね。 武道と食事とファミリーのことは忘れないわよ!」 他のことは忘れまくりだけどな。 と、モロがポツリとつぶやいた。 「京が集会に出ないって、初めてじゃないかな」 誰も、一度や二度は何かの都合で集会を休んだりしているが 京だけはそんなことがない。 もともと、転校していった京が金曜の夜に川神に戻ってくるのを 皆で迎えるための集会だったのだから それが当然といえば当然なのだが。 「……誰か、京が集会に出なかった記憶ある?」 全員が顔を見合わせ、フルフルと首を横に振る。 「……けど、京の金曜集会皆勤記録も、今日までだな」 少ししんみりした、朝の登校風景だった。 }} #pre{{ 261 名前:記録更新・6[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:43:16 ID:uZ7Q1o+Z0 退屈な授業が終わると、いろいろ買いこんでから寮に戻る。 あらかじめ、クリスに許可を貰っておいたので 戻るとさっそく二階に上がり、部屋のドアをノックする。 「京ー、大和だけどー。具合どうだー?」 『あ……おかえり大和。どうぞー、カギあいてるよー』 まだ少し、声に元気がないようだ。 「お邪魔しま……っと、失礼!……って、何やってんだよお前」 部屋の中、京は下着姿だった。 慌てて目を背ける。 「何、って着替え。大和なら見ててもいいよ」 「ああ、寝汗でもかいたか。じゃ、俺ちょっと出てるから」 別に誘惑しようとかそういうんじゃないだろう。 そそくさと部屋を出ようとして、布団がしかれていないことに気づく。 ノロノロと着替えていく服は、京の普段の私服だった。 「おい……パジャマはどうした?」 「パジャマなんか着ない……金曜だもの。集会、行かなきゃ……」 「バカかお前は。あんなに熱があって学校も休んだのに、集会どこじゃないだろ! 今だってフラフラじゃねーか!いいから布団しいて横になってろよ!」 「学校なんかどうでもいいけど……金曜集会はそうはいかないよ……」 }} #pre{{ 262 名前:記録更新・7[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:47:45 ID:uZ7Q1o+Z0 ファミリーの集会に出るという習慣が大事なのはわかるけど ここは無理矢理にでも寝かせつけないと。 「頼むから、自分の体を大事にして 今日の金曜集会は休んでくれ。な?」 京がガックリと肩を落とす。 「……わかった。今日は……諦めるね」 「そうしてくれ。何だったら、俺も今日は集会パスして ずっとお前のそばにいるからさ」 「マジで!?うん、すぐ寝る」 途端に、どろーんとしてした京の目が輝きだす。 なんかその場の勢いで余計なことまで言ってしまったかも。 まあ、素直に寝てくれるんならいいか。 京がおとなしく座って休んでいる間に 押しいれから布団を引っ張り出してしいてやる。 「パジャマは替えたほうがいいな……どこに入ってる?」 「えっと……箪笥の一番上、左のほう」 「ここか……って入ってるの下着じゃねーか!」 「好きなのを選んでいいよ。ちなみに、勝負下着は紫のスケスケのヤツ」 「パジャマはどこなんだよ!」 }} #pre{{ 263 名前:記録更新・8[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:51:48 ID:uZ7Q1o+Z0 何とかパジャマを探しあてる。 「じゃ、これに着替えて」 「んー……大和、着せてー」 どこの小児だよ。というか、できるかそんなこと。 だが、京はすねるようにこんなこと言いだした。 「着せてくれないなら、集会に行く」 「わかったわかった……じゃほら、着てるの脱いで」 「脱がせてー」 ……もうヤケクソだ。 「ハイハイハイ、じゃあ立って立って!ちょっと足開いて! ハイ右足上げて!ハイ次左足!」 揺れる心を鋼に変えて、何とか下を脱がせる。目の前のパンツがまぶしいぜドチクショウ。 「はい、じゃあバンザイして。バンザーイ!」 「バンザーイ」 上を脱がせはじめたときだった。 『京ー、起きてるかー?』『具合はいかがですか?』 イカン、クリスとまゆっちが来ちまった! }} #pre{{ 264 名前:記録更新・9[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:55:53 ID:uZ7Q1o+Z0 どうするこの状況見られたらヤバイ隠れるかでもそんな場所ないちょっと待ってもらうしかでも待たせる理由が思いつかないッ! 