極秘任務

712 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:12:59 ID:ry/HVC0W0
埋めついでにマルギッテ一本投下
713 名前:極秘任務・1[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:15:59 ID:ry/HVC0W0
「……あれ?」

学院帰りにちょっと寄り道をしていたので
寮に帰ってくるのが少し遅れたのだが
なぜかマルギッテが洗面所の前に立っていた。

「あれ、ではありません。帰ってきたのなら
 『ただいま戻りました』と挨拶なさい」

「はあ……ただいま戻りました」

「よろしい。そうやって、目上のものの言うことを素直に聞くのはよいことです」

「で、何してるの?俺、手を洗いたいんだけど」

インフルエンザが流行っているので
うがい・手洗いを絶賛励行中なのだ。

「よい心がけですが、少し待ちなさい。今、クリスお嬢様が入浴中です」

昼間っからあのお嬢は……

「じゃあ、終わったら声かけて」

「いいでしょう。おそらく……はっ!?」

マルギッテの視線が俺の斜め後ろ、少し下のほうに釘づけになる。

「ん?……うぉ、Gか!あ、くそ隙間入りやがった」

振り向いた俺が何かする前に、Gは壁の隙間に消えてしまった。
714 名前:極秘任務・2[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:20:04 ID:ry/HVC0W0
「……直江大和。あのクリーチャーは、よく出現するのですか」

何故か握りしめた拳をワナワナと震わせて
低い声でマルギッテがきいてくる。

「たまにな。清潔にはしてるつもりだが、どうしてもなー」

マルギッテが怖い顔をしながらケータイを取りだすと
たぶんドイツ語で何やら喋っている。
そのうち、ガックリと肩を落とし、俺にケータイを差しだした。

「直江大和。フリードリヒ中将殿が、あなたにお話があるそうです」

「え、俺?」

ていうか、クリスパパに電話してたのか。

「……もしもし?直江大和ですが」

『やあ、久しぶりだね。クリスとは、仲良くしてくれているかね?』

「はい、良き友人としてお付き合いさせていただいています」

『うむ。君はなかなか良識があってよろしい。見所がある。
 そんな君に頼みがある。急な話で申し訳ないのだが
 マルギッテ少尉に協力してやってほしい』

「協力?」

『うむ。今報告を受けたのだが
 その寮に、危険なクリーチャーが出現したそうだね?』
715 名前:極秘任務・3[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:24:04 ID:ry/HVC0W0
おいおい、危険なクリーチャーって、ただのGだぞ。

「危険かどうかはともかく、出ましたね」

『ふむ……危ないな』

「いやただの虫ですからね?」

『私はわかっているよ。不快な虫だが、たいした実害はない。
 だが、マルギッテ少尉はアレを毛嫌いしていてね。
 今も、一個中隊の派兵と、対クリーチャー用装備の使用許可を求められたのだよ』

なんだよ対クリーチャー用装備って。
ていうか、一個中隊が軍の装備でG退治ですか?

『マルギッテ少尉は優秀な軍人なのだが
 アレが相手だと冷静さを保てないようでね。
 一度、家族旅行に出かけた先で、私が目を離している間にアレが出て
 宿泊していたキャンプ場が30分で火の海になった』

危険なのはマルギッテのほうじゃねーか!

『というわけで、君に協力してもらいたいのだよ、直江大和君。
 彼女の行動にブレーキをかけてほしい』

「いや、そんな危険な任務は民間人の俺にはムリっス。
 ……そうだ、クリスさんに頼んでみては?
 マルギッテさんも、彼女の言うことはきくでしょう?」

『……キャンプ場を火の海にしたのは、半分くらいはクリスなのだよ』

二人揃って危険人物かい。
716 名前:極秘任務・4[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:28:11 ID:ry/HVC0W0
『こんなことで、マルギッテ少尉の経歴に傷がついては可哀想だ。
 君も、住んでいる街が廃墟と化すのは見たくなかろうし
 私としても、これ以上日本政府に睨まれるのはマズイ。
 とはいえ、あの不快な虫が大事なクリスの傍を這いまわるのも許せない』

「で、俺にどうしろと?」

『君を、今回特別に、この作戦の指揮官に任命しよう。
 作戦行動中は、マルギッテ少尉は君の命令に絶対服従だ。
 彼女をうまくコントロールして、寮に潜むクリーチャーを殲滅してほしい』

「要するに、お目付け役ということですね?」

『さすがに飲みこみが早いな、その通りだ。
 さらに言えば、この件はクリスには隠しておいてほしい。
 あんな不快な生物の存在を、知らせてしまうだけでも可哀想だからね。
 無論、成功の暁にはそれ相応の報酬を約束しよう』