『入ってもいいかー?』 よしここで何か適当なこと言って入るのを待たせてそのすきに京にパジャマをでも何言えばいいんだ何かないか何かッ! 「あいてるよー、どうぞー」 「どうぞ、じゃねええええええ!」 ガチャリ 非情にもドアは開く。 「なんだ、もう大和が来て……」「アイスクリーム買ってきま……」 その場の空気が凍りつく。 下はパンツ一丁、上が半脱ぎで頭から服をかぶっている京だけが 自体を把握できずにもぞもぞと動き回っていた。 「ふっ……不潔です、大和さんッ!」「オラ見損なったぜー!」 「こっ…この狼藉者ー!熱で京が朦朧としているのをいいことに、ななな何ということをー!」 あああああもう!!この誤解を解くには、京に説明してもらうしかないッ! 「いや、違うんだよ!京、ちゃんと二人にどうしてこうなってるか説明してくれよ!」 「え……えっと、大和が、一緒にいてくれて、もう寝ようって言って、私の服脱がせて……(ポッ)」 「ポッ、じゃねーよ!部分的に合ってるけど、はしょりすぎだろソレ!」 }} #pre{{ 265 名前:記録更新・10[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:05:59 ID:GmJqPxu10 結局、否応なしに部屋を叩きだされ 廊下に正座させられたうえで誤解を解くのに10分ほどかかった。 「……ご納得いただけましたでしょうか」 「そうだったんですか……そうですよね、大和さんがそんなことするわけないですよね!」 「まゆっち、さっき、俺のこと見損なったとか言った」 「あ、あれは松風がですね……」「ごめんよー、オラの早とちりだったよー」 まあ、そう思われてもしょうがないシーンではあったが。 「それで、今日の金曜集会は、大和も出ないのか?」 「ああ、京にそう約束したしな。今日はアイツのそばにいるよ」 「そうか……皆には、もう知らせたのか?」 「いや、まだ」 「では、私が伝えておこう。大和は、京のそばにいてやってくれ。 ……勘違いして、すまなかったな」 「ああ、よろしく頼む」 「あと……着替えは、なるべく一人でさせたほうがいいと思うぞ?」 「そう思うんなら、お前も集会まで一緒にいればいいだろ!」 今一つ信用されてないっぽかった。 }} #pre{{ 266 名前:記録更新・11[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:10:00 ID:GmJqPxu10 そして、夕方。 金曜集会に出かけていくクリスとまゆっちを見送って また京の部屋に戻ると、本を読んだりして時間を過ごす。 その間、ずっと京の手を握っていた。 「夕食は食べられそうか?麗子さんがおかゆ作ってくれてるらしいけど」 昼は「食欲がない」ということで食べていないらしいのだ。 「うん……だいぶ楽になったから、夜は食べる。 ちゃんと食べないと、治るものも治らないしね。 おかゆかぁ……ザーサイとメンタイコの買い置きがあるから……」 「辛いものは適当にしとけよ……」 台所に降りて、麗子さんから熱いおかゆの入った土鍋や おかずの乗ったお皿を受け取り、京の食器と一緒に盆に乗せる。 後は、ザーサイとメンタイコだっけ。冷蔵庫の京スペースを漁っていると 「ほれ、大和ちゃん、自分の茶碗忘れちゃダメだろ」 「え、このおかゆ、俺の分も入ってるの?」 「大和ちゃんの分だけ別に作るのもどうかと思ってね。 それに、これなら一緒に食べてやれるだろ?」 道理で量が多いと思った。まあ確かに一理ある。 「じゃ、俺も上でいただきます」 こうして、二人だけのおかゆパーティーが始まった。 }} #pre{{ 267 名前:記録更新・12[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:14:01 ID:GmJqPxu10 「あ、ザーサイけっこう合うな」 「でしょ?中華の朝がゆでは定番らしいよ」 二人でおかゆをすすっていたが、ふっと京が箸を止める。 「ねえ、大和?もし……このまま、私が死んじゃうとしたら 私のこと、受けいれてくれる?」 「バカなこと言うな。今どきの若者が、風邪ぐらいで死ぬか」 「だから、もしも、の話。 実はスッゴイ重い病気で、もう手遅れだってわかったら……」 「そのときは、『治ったらつきあってやるから早く治せ』って言う。 で、治ったら理由をデッチ上げて、なかったことにする」 「大和らしいなぁ……そういうところも、好き……」 「だいたい、そんな同情心から受けいれられても空しいだろ」 「同情から始まる恋もあってもいいと思うよ」 「そんなもんかな」 「レイプから始まる恋もあるらしい」 「いやそれはない。というか、俺がお前をレイプとかありえないだろ」 「逆レイプって知ってる?」 「スイマセンデシタ」 }} #pre{{ 268 名前:記録更新・13[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:18:01 ID:GmJqPxu10 おかゆを食べ終わり、薬は飲ませたが 京が寝付くまではそばにいてやることにした。 とりとめもないことを話しながら、メールチェックとかして過ごしていたのだが 「あれ……けっこう汗かいてるなお前」 「うん……ご飯食べて、暖まったからかな」 「汗拭くか。ちょっと待ってろ、タオル出すから」 えーと、タオルはどこだったかな。さっき箪笥をあけたときの記憶をたどっていると 「ん……なんだ騒がしいな」 なにやら一階がガヤガヤと騒がしくなっていた。 はて、集会が終わるにはまだ早い時間だし こんな時間に誰か客でも来たのだろうか? と思っている間に、騒がしさが二階に上がってきて いきなり部屋のドアが開いた。 「おーす京ー、具合どう……だ?」 ああ、姉さんやワン子が見舞いに来てくれたんだ。 だが、なぜか入り口で固まっている…… まさか、と思い、恐る恐る京のほうを振り返る。 汗を拭くために、上半身を脱いでいるところだった。 慌てて目を背ける俺に、姉さんとワン子の声が飛んでくる。 「お前ら……何してたんだ?」「ギャー!大和変態ー!」 ああ、これはまた廊下で正座かなぁ…… }} #pre{{ 269 名前:記録更新・14[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:22:43 ID:GmJqPxu10 今日は京のために、秘密基地じゃなく京の部屋で集会しよう。 そうキャップが言い出して、皆で島津寮までやってきたのだそうだ。 姉さんたちが部屋に突入したときは、いちおう二階の女子部屋なので 男連中がまだ待機していて一階にいたのが不幸中の幸いだった。 「キャップ……皆……ありがとう」 「なーに、いいってことよ!」 「で、どうだったんだ京?大和は落とせたのか?」 ガクトがニヤニヤしながら京に尋ねる。 「ん……もうちょっとだった」 「おいおい。そう簡単に俺は落ちませんよ?」 「ホントかー?さっきだって、私たちが来なかったら……」 「だから、アレは事故だってば!」 皆がどっと笑う。賑やかな、いつもの金曜集会だ。 「でも、二人きりがよかったのなら かえってお邪魔になってしまったかもしれませんね」 「ううん。これはこれで……すごく、嬉しいから」 そうだな。習慣になっているから大事なわけじゃない。 大事なものだから、守りたいものだから続けてきたんだよな…… その笑顔に、確かに「もうちょっと」かもしれないと思いながら 金曜集会皆勤記録の更新に、心の中でおめでとうを言う俺だった。 }} #pre{{ 270 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:26:18 ID:GmJqPxu10 おしまい。単に看病モノを書きたかっただけなので特にオチはなし }}
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***記録更新 #pre{{ 255 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:18:31 ID:uZ7Q1o+Z0 あけましておめで投下します }} #pre{{ 256 名前:記録更新・1[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:22:31 ID:uZ7Q1o+Z0 「……ん?」 ひとりでに目が覚める。ぼんやりした頭で部屋の時計を見れば いつもの起床時間ではあるが、何かがおかしい。 ああ、そうか。 京が起こしに来ていないんだ。 