ふむ。上手く行けばドイツ軍中将の覚えもめでたく
Gもいなくなっていいことづくめだが……

「失敗したらどうなるんですか?」

『これは余談だが。マルギッテ少尉が火の海にしてしまったキャンプ場は
 翌日、不幸な事故で、周囲の国立公園ごとナパーム弾で……』

「必ず成功させます!」

このオッサン、証拠隠滅のために何するかわからんぞ。

『うむ、よい返事だ。では、もう一度マルギッテ少尉に替わってくれたまえ』
717 名前:極秘任務・5[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:32:11 ID:ry/HVC0W0
俺からまたケータイを受け取ったマルギッテが
ドイツ語でクリスパパと何やらまた喋っている。

やがて会話が終わって、ケータイを切ったマルギッテが
俺に向き直ると

「では、ご命令を、隊長殿」

なんて冷ややかな目線で言った。
クリスパパの指示とはいえ、どうも俺が命令する立場なのが気に食わないらしい。
ここはガツンと、軍人になったつもりで応対するとしよう。

「作戦開始は本日2530時とする。当島津寮、玄関前に集合だ。
 装備はこちらで用意する」

「……作戦開始には、少し時間が遅いのでは?」

「勝手に発言するな、マルギッテ少尉!本作戦の指揮官は、私だ!」

「も、申し訳ありません!」

俺の口調に、どこか俺を舐めていたマルギッテの態度が一変した。

「まあいい……この作戦は極秘任務である。
 寮住人が寝静まるのを待たねばならんのだ。他に質問はあるか?」
 
「いいえ、ありません!」

「よろしい!では、時間まで待機して作戦に備えよ!」

「了解!」
718 名前:極秘任務・6[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:36:13 ID:ry/HVC0W0
そして、深夜。

「来ているな、マルギッテ少尉」

「はい、隊長!」

予定の時間に玄関前に行くと
戦闘服に身を包んだマルギッテが直立不動で待機していた。
……近所の人に見られていないといいのだが。

「では、装備を支給する……使い方は、わかるな?」

「このスプレー缶は、対クリーチャー用のガスですね……
 あの、新聞はどう使用するのでしょうか?」

「これは、こう……丸めて、棒状にして、ヤツらを叩き潰す」

「ククククリーチャー相手に白兵戦闘デスカッ!?
 しかもこのような貧弱な武装で!?
 アハトアハトは!?パンツァーファウストは!?」

何と戦うつもりだよ。てか、寮でそんなものぶっ放せるか。

「そんなものはない。これが極秘任務であることを忘れたのか?
 まあ、そう心配するな少尉。直接遭遇しなければこれらの出番はない。
 今回の主な任務は……これの設置だ」

「……この、紙の箱が、ですか?これは一体……?」

「対クリーチャー用トラップだ。これを寮の各初に設置する。
 ヤツらは小さくて素早いからな。これが一番有効なのだ」
719 名前:極秘任務・7[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:40:14 ID:ry/HVC0W0

「このような紙の箱にそんな威力があるとは……
 さすがサムライの国ですね!」

ホイホイとサムライ関係ねえし。

「これがトラップを設置する地点を指定したマップだ。
 効率をあげるため二手に別れよう。マルギッテ少尉は2階を。
 俺は1階に設置していく。最後に、キッチンで合流しよう」

「は、はい……」

別行動と聞いて不安そうなマルギッテの肩をポンと叩く。

「心配するな少尉。2階はヤツらもあまり出現しないのだ。
 もし遭遇してしまったら、無理に戦闘はせず、1階の俺のところに来ればいい」

「隊長……ありがとうございます」

なんかマルギッテの俺を見る目がウルウルしてるようにも見えるが
たぶん気のせいだろう。

「では、行くぞ。健闘を祈る!」

「了解!」

二人して真っ暗な寮に入っていく。
マルギッテは2階に上がり、俺はそのまま1階に。
懐中電灯の明かりを頼りに、予定通りホイホイを仕掛けていく。

そろそろ、敵の本拠地、キッチンというところで
マルギッテが、2階を終わらせて階段を降りてきた。
720 名前:極秘任務・8[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:44:43 ID:ry/HVC0W0
「お待たせしました隊長。2階、設置完了です」

「ご苦労。では、いよいよこれから
 敵の本拠とも言うべきキッチンに突入する。
 設置は俺がするから、マルギッテは後ろから明かりで照らしてくれ」

「ダメです、それでは隊長だけが敵の矢面に……」

「なに、この寮のことなら俺のほうが良く知っている。
 だから俺がやったほうが上手くいくというだけさ」

俺が前でマルギッテが後ろの隊列でキッチンに。
冷蔵庫の後ろ……クリア。食器棚の裏……クリア。
シンクの下の収納スペース……クリア。

「ふう……あと、一つだな」

ゴミ箱の脇。今までもっとも発見した回数が多い所だ。
かがみこんで、ホイホイを隙間に差し込もうとしたとき

カサッ

何かが、動いた。
いや、黒光りしてて長い触覚をウニョウニョさせてる平べったいヤツとかは
もう「何か」なんてあやふやなものじゃなくてGなわけだが。

「マルギッテ……ガス、用意」

背後のマルギッテが震える手でスプレーを差しだした。
ヤツが逃げこめないほどその姿をあらわすまで、息を潜めてそのときを待つ。

「…………今だ!」
721 名前:極秘任務・9[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 00:48:49 ID:ry/HVC0W0
プシュー!
勢い良く噴射される殺虫剤にヤツがバタバタともがき

「ッ!?」

向きを変え、俺たちのすぐ横をすりぬけようとする!
くそ、奥に逃げこむと思ったのに!
ホイホイを放りだし、俺も追うように殺虫剤を噴射するが

「ヒィッ!?」

しまった!ヤツが逆襲飛行しやがった!
羽を広げるその先は、明かりを持ってるマルギッテ!