いつもなら、朝は決まって京が起こしてくれるのだが 今日に限って部屋に来ていない。 珍しいこともあるもんだ、と思いながら、もそもそと起きあがった。 朝食の席についても、京は姿をあらわさない。 「珍しいですね、いつも大和さんと京さんは早いほうなのに」 「今朝は、俺を起こしにも来てないんだよ」 先に来ていたまゆっちも首を傾げる。 やがて、クリス、キャップと住人が集まってきたが それでも京は姿をあらわさない。 「おかしいねえ……由紀江ちゃん、ちょっと部屋の様子、見てきておくれでないかい?」 麗子さんに言われて、二階に上がっていったまゆっちは 戻ってきたときに少し表情をこわばらせていた。 「京さん、具合が悪いそうです。何だか、熱があるようで」 「おや……珍しいこともあるもんだね。 ちょいと見てくるから、アンタたちは朝ゴハンすませちまいな」 }} #pre{{ 257 名前:記録更新・2[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:26:36 ID:uZ7Q1o+Z0 京は、いつもの習慣――たとえば、朝は俺を起こしに部屋に来る――を とても大切にしている。 それができない、というのはかなり重症なのだろうか。 朝食を食べ終わったころ、麗子さんが二階から戻ってきた。 「京ちゃん、かなり熱があるから、今日は学校は無理だね。 昼間はなるべくアタシが見てるから、アンタたちは学校に行っといで」 「ちょっと心配だから、学校行く前に、様子を見に二階に上がってもいい?」 「ああ、いいよ。京ちゃんも、大和ちゃんの顔見たがってたからね。行っておやり」 「では、私も行こう」「私も」俺もー」「……ま、顔見せぐらいはしてやるか」 なんだかんだで、結局残りの住人全員で京の部屋に行き なんとなく俺が代表っぽかったので、ドアをノックする。 「京ー、俺だけどー。入ってもいい?」 『あ……大和……ちょっと待って。 …………どうぞー』 心なしか、声も弱々しい京の返事を待って ゾロゾロと連れ立って部屋に入る。 「あれ……皆、来たんだ」 布団をひっかぶった京がちょっと驚いていた。 「お邪魔します……どうだ、具合?」 }} #pre{{ 258 名前:記録更新・3[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:30:36 ID:uZ7Q1o+Z0 どうだ、なんて聞くまでもなく 京の具合はいかにも悪そうだった。 顔は赤く汗ばんで、目も潤んでいる。呼吸も荒い。 まあ、風邪だろうなぁ。 「うん……そんなにたいしたことない。 ちょっと熱が出ちゃっただけ。ゴメンね皆、心配かけて」 「気にすんな。しかし珍しいな、お前が熱出すなんて。どれくらい熱あるんだ?」 「そういえば、測ってなかった……大和、測って」 「ん……体温計とかあったかな」 「そんなんじゃなくて……おでことおでこで、ペタってして測って」 何そのプレイ。皆もいるのにそんな恥ずかしいことできません。 「いや、ちゃんと体温計で測らないとダメだろ……」 「いいじゃありませんか大和さん」「測ってやれよ、大和」「病人の頼みぐらいきいてやれ、直江」 あれ、何だか拒否しづらい空気に。 「遅刻してしまうではないか。見ていてやるから、早くしろ大和」 「お前らがいるからイヤなんだよ!」 「……二人きりだったら、直腸で測ってもらっていた」 「スイマセンおでこで測らせていただきます」 }} #pre{{ 259 名前:記録更新・4[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:34:48 ID:uZ7Q1o+Z0 「ん……来て、大和……」 布団に横たわった京が目をつぶる。 「いや、熱測るだけだからね!?」 そうは言うものの、俺もなんだかドキドキしてしまっている…… 息を止め、かがみこんで顔を近づけ、額で額にそっと触れる。 京の体温が、かなり高くなっているのを確認して、またそっと顔を離す。 イカン、俺まで顔が熱くなってきた。 「で、熱は何度あるのだ?」 「俺は体温計じゃないんだよクリス……」 「わからなかったのなら、もう一度測ればいいではないか」 冗談じゃない。そんなことしたらホントにこっちまで熱が出ちまう。 「まあ、すごく高いことは確かだ。こりゃ絶対安静だな」 「そうか……我々はそろそろ学校に行かねばならんが、大事にな、京」 「何か食べたいものとかありますか?」 「大和が食べたい……」 食われてたまるか。と思ったが 二人きりだったらヤバくなりそうな雰囲気だった。 「じゃ、行ってくるからな。あんまり麗子さんに世話かけるなよ」 }} #pre{{ 260 名前:記録更新・5[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:39:07 ID:uZ7Q1o+Z0 登校の途中で合流してくる風間ファミリーの面々に 京の病状を説明していく。 「じゃあ、今日の金曜集会、京は欠席ね」 「あー、そうなるなー。というか、ワン子よく今日が金曜って覚えてたな」 朝、京の風邪騒ぎですっかり頭から抜け落ちていたが 今日は金曜だったのだ。 「バカにしないでほしいわね。 武道と食事とファミリーのことは忘れないわよ!」 他のことは忘れまくりだけどな。 と、モロがポツリとつぶやいた。 「京が集会に出ないって、初めてじゃないかな」 誰も、一度や二度は何かの都合で集会を休んだりしているが 京だけはそんなことがない。 もともと、転校していった京が金曜の夜に川神に戻ってくるのを 皆で迎えるための集会だったのだから それが当然といえば当然なのだが。 「……誰か、京が集会に出なかった記憶ある?」 全員が顔を見合わせ、フルフルと首を横に振る。 「……けど、京の金曜集会皆勤記録も、今日までだな」 少ししんみりした、朝の登校風景だった。 }} #pre{{ 261 名前:記録更新・6[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:43:16 ID:uZ7Q1o+Z0 退屈な授業が終わると、いろいろ買いこんでから寮に戻る。 あらかじめ、クリスに許可を貰っておいたので 戻るとさっそく二階に上がり、部屋のドアをノックする。 「京ー、大和だけどー。具合どうだー?」 『あ……おかえり大和。どうぞー、カギあいてるよー』 まだ少し、声に元気がないようだ。 「お邪魔しま……っと、失礼!……って、何やってんだよお前」 部屋の中、京は下着姿だった。 慌てて目を背ける。 「何、って着替え。大和なら見ててもいいよ」 「ああ、寝汗でもかいたか。じゃ、俺ちょっと出てるから」 別に誘惑しようとかそういうんじゃないだろう。 そそくさと部屋を出ようとして、布団がしかれていないことに気づく。 ノロノロと着替えていく服は、京の普段の私服だった。 「おい……パジャマはどうした?」 「パジャマなんか着ない……金曜だもの。集会、行かなきゃ……」 「バカかお前は。あんなに熱があって学校も休んだのに、集会どこじゃないだろ! 今だってフラフラじゃねーか!いいから布団しいて横になってろよ!」 「学校なんかどうでもいいけど……金曜集会はそうはいかないよ……」 }} #pre{{ 262 名前:記録更新・7[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:47:45 ID:uZ7Q1o+Z0 ファミリーの集会に出るという習慣が大事なのはわかるけど ここは無理矢理にでも寝かせつけないと。 「頼むから、自分の体を大事にして 今日の金曜集会は休んでくれ。な?」 京がガックリと肩を落とす。 「……わかった。今日は……諦めるね」 「そうしてくれ。何だったら、俺も今日は集会パスして ずっとお前のそばにいるからさ」 「マジで!?うん、すぐ寝る」 途端に、どろーんとしてした京の目が輝きだす。 なんかその場の勢いで余計なことまで言ってしまったかも。 まあ、素直に寝てくれるんならいいか。 京がおとなしく座って休んでいる間に 押しいれから布団を引っ張り出してしいてやる。 「パジャマは替えたほうがいいな……どこに入ってる?」 「えっと……箪笥の一番上、左のほう」 「ここか……って入ってるの下着じゃねーか!」 「好きなのを選んでいいよ。ちなみに、勝負下着は紫のスケスケのヤツ」 「パジャマはどこなんだよ!」 }} #pre{{ 263 名前:記録更新・8[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:51:48 ID:uZ7Q1o+Z0 何とかパジャマを探しあてる。 「じゃ、これに着替えて」 「んー……大和、着せてー」 どこの小児だよ。というか、できるかそんなこと。 だが、京はすねるようにこんなこと言いだした。 