「……なぁっ!?」 「あ」

……飛びあがったヤツはマルギッテの軍服の襟から服の中に侵入。

「と、取って!取ってください隊長!」

「いや……取ってって言われても……って、えええええ!?」

服の中に手を突っ込むのをためらっていたら
マルギッテがものすごい勢いで着ているものを脱ぎ始める。

「ああああああ、下にぃっ!」

「あ、出てきた……この!」

軍パンを脱いだところで、裾からポロリと出てきたヤツを新聞紙で攻撃。
殺虫剤がかかっていたのだろう、動きが鈍っていたので簡単にしとめられた。
722 名前:極秘任務・10[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 01:00:36 ID:ry/HVC0W0
ヘナヘナとその場にしゃがみこむマルギッテ。
すでにスポーツブラとパンティだけという格好なので、目のやり場に困る。

「えーと……大丈夫か、マルギッテ?」

「も、もう私はダメです……
 きっとあのクリーチャーに、卵とか植えつけられたりしてます。
 このまま、幼虫の餌にされちゃったりするんです……」

どこのエイリアンだそれは。

「そんなことになるぐらいなら……今いっそ一思いに……!」

「オイオイ……あー、その心配はないぞ。コレ、オスだ。
 ほら、この尻尾のところで見分けがつくんだよ」

新聞紙に貼りついてるのをマルギッテに見せて解説……

「ひゃあああああ!?」

するんじゃなかった。
半裸のマルギッテが新聞をはたき落として俺にしがみつく。
しなやかな体が、今は緊張でガチガチになり、震えている。

「まあ、とにかくもう終わった。よく頑張ったな、マルギッテ」

ぎゅ、と抱きつかれたまま、その背中をゆっくりと撫でていると

パチン

キッチンの、明かりがついた。
723 名前:極秘任務・11[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 01:04:39 ID:ry/HVC0W0
「……何をしてるんだ」

「……やあ、おはようクリス」

「おはよう、ってまだ夜中の2時だぞ……
 バタバタ何やら騒がしいので来てみれば
 マルさんが裸で震えているわけだが。
 もう一度きこう……何をした、直江大和ッ!?」

極秘任務、特にクリスには内緒と言われているので
G退治のことは伏せておかねばならないが
この状況、何と言い逃れしたものか……

「クリスお嬢様……実は、私が直江大和を誘惑していたのです」

「マルさん……嘘はやめてくれ。
 そんなことをする理由がないじゃないか」

「いえ、私、実は密かに直江大和に思いを寄せていたのです。
 思い余って今夜寮に忍び込み、夜這いをかけたのですが
 なかなか色よい返事をもらえず、悔しさに身を震わせていたのです」

よくもまあでまかせを並べたものだが
いかにクリスが抜けているといっても、さすがにこれは……

「な、なんと……そうだったのか!」

信じた。さすがクリスだ。
マルギッテは、そそくさと服を着なおすと慌ただしく帰っていった。
帰り際に、俺のことをチラッと見て
頬を染めながら微笑んでいたのが印象的だった。
724 名前:極秘任務・12[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 01:08:41 ID:ry/HVC0W0
翌朝。

「おはようクリス……眠そうだな?」

辺りを見まわしてから、声を潜めてクリスが怒りだす。

「当たり前だ!あんな光景を見せられて、すぐに寝つけるわけがないだろう!
 ……で、マルさんのことはどうするんだ?告白されたのだろう?
 その……受け入れる気は、ないのか?」

あー、そういやそういう設定になってるんだっけ。
設定だけですまなくなった気もするが。

と、クリスのケータイが呼びだし。

「あ、父さまだ……おはようございます、父さま!
 はい?……はい、います。はい……大和、父さまがお前と話したいそうだ」

またかよ。怪訝な顔のクリスからケータイを受け取る。

「おはようございます、直江大和です」

『おはよう、大和君。先ほど、マルギッテ少尉から報告を受けてね。
 よくやってくれた。少尉は君のことを絶賛していたよ』

やっぱり惚れられちゃったかなぁ。その気はなかったんだけどなぁ。

『どうかね、卒業したら、私のところで働いてみないかね?
 君のような参謀タイプも、軍の組織には必要なのだよ。
 君と少尉の二人でクリスを支えてくれると、私も安心して引退できるのだがね』

火の海にはならなかったが、泥沼になったかもしれない朝だった。
725 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 01:10:42 ID:ry/HVC0W0
終わり。大丈夫か、ドイツ軍。
ちなみに、投下終了時で463KB。セフセフ。