「着せてくれないなら、集会に行く」 「わかったわかった……じゃほら、着てるの脱いで」 「脱がせてー」 ……もうヤケクソだ。 「ハイハイハイ、じゃあ立って立って!ちょっと足開いて! ハイ右足上げて!ハイ次左足!」 揺れる心を鋼に変えて、何とか下を脱がせる。目の前のパンツがまぶしいぜドチクショウ。 「はい、じゃあバンザイして。バンザーイ!」 「バンザーイ」 上を脱がせはじめたときだった。 『京ー、起きてるかー?』『具合はいかがですか?』 イカン、クリスとまゆっちが来ちまった! }} #pre{{ 264 名前:記録更新・9[sage] 投稿日:2011/01/12(水) 23:55:53 ID:uZ7Q1o+Z0 どうするこの状況見られたらヤバイ隠れるかでもそんな場所ないちょっと待ってもらうしかでも待たせる理由が思いつかないッ! 『入ってもいいかー?』 よしここで何か適当なこと言って入るのを待たせてそのすきに京にパジャマをでも何言えばいいんだ何かないか何かッ! 「あいてるよー、どうぞー」 「どうぞ、じゃねええええええ!」 ガチャリ 非情にもドアは開く。 「なんだ、もう大和が来て……」「アイスクリーム買ってきま……」 その場の空気が凍りつく。 下はパンツ一丁、上が半脱ぎで頭から服をかぶっている京だけが 自体を把握できずにもぞもぞと動き回っていた。 「ふっ……不潔です、大和さんッ!」「オラ見損なったぜー!」 「こっ…この狼藉者ー!熱で京が朦朧としているのをいいことに、ななな何ということをー!」 あああああもう!!この誤解を解くには、京に説明してもらうしかないッ! 「いや、違うんだよ!京、ちゃんと二人にどうしてこうなってるか説明してくれよ!」 「え……えっと、大和が、一緒にいてくれて、もう寝ようって言って、私の服脱がせて……(ポッ)」 「ポッ、じゃねーよ!部分的に合ってるけど、はしょりすぎだろソレ!」 }} #pre{{ 265 名前:記録更新・10[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:05:59 ID:GmJqPxu10 結局、否応なしに部屋を叩きだされ 廊下に正座させられたうえで誤解を解くのに10分ほどかかった。 「……ご納得いただけましたでしょうか」 「そうだったんですか……そうですよね、大和さんがそんなことするわけないですよね!」 「まゆっち、さっき、俺のこと見損なったとか言った」 「あ、あれは松風がですね……」「ごめんよー、オラの早とちりだったよー」 まあ、そう思われてもしょうがないシーンではあったが。 「それで、今日の金曜集会は、大和も出ないのか?」 「ああ、京にそう約束したしな。今日はアイツのそばにいるよ」 「そうか……皆には、もう知らせたのか?」 「いや、まだ」 「では、私が伝えておこう。大和は、京のそばにいてやってくれ。 ……勘違いして、すまなかったな」 「ああ、よろしく頼む」 「あと……着替えは、なるべく一人でさせたほうがいいと思うぞ?」 「そう思うんなら、お前も集会まで一緒にいればいいだろ!」 今一つ信用されてないっぽかった。 }} #pre{{ 266 名前:記録更新・11[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:10:00 ID:GmJqPxu10 そして、夕方。 金曜集会に出かけていくクリスとまゆっちを見送って また京の部屋に戻ると、本を読んだりして時間を過ごす。 その間、ずっと京の手を握っていた。 「夕食は食べられそうか?麗子さんがおかゆ作ってくれてるらしいけど」 昼は「食欲がない」ということで食べていないらしいのだ。 「うん……だいぶ楽になったから、夜は食べる。 ちゃんと食べないと、治るものも治らないしね。 おかゆかぁ……ザーサイとメンタイコの買い置きがあるから……」 「辛いものは適当にしとけよ……」 台所に降りて、麗子さんから熱いおかゆの入った土鍋や おかずの乗ったお皿を受け取り、京の食器と一緒に盆に乗せる。 後は、ザーサイとメンタイコだっけ。冷蔵庫の京スペースを漁っていると 「ほれ、大和ちゃん、自分の茶碗忘れちゃダメだろ」 「え、このおかゆ、俺の分も入ってるの?」 「大和ちゃんの分だけ別に作るのもどうかと思ってね。 それに、これなら一緒に食べてやれるだろ?」 道理で量が多いと思った。まあ確かに一理ある。 「じゃ、俺も上でいただきます」 こうして、二人だけのおかゆパーティーが始まった。 }} #pre{{ 267 名前:記録更新・12[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:14:01 ID:GmJqPxu10 「あ、ザーサイけっこう合うな」 「でしょ?中華の朝がゆでは定番らしいよ」 二人でおかゆをすすっていたが、ふっと京が箸を止める。 「ねえ、大和?もし……このまま、私が死んじゃうとしたら 私のこと、受けいれてくれる?」 「バカなこと言うな。今どきの若者が、風邪ぐらいで死ぬか」 「だから、もしも、の話。 実はスッゴイ重い病気で、もう手遅れだってわかったら……」 「そのときは、『治ったらつきあってやるから早く治せ』って言う。 で、治ったら理由をデッチ上げて、なかったことにする」 「大和らしいなぁ……そういうところも、好き……」 「だいたい、そんな同情心から受けいれられても空しいだろ」 「同情から始まる恋もあってもいいと思うよ」 「そんなもんかな」 「レイプから始まる恋もあるらしい」 「いやそれはない。というか、俺がお前をレイプとかありえないだろ」 「逆レイプって知ってる?」 「スイマセンデシタ」 }} #pre{{ 268 名前:記録更新・13[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:18:01 ID:GmJqPxu10 おかゆを食べ終わり、薬は飲ませたが 京が寝付くまではそばにいてやることにした。 とりとめもないことを話しながら、メールチェックとかして過ごしていたのだが 「あれ……けっこう汗かいてるなお前」 「うん……ご飯食べて、暖まったからかな」 「汗拭くか。ちょっと待ってろ、タオル出すから」 えーと、タオルはどこだったかな。さっき箪笥をあけたときの記憶をたどっていると 「ん……なんだ騒がしいな」 なにやら一階がガヤガヤと騒がしくなっていた。 はて、集会が終わるにはまだ早い時間だし こんな時間に誰か客でも来たのだろうか? と思っている間に、騒がしさが二階に上がってきて いきなり部屋のドアが開いた。 「おーす京ー、具合どう……だ?」 ああ、姉さんやワン子が見舞いに来てくれたんだ。 だが、なぜか入り口で固まっている…… まさか、と思い、恐る恐る京のほうを振り返る。 汗を拭くために、上半身を脱いでいるところだった。 慌てて目を背ける俺に、姉さんとワン子の声が飛んでくる。 「お前ら……何してたんだ?」「ギャー!大和変態ー!」 ああ、これはまた廊下で正座かなぁ…… }} #pre{{ 269 名前:記録更新・14[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:22:43 ID:GmJqPxu10 今日は京のために、秘密基地じゃなく京の部屋で集会しよう。 そうキャップが言い出して、皆で島津寮までやってきたのだそうだ。 姉さんたちが部屋に突入したときは、いちおう二階の女子部屋なので 男連中がまだ待機していて一階にいたのが不幸中の幸いだった。 「キャップ……皆……ありがとう」 「なーに、いいってことよ!」 「で、どうだったんだ京?大和は落とせたのか?」 ガクトがニヤニヤしながら京に尋ねる。 「ん……もうちょっとだった」 「おいおい。そう簡単に俺は落ちませんよ?」 「ホントかー?さっきだって、私たちが来なかったら……」 「だから、アレは事故だってば!」 皆がどっと笑う。賑やかな、いつもの金曜集会だ。 「でも、二人きりがよかったのなら かえってお邪魔になってしまったかもしれませんね」 「ううん。これはこれで……すごく、嬉しいから」 そうだな。習慣になっているから大事なわけじゃない。 大事なものだから、守りたいものだから続けてきたんだよな…… その笑顔に、確かに「もうちょっと」かもしれないと思いながら 金曜集会皆勤記録の更新に、心の中でおめでとうを言う俺だった。 }} #pre{{ 270 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 00:26:18 ID:GmJqPxu10 おしまい。単に看病モノを書きたかっただけなので特にオチはなし }}
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